池照家の「赤ずきん」
★キャスト紹介★
赤ずきん・・・・・河合エマ
狼・・・・・池照ジェームズ
お婆さん・・・・・池照オリバー
<これより本編です>
ある所に、「赤ずきんエマ」と言う女の子がおりました。
「チッ!」
彼女の口癖は、ご覧の通り「舌打ち」です。
今日も、「お婆さんの所へ行って来ておくれ」と言う母親の用事に舌打ちの彼女・・・なか
なかの性格の持ち主の様子です。
「冗談じゃないってのよ!何で私が・・・」
彼女はメンドーな事が大嫌いな上に、自分の利益にならない事を極力嫌います。
まさに・・・そんな所はメチャメチャ現代っ子です。
さて、赤ずきんエマは森の向こうのお婆さんの家に向かう為、今は渋々森の中を歩いていま
す。
「ふ〜ん、バレッタね・・・。それにバスケットに白のソックスにバルーンスカート・・・
何だか私ってば、かなり可愛い『メイド』って感じじゃない♪結構『イケてる』わ。アキバ
の不細工なメイドに見せてやりたいくらいよ」
一人っきりで森を歩いている赤ずきんエマは、自分とその他大勢を比較して高笑いしていま
す。
会話の節々に「バクダン発言」を盛り込みながら・・・。
こんな彼女、背後から「アキバの不○工なメイド」に刺されないといいですね。
「大体、バスケットの中身って何入ってるのかしら?やだ、何これ♪超美味そうなケーキじ
ゃないの!どこのぞババァに上げるなんて勿体ないわ!私が食べちゃうんだから!」
赤ずきんエマはその辺に座り、歩き出して間も無いと言うのにもう休憩です。
大体、「どこぞのババァ」などではありません・・・赤ずきんのお婆さんなのです。
「ふふ♪アプリコットティーなんて持って来ちゃってるのよ、私ってば。超『乙女』って感
じ〜♪チッ、蚊が多いわね、ここ・・・」
(注)・・・乙女は舌打ちなんかしないのです。
「・・・ジェームズ、そろそろ出番だけど?」
物語の監督役のダニエルは、舞台の袖から狼役のジェームズを突っ突いた。
「いや・・・エマちゃん、何だか自分の世界に入っちゃってて、俺なんかが出て行かない方
がいいかなぁ〜なぁ〜んて・・・」
「ダメだよ!ここで一旦『狼』に遭遇しておく必要があるんだから。原作にもそう書いてあ
る」
「なら、仕方ない・・・行くわ、俺」
「よし。はい、アクション!」
「ははは♪『はい、ハクション』だって、ダン。ははは♪」
ルパートが聞き違いをして笑っている。
が、むしろ笑われるのは君の方である。
「よぉ、ねーちゃん」
狼が赤ずきんに話し掛けました。
「カァ〜ット!ダメだよ、ジェームズ。『そこの彼女〜』でしょ!」
「そうだった・・・よぉ、そこの彼女〜!」
監督のダメ出しが入った後、お話は無事再開です。
「・・・何だ、アンタの方?てっきり狼役はオリバーだと思ってたわ」
「いやぁ、俺もさ、その方がエマちゃん喜ぶって言ったんだけど、うちの婆さんが『婆さん
役』になっちゃったからさ・・・」
「あら、じゃあ『お婆さん』役はオリバーなの?先に言ってよね、それ!じゃあ、こんなト
コでケーキ食ってお茶飲んでる場合じゃないじゃない!ゲッ・・・私、オリバーに・・・
いえ、お婆さんに持ってくケーキ半分食っちゃったわよ!どうするのよ!」
「え、それ俺に言う?」
「何とかしなさいよ!」
「あ〜・・・ケーキは元から無かったって事にしちゃうってのは?」
「最悪なアイディアね。全くセンスが無いわ。でも・・・確かにそうね。可愛い私が会いに
行くだけでオリバーは・・・いえ、お婆さんは喜ぶと思うもの」
「・・・・・」
「そうよね?」
「ま、ね・・・」
強制的に狼を従わせる赤ずきんエマです。
「話は決まったわ!じゃ、ケーキは食べちゃわないと。あ、アンタも少し食べる?お茶なら
あるわよ」
「お、いいね♪流石『女の子』!」
「当然よ!フフン♪」
