池照家の「桃太郎」


★キャスト紹介★

・桃太郎・・・池照ダニエル
・おじいさん・・・レオンハルト・ハインリッヒ
・おばあさん・・・蒲生めぐみ
・犬・・・池照ジェームズ
・キジ・・・河合エマ
・猿・・・池照トム
・赤鬼・・・池照ルパート
・青鬼・・・池照オリバー




<これより本編です>



昔々ある所に、おじいさんとおばあさんが暮らしていました。

おじいさんの名前はレオンハルト、そして、おばあさんの名前はめぐみです。

おじいさんは芝刈り・・・ではなく、凄腕院長として大手病院に勤務しているので、運転

手付きのハイヤーで出勤し、おばあさんも川へ洗濯・・・ではなく、セレブの敵、憎き肥

満を退治する為にダイエットとして、ホテルの中にあるラグジュアリーなスポーツジムへ

通っていました。



プールでビート板を使ったアクアビクスを楽しんでいたおばあさんの元に、どんぶらこど

んぶらこと、どこからともなく大きな桃が流れてきました。

「美味そ・・・」

おばあさんは一緒に水泳クラスに参加していたメンバーに分ける事無く、一人でその大き

な桃を抱えて家に帰って行きました。

折角のダイエットもこれで一からやり直しです・・・おばあさん、どんだけ桃好きなんで

しょうか?

自称・残業を終えて帰って来た少々疑わしいおじいさんが、独り占めしてキッチンの片隅

で桃を切ろうとしているおばあさんを見つけ、「めぐみさん、半分よこしなさい」と丁寧

な口調で威張り散らしました。

おばあさんは、折角独り占めしようと思っていた桃を半分も取られる事にブツブツ文句を

言いましたが、多額の給料を家に入れてくるおじいさんと別れるつもりはサラサラありま

せん。

仕方なく、半分桃を与える代わりとして、夫に真ん中で切って貰う事にしました。

おじいさんはメスを持たせたら世界一の名医だったので、真っ二つに桃を切る事なんか、

お茶の子さいさいです。

                                                      

ズブッ・・・。

 

何だか今、嫌ぁ〜な音がしました。

 

「痛ぇーーーーーーーーっっ!」

 

案の定、桃の中から生まれた元気な赤ん坊・・・もとい、すっかり青年と化した真っ裸の

ダニエルが・・・いや、桃太郎・ダニエルが頭から流血しながら飛び出しました。

どうやら気分良〜く眠っている所を、おじいさんにメスで刺された模様です。

これはハッキリ言って相当痛いです!

「何するんだ、レオンハルト君!」

「ごめん、ごめん・・・でも、僕はレオンハルト爺さんだよ?」

「何でもいいから、治してくれ・・・このままじゃ死んじゃうよ!」

普通なら彼の手術代は何千万円もする「ブラック・ジャック並み」のアコギな金額でした

が、自分で刺してしまった手前、無料で彼の頭を元通りにしました。

その時間、僅か10分です・・・流石は名医です。

おばあさんは血だらけになった桃をちゃんと洗って、やはりおじいさんには内緒で、キッ

チンの隅の方で、一人でとっとと食べ切ってしまいました。

勿論後でおじいさんに見つかり、華麗なキメポーズでこっ酷く叱られましたが、腹に入っ

てしまえばもうこっちのモンです。

結婚当初は初々しい妻も、数年の時を経て図々しい女に変貌するのです。

めぐみ婆さんも、まさに「ソレ」でした。

変わらないのは、語尾上がりの発音だけです。

真っ裸で桃から出て来た桃太郎・ダニエルの裸を見ても、「キャッ」もないほどに初々し

さからは遠ざかっていました。

 



「桃太郎・ダニエルや・・・君、都の鬼を退治して来なさい」

おじいさんは生まれたばかりで、しかも、15分ほど前に出会ったばかりの桃太郎・ダニ

エルに、いきなりの依頼です。

「何で僕が鬼を退治しないといけないんだ?ってか、展開が早いぞ?!」

桃太郎・ダニエルの尤(もっとも)な意見に、おじいさんは暫し言葉を詰まらせました。

「あ〜・・・とにかく、物語とはそういうものなのです。鬼がいるから鬼退治・・・これ

昔話の常識!」

かなりテキトーなおじいさんは、ウインクして誤魔化しました。

「一人で鬼退治は嫌だ」

桃太郎・ダニエルはイマドキの若者でしたので、メンドーが嫌いです。

「どうぞ〜コレ、都に向かう道中食べてくんちぇ〜」

語尾上がりの発音でおばあさんはきびだんごを桃太郎・ダニエルに強引に手渡すと、さっ

さと家から追い出しました。

 



