池照家の「白雪姫」
★キャスト紹介★
白雪姫・・・・・池照オリバー
お妃兼魔女・・・・・池照ジェームズ
小人・・・・・レオンハルト・ハインリッヒ
小人・・・・・蒲生めぐみ
小人・・・・・池照トム
小人・・・・・河合エマ
小人・・・・・池照ダニエル
小人・・・・・池照ルパート
<これより本編です>
昔々ある所に白雪姫・オリバーと言うお姫様がいました。
(・・・そこ、笑わないように!)
「はぁ〜・・・」
朝、起きた瞬間からお疲れモードのオリバー姫。
首を回すと「ゴキッ!」と言う凄い音が鳴りました。
そして彼は、ベッドの脇に設置してある通信販売で購入したミニ冷蔵庫を開け、やおら一
本の「オロナミン・E」を取りました。
「何で毎日毎日、朝が来るんだろ・・・。ってか、俺は姫なのに何で毎日毎日疲れてんだ
ろ?」
オリバー姫は本当に年中疲れていました。
だから、毎日朝が来るのが大嫌いなのです。
彼の好きな時間は、夜お風呂場に熱燗(あつかん)を持ち込んで、演歌を歌いながら軽く一
杯やるひと時でした。
そんなオリバー姫が住むお城の塔の「とある部屋」では、オリバー姫と血の繋がらないお
妃が居ました・・・「ジェームズ」と言う名前です。
(・・・そこ、また笑わないように!)
オリバー姫とジェームズ妃はかな〜り顔が似ています・・・でも、血が繋がっていません。
「白雪姫」と言うお話はそういう設定なのです。
「鏡よ、鏡よ、鏡さん・・・この世で一番美しいのはだ〜れ?」
彼は昨日の夜に届いたばかりの鏡で、「美人診断」を始めました。
数日前にアマゾンで購入したものです。
城から町まで買い物に行くのは人目も尽きますし、色々大変なので、城の中の住人はこう
してネットショッピングやテレビショッピングで買い物をするのです。
しかし買ったその鏡は、残念な事に「空気を読む能力」に少々欠けていました。
(購入するときには分からなかった事です)
「それは『白雪姫・オリバー』です」
鏡は正直に答えました。
「・・・・・」
お妃は面白くありません。
嘘でも良いから「お妃」と言っておけばいいモノを、鏡は本心で答えました。
大体、お妃に言わせれば「同じ顔だろ!?」・・・と言う事です。
その日からオリバー姫に対するお妃の一つ一つが、「嫉妬」と言う名の陰険なイジメに変
りました。
オリバー姫の本棚の本のカバーを全部取ってしまったり、迷惑メールを何百通と送ったり
、トイレットペーパーの予備を入れておかなかったり、お弁当の中に彼の嫌いなカニクリ
ームコロッケを入れたり・・・目を覆(おお)うばかりの酷いイジメっぷりです。
お妃はとってもネガティブなのです。
(「俺は、ホントはネガティブなんかじゃねーぞ!」注・・・ジェームズ談)
そんなある日の出来事です。
「おい、オリ婆・・・いや、オリバー姫や。俺の使いをしてくれないか?」
ジェームズ妃がオリバー姫を使いに出しました。
この国の城には不思議な事に、どうやら「家来」が不在のようです。
何やら含みがありそうな優しさのお妃・・・しかし、オリバー姫は携帯用の「オロナミン
・E」を二本ばかり懐に持つと、「よっこいせ・・・」と、まるで本当に「婆さん」のよう
な掛け声で出発して行きました。
「シメシメ・・・」
お城の塔から、ジェームズ妃がそんなオリバー姫を見送りました。
そして自分もソソクサと黒尽くめの衣装に着替え、姫が育てている菜園からキュウリを一
本失敬すると、森の中に入って行ったのでした。
どのくらい森の奥地まで入った頃でしょう・・・。
オリバー姫はくたびれて、大きな岩に座りました。
「ここいらで一本のいっとくか・・・」
持って来た「オロナミン・E」のキャップをキュッと捻(ひね)り、グッタリした猫背で今