ジェームズ狼が草むらの上に、あぐらを掻いて腰を下ろしました。
「そのイチゴのトコは私だから!あ、あとそこのチョコのトコも!」
「・・・俺、スポンジのトコだけかい?」
「しょーがないわね。じゃ、気の毒だからこのバナナのトコをちょっとだけ上げるわ。優し
い赤ずきんで良かったわね、ジェームズ?」
「ま、ね・・・」
やっぱり人を「強制的に従わせる」、ヤクザのような赤ずきんエマです。
あまり「優しい」とは言えません。
二人はケーキを食べながら、昨日見た「アメトーーク」などの話に大盛り上がりでした。
「・・・遅いっ」
その頃、お婆さんオリバーはシビレを切らしていました。
「そろそろ俺を食いに来る『狼出現の時間』なんだけどな。ジェームズの奴、出トチリして
『オシ』てんのかな・・・お、来た来た!」
窓の外に狼ジェームズが見えました。
狼ジェームズは腹を抑え、ヨロヨロ歩いています。
「くそ〜・・・あのバナナ絶対ぇ腐ってた。誰だよ、あのケーキ持たせた奴?」
「あれ?ねぇ・・・確かルパートだったよね、ケーキ係?」
「・・・・・」
ダニエルが横の小道具係のルパートをチラッと見上げた。
ルパートは無視したままだ。
「『バナナ腐ってた』ってさ、ジェームズ」
「・・・気のせいだと思うモンね」
「どうしてバナナが腐ってたんだろね?」
「・・・僕、知らないモンね」
ダニエルはジッとルパートの事を見つめている。
トムが横から口を挟んで来た。
「俺が知ってるトコによると、確かお前がバナナんトコ食っちまって、ホトケさんのトコに
ずっと供えてあったヤバいくらい黒くなったバナナで誤魔化したんじゃなかったっけ?」
「言わないでよー、トムー!」
ルパートがポカポカと兄を殴った。
「だって、ホントの事だろ?」
「でも言わないでよー!だって、バナナ食べたかったんだモン!ケーキ美味しそうだったん
だモン!」
「そうだね・・・『ケーキを食べなかった』だけ、まぁ『良し』としてあげるよ、ルパート
。けど、もうダメだからね」
「はぁ〜い♪」
ルパートは良いお返事をして、ダニエルにニコッと笑い掛けた。
「くぅぅぅ〜〜〜・・・その顔っ!可愛いから、僕、許したくなっちゃう♪」
「わーい、ありがとー、ダン♪だから大好き♪」
「くぅぅぅ〜〜〜・・・『大好き』だってさ。やったね♪」
「・・・馬鹿兄弟」
トムは馬鹿げた弟達の会話にケッと呆れた顔をし、ソッポを向いた。
コンコン!
物語を再び再開します。
「どなた?」
オリバーお婆さんが訪問者に尋ねました。
「俺!」
「『俺』じゃねーだろが!『狼だぞー』だろ?」
「あ、そうだ・・・って、トイレ借りていいかぃ、婆さん?」
「来た早々、いきなり『トイレ』かよ?緊張感のカケラもねー奴な」
「MAX危険な状態なのよ、俺の腹・・・・うぉっ、マジヤバいっっ!」
ジェームズ狼はお尻を抑えてトイレに駆け込みました。
「○*×●$▼%☆△×★!!」
・・・かなり豪快な物凄い音です。
車のエンジン並みのドデカイ破壊音がトイレの中で響き渡っています。
「お〜い・・・大丈夫かよ、そこの狼さんよぉ〜?」
オリバー婆さんはやる気がダウンです。
「う〜・・・腹痛ぇ・・・」
ジェームズ狼がゲッソリした青い顔でトイレから出てきました。
「ジェームズ!お前、これから『俺を食わないとイケナイ』んだぞ?大丈夫なのかよ?」
「いや・・・今、無理」
「って、そろそろ赤ずきん来るぞ?」
「『婆さん食った』って事にして、兄貴はトイレにでも隠れてくれよ?」
「えぇっ?ったく、しょうーがねぇーな・・・って、臭ぇっっ!お前、『トイレその後に
』ちゃんとしとけよなっ!」
「悪い・・・あ、赤ずきんだ。早く隠れろ、婆さん!」
「臭くて堪んねぇぞ・・・」
オリバー婆さんはブツブツ言いながらトイレに隠れました。
コンコン!