「全く・・・厄介者を追い払うみたいな爺さんと婆さんだ・・・」

ある意味・・・・・確かに彼は「厄介者」です。

プールでアクアビクスしていたおばあさんの邪魔をした訳ですから・・・・・。

桃太郎・ダニエルはムシャクシャしながら早速きびだんごを一つツマミ食いです。


「ぐ・・・」


桃太郎・ダニエルは近くの自動販売機で水を買い、半分まで一気飲みしました。

「・・・もの凄くのどに詰まるきびだんごだ・・・死ぬかと思った」

桃太郎・ダニエルはきびだんごに対し、慎重になりました。


「おい・・・それ一つくれよ」


エラソーな態度の犬が居ました。

胡坐(あぐら)を掻いて、漫画を読んでいます。

名前を聞くと、「ジェームズ」と答えました。

「何でお前にきびだんごを上げなくっちゃいけないんだ?」

「『お前』ったぁ、誰に言ってる!こんにゃろ・・・」

「ぐるじ・・・『台本』にそう書いてあるんだよ!」

桃太郎・ダニエルが咳き込みながら、ジェームズの手を首から払い除けました。

「鬼退治に行くんだろ?暇だから付き合ってやる・・・だから一つそれくれよ」

「・・・・・」

桃太郎・ダニエルはより吟味して、一つきびだんごを犬に上げました。


「辛っ!」


あはははは♪それ、カラシ入りなんだよね。あははは♪

「てっめー・・・」

桃太郎・ダニエルはちょっとした悪戯心を出したばかりに、ジェム・犬に苛められ、本気

で泣きました。

それでも物語は続きます。



ジェム・犬は、桃太郎・ダニエルと行動を共にする事にしました・・・きっと、よっぽど

暇なんです。

暫く二人が歩いていくと、生意気そうなキジに出会いました。

ガードレールに座ってケイタイメールをチェックしながら、なぜかチュッパチャップスを

舐めています。

「ねぇ、その腰に付けたきびだんご、一つよこしなさいよ」

犬以上の横柄な態度・・・相当性格の悪そうなキジです。

「何だ、お前は?」

桃太郎・ダニエルが聞くと、「エマよ!文句ある!?」と、これまた上目線から答えてき

ました・・・かなり恐いキジです。

ただ、鬼退治するのには役に立ちそうなキジでしたので、きびだんごを一つ分け与え、仲

間にする事にしました。



三人が更に歩いていくと、今度は女の子にキャーキャー言われてる、人気者の猿に出会い

ました・・・相当にモテモテの猿です。

桃太郎・ダニエルはカチンと来たので、猿を素通りしました。

「おいっ!無視すんなよ!」

猿に呼び止められて、足を止めた桃太郎・ダニエル・・・小さく舌打ちしました。

「俺も連れてけ」

「定員オーバーだよ」

「嘘ぶっこいてるんじゃねーぞ、コラッ!」

「・・・ここにいて、そのままモテてればいいだろ?」

「都にはもっとイイ女が居るって聞くからよ」

猿はまだモテ足りていないようです・・・もの凄い自信家です。

「お前の名前は?」

「俺はトム・・・知ってんだろ?」

「・・・・・」

やはり、相当な自信家です・・・トム・猿。

まぁ、これでいよいよメンバーは出揃いました。

あとは都を目指すだけです。

 



都に着くと、桃太郎・ダニエル一行は、すぐさま鬼の家の門を叩きました。

 

ドンドンドンッ!

 

「誰―?」

何だか、拍子抜けする受け答えが家の中から帰って来ました。

「あ〜・・・僕、桃太郎・ダニエルです!ここは鬼の家ですか?!」

「そーだけど?」

中から、赤毛の鬼が顔を覗かせました。

 

ドッキン♪

 