まさに栄養補給をしようとした所に、「正真正銘の婆さん」が大袈裟に倒れ込んで来ました。
物凄くアピール度の高い老婆です。
「・・・どうした、婆さん?」
オリバー姫が足元の老女に声を掛けました。
「くたびれて、もう、歩けん・・・」
「そうか・・・アンタも大変だな・・・ん?」
老婆はオリバー姫が持っていた「オロナミン・E」をジッと見つめています。
「あ〜・・・これは一本しかないから・・・」
オリバー姫は嘘を付きました。
老婆は何か特別な力でもあるのでしょうか・・・オリバー姫が懐にもう一本隠し持ってい
るのを分かっているような視線で、胸の辺りをジッと見つめました。
「あ〜・・・確かに、もう一本ある。あるけどさ・・・これ、老人が飲むと毒だから・・・」
オリバー姫はまた嘘を付きました。
どうにも老婆に「オロナミン・E」を上げたくない様子です。
老婆はそれでもジッとオリバー姫を見つめました。
オリバー姫・・・一口飲んだ所で降参しました。
「分かった、分かった。しょうがない、一本1000円で・・・分かったって。嘘だよ。
そんな目で見るな。ほら」
懐から開けていない「オロナミン・E」を取り出し、それを仕方なく老婆に分けてやりま
した。
「スタミナ切れで、俺帰り、道端でくたばっちまうかもな・・・」
オリバー姫はブツブツ言いながら、飲み掛けの栄養ドリンクを飲み干しました。
老婆は栄養補給を終えると、スカートを捲って何か長細い物をニョキッと取り出しました。
「おぃっ・・・」
オリバー姫は一瞬ソレを、何かちょっと卑猥(ひわい)なモノだと思ってドキドキしました。
考え過ぎです、姫。
オリバー姫はホッと胸を撫で下ろしました。
緑色のモノの正体は、いい具合に育った「キュウリ」でした。
「召し上がってくだされ」
老婆・・・これはひょっとして、オロナミン・Eに対する礼のつもりなのでしょうか?
「・・・スカートの中から出したモノを人に勧めるのか、アンタは・・・」
「召し上がってくだされ」
かなり強気な老婆です・・・グイグイオリバー姫にキュウリを押し付けてきます。
「・・・・・」
オリバー姫は嫌な物を受け取るような顔でそのキュウリを貰い受け、「どーもね、お婆ち
ゃん」と懐に入れようとしました。
「ここで召し上がってくだされ」
「・・・今食いたくない気分なんだよ。後で食うから・・・な?」
「ここで召し上がってくだされ」
やはり強気なお婆さんです。
絶対に自分の意見を曲げない「頑固婆ぁタイプ」のようです。
「俺さ、実はキュウリアレルギーで・・・」
先ほどから尽く嘘ばかり言うオリバー姫を、老婆が疑わしそうな目でジッとを見つめました。
「分かった、分かった・・・食うよ!食います!食えばいいんでしょ!確かに・・・見た
目は美味そうなキュウリだ。俺の庭のキュウリも、そろそろ食べ頃が確か一本あったはず
だな。ほら、食ったぞっ!」
オリバー姫は腹を据(す)えて、老女がスカートの中から出してきた生ぬるいキュウリをガ
ブリッと齧(かじ)りました。
「う・・・」
何と・・・オリバー姫は齧(かじ)った、歯形が付いたままのキュウリをポロッと地面に落
とし、倒れてしまいました。
ピクリとも動きません。
「ガハハハハッ!してやったりっ!」
老婆・・・誰に向かってか知りませんが、思いっきりダブル・ピースです。
老婆の正体は実は、変装していた城のお妃だったのです。
「それは俺が毒を注入した、お前の作った可愛いキュウリだ!がはははは!あ〜、成
功したら無性に腹が減った・・・」
白雪姫・オリバーは自分の役も一瞬忘れて、倒れている自分を足蹴(あしげ)にしている双
子の弟ジェームズを、ジロリと睨み付けました。
