番外編ＳＳ「年の瀬」

「馬の骨」

オリバーとトムがギャイギャイと居間で揉めていた。

珍しい。

「何だよ！お前がたまには『合コン』とかしてみろって言ったんだろが？」

「確かに言ったけど、何もよりによってあんなドブスばっかの合コン・・・。そういうのに

は顔出さなくたっていいんだよ！断れよ！」

「兄貴に向かって随分な口利くじゃないか、え？！」

「イテテテ・・・」

オリバーがトムの唇を指で摘まむ。

「お前が言うほどのブスは居なかったけどな・・・」

「いいや！ブスもブス！大ブス共だ！キング・オブ・ブスだ！」

トムのその言い方は今、世の中の多くの女性を確実に敵に回した。




「俺は兄弟の誰かがブスと付き合ったり結婚したりなんか御免なんだ！大体、どこの馬の骨

とも付かん女共だぞ、あの集まりは」

「オイオイ、流石の俺も『馬の骨』とは合コンしないぞ？」

「は？」

オリバーが笑いながら煎餅を頬張った。

「ちゃんと人間だった」

トムは何かがおかしいと思った。

「・・・え、と・・・兄貴？俺の言ってる意味分かってるよな？」

「あぁ、『馬の骨とは合コンするな』って言ったんだろ？骨だけって言うのはやっぱな。そ

れに、馬って種族違うしな。ハハ♪」

「いや、馬の骨って言うのは例えで・・・」

「ん？」

「・・・もういいや。アンタ、そういうトコ流石はルパートの兄貴だな。馬鹿じゃない筈な

んだけど」

「は？」

「いや、ホントもういい。何でも無ぇ」

「っつーか、お前今、ドサクサに紛れて俺の事を『アンタ』って言ったな、え！？」

「イテテテテ・・・」

トムはオリバーの攻撃から逃げ、かなり疲れながら居間から出て行った。

入れ違いでめぐみが入って来た。

「どしたんですかね〜、トムさん？落ち込んだ顔して部屋上がって行きましたけんど〜？」

「あれ、めぐみちゃん。髪型変えた？可愛いじゃない。ワカメちゃんカット」

「あんれ〜、そったら事言われて嬉しいなぁ〜・・・。けんど、一応『木村カエラちゃん』

なんですけんど〜？」

「誰、それ？」

「・・・あ〜・・・別にいいです。ワカメちゃんで」

オリバーの思考はちっとも「平成」ではない。

「オリバーの言葉を真に受けんなよ、めぐみ！オリバーの目は節穴だ！ドブスの定義

が普通と違うんだからな！」

トムが二階の自分の部屋から吠えた。

トムの今の発言も、確実に世の中の女性を敵に回した。

「それに、お前はどんなに頑張っても『木村カエラ』にはならねぇからな！」



「・・・・・アイツって、凄い地獄耳だな。あ、めぐみちゃん、お茶入れようか？」

「あ、私やります〜。お煎餅貰っていいですか〜？」

「一杯食いな。煎餅は弟達あんまし食わないから」

「美味しいですけどね〜、お煎餅」

「だよね〜？ところで『木村カエラ』ってそんなに有名なの？」

「・・・・・・」



・・・・・平和な十二月の「ある日の池照家」だ。

「お尻」

「おい、そこの良い子！チョイお尻引っ込めてくれ。通れん・・・」

ジェームズが大荷物を持ってヨタヨタ歩いて来た。

「・・・・・」

腹ばいになってお絵かきをしていたルパートが、驚愕の顔をして兄を見上げる。

「何だよ？ほら、早くケツ引っ込めろって」

「・・・凄い、ジェームズ・・・。ジェームズはお尻引っ込められるの？」

「あ？」

「僕、お腹しか引っ込められられない。どうやって引っ込めるの？ねぇねぇ、教えて？」

「・・・・・」

ジェームズが固まった。

そこへダニエルが入って来た。

「ルパートぉ〜！今日久しぶりに一緒にお風呂入・・・」

「あ、ダン！凄いよ！ジェームズ、お尻を引っ込められるんだってさ。僕、今からやり方教

えて貰うの！」

「え、凄い！僕も教えて欲しい！」

「・・・・・」

「馬鹿」が二人に増え、ジェームズが本気でちょっと慌てた。

「早くぅ〜、早くぅ〜」

「もったいぶらないで早く教えてよ！」

「あ〜・・・ごめん。言葉のアヤなんだ。だよな？人間、ケツは引っ込めれらん。俺の言葉

が悪かった。っつーか、早くそこどけ！兄ちゃんのこの大荷物が見えんのか、キミ達には？」

「えぇーっ！嘘言ったのー！んもぅ、ウソツキー！ドロボー！」

「は？」

「あ、ルパートは『嘘吐きは泥棒の始まり』を多分略したんだと思うよ」

「略すなよ、そこ。近所に聞こえたら通報されるぞ？」

ダニエルの解説が無くては、この家でルパートと円滑に会話をするのは難しい。

ジェームズは疲れる弟達を通り越し、四段重ねの段ボールを庭まで出しに行った。

遠くの方で、廃品回収のスピーカーが聞こえている。

「・・・壊れていても構いません。テレビやパソコン、冷蔵庫・・・何でも引き取ります」

「うちの馬鹿達も引き取って貰った方がいいじゃね？」

二階からトムがニヤニヤしながらジェームズに話し掛けて来た。

「お前の口の悪さもな」

「フン！放っておけ！くそジェム爺！」

トムはピシャッと窓を閉めた。




そろそろ年の瀬・・・・・。

あなたのお宅にも、「引き取って貰うと良い物」眠っていませんか？



今年も一年、池照家ともども大変お世話になりました。

来年はもっと頻繁に新作アップするよう心がけますんで、よろしくお願いいたします。

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