桃太郎・ダニエルのポイントを付いた、可愛い鬼が登場しました。

「あの、あの、あの・・・」

桃太郎・ダニエルは緊張すると思いっきりドモる体質です。

「誰だ、ルパート?」

中からもう一匹鬼が出てきました。

「・・・素敵♪」

キジ・エマの目がすっかりハートになってます・・・相当好みのようです。

「あ、あの、僕、僕達、あの・・・」

「トイレなら使って良いよ、すぐそこ」

ルパートと呼ばれた鬼は、かなりとんちんかんでした。

けれど、そこが益々桃太郎・ダニエルのポイントを付いてきます。

犬と猿だけは、お構い無しに二匹の鬼に向かって蹴りやパンチ、BB弾を投げつけました。



「痛いでしょー!」

ルパート鬼はすぐ泣きました・・・とってもヘタレです。

「何するっ!」

怒ったのは同じ鬼のオリバーではなく、桃太郎・ダニエルの方でした。

桃太郎・ダニエルは低い自分の身長を生かし、犬と猿に「カンチョー」しました。


「イデーーーーーッッ!お前こそ、何するっ!?」


犬と猿はお尻を押さえながら、メチャクチャ怒ってます。

そりゃそうです・・・不意打ちの「カンチョー」なんて、誰だってされたくないです。

「鬼退治に来たんだろ、俺ら?鬼を退治して何が悪い。とぉっ!

犬と猿は今度は、大きな鬼に向かって輪ゴムを投げ付けたり、ネズミ花火を仕掛けました。

オリバーはその場でピョンピョンと情けなく跳ね飛びました。

「アイテテッ!」


「オリバーに何すんのよ、馬鹿っ!」


愛するオリバー鬼を攻撃した犬と猿に、キジ・エマが反撃しました。

「だから、俺達鬼退治に来たんだろ?!」

「やるんなら、向こうの赤毛の鬼だけ狙いなさいよ!」

「ダメだよ!こっちの鬼に攻撃したら僕が許さないぞ!やるなら、向こうの若干くたびれ

た、ノッポの鬼だけにしてくれ!」

「何だと、こんにゃろ・・・」

オリバー鬼が桃太郎・ダニエルのこめかみにグリグリ攻撃をしました。


「アイデデデデーーーッ!」


「うるさいよ・・・あ、もうドラえもんが始まっちゃう!」

ルパート鬼はケロッと泣き止んで、さっさと家の中に引っ込んでしまいました。

「あ、僕も一緒に見る!」

桃太郎・ダニエルが後を追いました。

「あ〜・・・そろそろ晩飯の時間だな。何作るかな?」

オリバー鬼は食事担当のようです。

「スーパーに行くなら、私もお手伝いします!料理は超得意です♪」

キジ・エマは大嘘を付きました。

思いっきり口から出任せです・・・キジ・エマは料理なんて一度だってした事が無いのです。

 


「じゃあ、もうアンタ達はもう村に帰りなさいよ!」

キジはシッシッと犬と猿を追い払いました。

「いや、折角だから俺は晩飯食ってから・・・」

ジェム・犬は、図々しくも家に上がりう込もうとしました。

「アンタを泊めるような部屋は無いのよ!とっととお帰りっ!

キジ・エマはピシャリと門を閉じました・・・これが彼女の本性です。

「・・・・・」

仕方なく犬と猿は家に帰る事にしました。

「ったく・・・何なんだよ・・・」

道すがら、ずっと二人で文句を垂れ続けました。

 




村に帰ると、おじいさんとおばあさんが家の前で、桃太郎の帰りを待っていました。

「おや・・・君たちだけかい、帰って来たのは?」

おじいさんは、何やらキランとした目付きで猿を見つめました。

「あ〜・・・あいつ等はあのまま、多分鬼と暮らすんじゃないか?」

猿は「ケッ!」と毒づいています。

「君はとても魅力的だね。このまま僕達と一緒に暮らさないかい?」

レオンハルト爺さんは、さっさと猿を家の中に通しました。

「俺には家があるっ!家に・・・あ、コラ、放せっ・・・」

レオンハルト爺さんは、嫌がる猿を強引に家の中に連れ込みました。

「じゃあ、俺は帰るわ・・・んじゃーな」

「はい〜、ご苦労様でしたぁ〜」

おばあさんに見送られ、犬だけが帰りました。


犬は相当に腹ペコでした。

帰り際にコンビニに立ち寄り、ロング缶のビールを二本と新発売のカップラーメン「バカ

盛り一丁」、それに季節限定の「佐世保バーガー」とおにぎりを二個買い、家路に急ぎま

した。

そして、お笑い番組を見ながら、いつも通りの楽しい夕食を堪能しましたとさ・・・。




ps・・・
野菜も少し食った方がいいと思います、ジェム・犬・・・・・。

 

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