「・・・どうぞ」
中から声がしたので、赤ずきんエマはドアを開けて中に入りました。
ベッドにオリバー・・・いえ、お婆さんが眠っています。
赤ずきんエマはちょっぴりドキドキして顔を赤らめています。
「あら、お婆さん・・・どうしたの?」
ベッドに入っているお婆さんを見て、赤ずきんは尋ねました。
「・・・腹が痛くてね・・・もっとこっちへ来て可愛いお前の顔を良く見せておくれ」
「『可愛い』っ!?テ、テレるわね・・・////////」
赤ずきんエマはモジモジしながらベッドに近付いて行きました。
「あら、お婆さん・・・どうして寝ているのに帽子を被ってるの?」
「・・・床屋に最近行けて無くてね、寝癖が酷いんだよね」
「まぁ!ま、私はそんなオリバーも好きだけど♪」
「・・・・・」
「でも、お婆さん・・・どうしてマスクをしてるの?風邪?」
「・・・ヤバいバナナ食って、ちょっとゲロ吐きそうだからだよ」
「ゲ、ロ?う〜ん・・・それは流石の私でもちょっと・・・。でも、オリバーのゲロだもの
ね。きっと・・・多分、大丈夫だと思うわ。でも、頑張れなかったら・・・ごめんなさい」
赤ずきんエマは一人で頭の中でシュミレーションしては「う〜ん」と唸って、考え込んでい
ます。
「でも、どうして手袋までしてるの、お婆さん?」
「それはだね、トイレ出た後に手を洗って無い事に気付いて・・・。お前に触るのが申し訳
無かったからだよ、赤ずきん!んがぁーっ!」
ジェームズ狼は、猫ひろしの「ニャーッ」みたいな手をして豪快にベッドから起き上がり
ました。
「きゃ〜・・・って、何でアンタ?オリバーは?」
「便所」
赤ずきんエマは突然態度を豹変させました。
好きでも無い人に「可愛らしさ」をアピールする理由は無いからです。
「アンタに会いに来たんじゃないのよ、私。オリバー?ここに居るの?私よ!可愛いメイド
服の河合エマよ♪開けるわよ!」
赤ずきんエマは、トイレのドアをドキドキしながら開けました。
「う、臭っっ!」
赤ずきんエマが鼻を抑えて仰け反りました。
「俺じゃないっ!ジェームズなの!」
オリバーは自分の身の潔白を必死に訴えています。
「・・・き、強烈」
赤ずきんエマは後ろにぶっ倒れてしまいました。
「おいおい・・・そんなかい?幾らなんでも・・・まぁ、臭いわな。確かに」
ジェームズが「ははは」と笑って赤ずきんエマを抱き起こしました。
「取り敢えずベッドに寝とけ、エマちゃん。で、俺っちはもう一回『トイレの人』になるわ
。婆さん、そこチェンジ!」
「言われなくっても出るわ!臭くって死にそうだ」
「可愛い弟の屁の臭いくらい、我慢してくれよ。お兄ちゃん♪」
「可愛くねーだろ!同じ顔だ!」
「・・・何だよ、この劇?」
トムが溜め息を吐いた。
「・・・やっぱルパートのせいかもね」
「何でだよー!ダン、さっきは許してくれるって言ったじゃーん!ケチー!」
「ケチじゃないだろ!ルパートがバナナ食べちゃったからこんな事に・・・」
「だってさー・・・バナナがさー!あ、そろそろしーちゃんの餌の時間だ」
ルパートが話題を変えた。
この男にしては姑息な手を使う・・・少しは学習したか?
「カメの餌の時間なんか気にしてんのかよ、お前・・・。気ぃ使うトコ、そこじゃねーだろ
?」
「フンッ!トムなんかベーだ!」
ルパートは席を立って居なくなってしまった。
「おい、ダニエル・・・これ、どういうオチにするつもりだよ」
「・・・・・」
「監督はお前なんだぞ?」
「・・・・・」
「死んだフリすんなよっ!」
トムは末っ子に詰め寄った。
「あ・・・僕、そろそろ宿題しないと」
「おいっ、逃げんなっ!こらっ!」
トムが呼び掛けたが、ダニエルも居なくなってしまった。
「さぁ、みなさ〜ん。初モノのトウモロコシ茹でましたよぉ〜」
めぐみがザル一杯にトウモロコシを茹でてノシノシ歩いて来た。
「わーい、トウモロコシだー♪」
「おい、おまえカメの餌やりに行ったんじゃねーのかよ!」
トムがルパートにツッコンだ。
「わーい、トウモロコシ♪」
「おい、お前も宿題やりに行ったんじゃねーのかよ!」
トムが今度はダニエルにツッコンだ。
「やったね、トウモロコシじゃん♪」
「おい、お前腹下ししてたんじゃねーのかよ!あ・・・」
「てめぇ・・・お兄様に向かって『お前』たぁなんだ!『お前』たぁ、あぁんっ?」
「イテテテテテ・・・」
弟の失礼な言い方にキレたジェームズが、トムのこめかみにグリグリ攻撃をしている。
「・・・私、オリバーが口移しでトウモロコシくれたら起きるって設定で目を覚ます事にす
るわ!」
「あのね、エマちゃん?それだとお話が変わっちゃうから」
最後はオリバーが〆、みんなが「ははは」と笑い合った。
向こうではしーちゃんがノシノシと庭を歩いている。
「あのぅ〜・・・猟師役の僕はいつ出て行けばいいんでしょう?」
レオンハルトがオモチャの鉄砲を構え、障子の後ろからひょっこり顔を出した。
「残念だけど、お前の出番は幾ら待ってももう来ねぇと思うぞ?おー、めぐみー。俺にお茶
!」
トムがトウモロコシに食らい付きながら、辛辣にレオンハルトに言い放った。
「はい〜」
めぐみは「よっこらしゃーのしゃ」と言いながら、トムの為にお茶の準備をし始める。
「・・・・・」
「レオンハルトさんもトウモロコシ、いかがですか〜?」
魔法びんから急須にお湯を入れ、めぐみは全員分のお茶を入れてやった。
「勿論、頂きますよ。めぐみさんが茹でてくださったトウモロコシですからね」
めぐみの誘いに、さっさと鉄砲を置いて参加して来たレオンハルト。
なかなかゲンキンな男だ。
と言う事で、ダニエル初監督の「赤ずきん」はこうしてグダグダなまま幕を下ろしたとさ。
おしまい♪
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