「馬鹿っ!目を開けんなっちゅーの!アンタ、今『白雪姫』なんだぞ」
コソコソと耳打ちするジェームズ・・・オリバーは渋々目を閉じました。
無事、演技の再開です。
お妃はモクロミが成功して腹を減らしていたので、「夕飯は来々軒の『特盛りとんこつラ
ーメン』に『ギョーザ三人前』でも食うか」と考えながら、ズンズン森を歩いて去っていきました。
始終高笑いのお妃・・・。
これで流石の鏡も、「正直に答えるようになる」と考えたのでしょう。
「ハイホーッ♪ハイホーッ♪」
あの陽気で有名なメロディーにノって、小人達が森を歩いてきました。
あの有名な歌には口笛を拭かなくてはいけない箇所があるのですが、残念・・・誰も口笛
を吹けないので、口で「ピーピピピピピピピ、ハイホー♪ハイホ、ハイホ、ハイホー・・
・♪」と誤魔化しています。
(どいつもこいつもダメなヤツです)
先頭を歩いているのは、「金持ち」・・・と呼ばれるレオンハルト。
その後ろには「トド」・・・と呼ばれるめぐみ。
更に後ろには「ツッコミ」・・・と呼ばれるトム。
トム後ろには「不貞腐(ふてくさ)れ」・・・と呼ばれるエマ。
更に後ろには「熱血」・・・と呼ばれるダニエル。
そして最後尾には「おっぺけ」・・・と呼ばれるルパートです。
小人達はみんな、お互いを「愛称」で呼び合います。
「おい、『金持ち』!明日の山田さん家の庭仕事は何時からだ?」
「ツッコミ」が聞きました。
「『ツッコミ』君・・・山田さん家の仕事は、確か朝の十一時だね」
「金持ち」がスケジュール帳を確認しています。
「でもその前にぃ〜、大橋さんの仕事入ってましたよねぇ〜?切り株を庭から除(ど)けて
くれってぇ〜・・・」
語尾上がりが特徴の「トド」が細かく確認しました。
「素晴らしいですよ、『トド』さん!あなたは大変に優秀な小人だ・・・いや、キコリだ!」
「いンやぁ〜・・・あそこン家ぃ、いっつも饅頭(まんじゅう)くれるんでぇ〜」
「ははは♪食欲旺盛ですね、『トド』さん」
「・・・食ってばっかじゃないのよ、アンタ・・・チッ!」
「不貞腐れ」が舌打ちしました。
「こいつには、『起きてる』『食ってる』『寝てる』しか機能がねぇんだ・・・」
「ツッコミ」のそのセリフに、「不貞腐れ」が鼻で笑いました。
このように「不貞腐れ」には賛同者が居ます・・・そう、「ツッコミ」です。
二人はかなり気が合いました。
口が悪くて性悪なトコで相当ウマが合うようです。
「僕ねー、今日三本の木がカブトムシの中に蜂蜜食べて、想像した時『プーさん』がねぇ
・・・」
「おっぺけ」が、列の最後尾でおっぺけトークしています。
そんな彼の話を優しく聞いてくれるのは、唯一の理解者「熱血」だけです。
「『おっぺけ』は可愛いなぁ〜・・・」と言うのが、「熱血」の口癖です。
「馬鹿なだけよ!」
「そうだ!アホッ!」
「不貞腐れ」と「ツッコミ」が同時ツッコミしました。
本当にこの二人、気が合います。
「おや?」
先頭を歩いていた「金持ち」が何やら見つけました。
「デケー女っ!」
森に倒れていたオリバー姫を見た、「ツッコミ」の最初のツッコミです。
「違うよ!この人、お城のお姫様だよ!」
「おっぺけ」が口をモグモグさせながら言いました・・・ガムを噛んでいるのです。
「放っておこうぜ・・・かなり『個性的なベッド』がお好みなようだし・・・」
「ツッコミ」がケケケと意地悪そうに笑いました。
「いいえっ!家に連れて帰るわっ!」
「不貞腐れ」が俄然(がぜん)萌えました・・・どうやら相当好みの顔のようです。
珍しく「ツッコミ」と意見が分かれました。
「メンドー臭ぇよ・・・誰が担(かつ)ぐんだよ!」
「『金持ち』とアンタが運べばいいでしょ?!ほら・・・じきに日が暮れるわ!狼にでも
食われちゃったらどーするつもりなのよ、馬鹿っ!」
「ツッコミ」は人には「馬鹿」と言いますが、他人から言われる事に慣れていません。
結構腹が立ち、「不貞腐れ」の事をブツブツ呪うように小声で何か言いました。
結局・・・何やかんやで、一番エラソーな小人は「不貞腐れ」のようです。
そして、腑に落ちないみんなを呷(あお)って、オリバー姫を小人の家に運ばせた「不貞腐れ
」含む六人の小人達。
(一人小人が足りていないのはご了承ください)
「・・・素敵♪」
毎日毎日眠っているだけのオリバー姫に、今日もうっとりしている「不貞腐れ」・・・。
彼女は仕事も儘ならぬほど、オリバー姫に現(うつつ)を抜かしています。
「働いてない奴に食わせるメシはねぇんだよ!」
「ツッコミ」が何やらキッチンで「トド」と揉めています。
「ご飯食べれないのはちょっと可哀想でねぇですかぁ〜。ねぇ、『金持ち』さぁ〜ん?」
「めぐ・・・いや、『トド』さんの言う通りです。例え、仕事をせずに口ばっかりで、人
の事を笑いものにするのが大好きな性悪な彼女でも、ご飯くらいは上げないと・・・」
「ちょっと!聞こえてるわよ、アンタ達!」
「不貞腐れ」が他の小人を叱咤(しった)しました。
自分に対しての悪口には非情に敏感な彼女です。
そしてベッドで相変わらず眠っている白雪姫をウットリと見つめ、唇を「んー♪」と突き
出しました。
何と、キスするつもりのようです。
パチッ!
オリバー姫は慌てて飛び起きました。
そして「不貞腐れ」を払い除けて、揉めていた「金持ち」「トド」「ツッコミ」の方に隠
れるように逃げて行きました。
「あ〜・・・あなた達のおかげで何とか助かりました。ハハ・・・」
心臓がバクバクして、ゼエゼエ言っているオリバー姫・・・きっと、よほど「キス」に驚
いたのでしょう。
「・・・別に何もしてねぇけど、俺達」
そう・・・むしろ「『何か』しようとした」のは「不貞腐れ」です。
「不貞腐れ」はオリバー姫とキスできるチャンスを逃し、また舌打ちしました。
「ってか・・・アンタ、何であんな場所で眠ってたんだ?」
「ツッコミ」がオリバー姫に言いました。
「そんだぁ〜、風邪引くどー?森ナメっと恐いどー!大変な事になんどー?」
「トド」も語尾上がりで言いました。
「違う!俺はお妃にオカシなキュウリを食わされたんだ!」
「お可哀想に・・・そんな酷い事をするお妃の元には帰らぬ方が身の為です」
「金持ち」が言いました。
「そんだぁ〜、このままここで一緒に暮らせばいいんだぁ〜」
「え・・・」
オリバー姫はチラッと「不貞腐れ」と目が合いました・・・が、恐くなってすぐに視線を
外しました。
「不貞腐れ」は目をギラギラさせて、己の欲望を隠そうとはしていません。
「たまにはいい事言うじゃない、トドのくせに」・・・とか思っているのでしょう。
「アンタ・・・料理とか洗濯とか出来るのか?」
「ツッコミ」が聞きました。
「まぁ、一通りは・・・」
「じゃあ、あなたは今日から僕達の家族です。我が家へようこそ、白雪姫!」
「金持ち」は深く考えずに、すぐにオリバー姫の受け入れ態勢を整えました。
「金持ち」は心が大らかです・・・多分、あまりシビアな事で悩んだ事などないのでしょう。
「・・・・・」
こうして白雪姫は、今までとは一転した生活を始める事となりました。
「ほら・・・口のトコにご飯粒っ!」
「ご飯中にケンカすんな!」
「ケイタイは後にしろっ!」
「飲み込んでから喋れ!」
突然手の掛かる小人達の「お母さん的」立場になってしまった白雪姫。
「おっぺけ」は文字通り「おっぺけ」ですし、「熱血」は「おっぺけ」に対して「熱血」
です。
「トド」は朝からどんぶり飯五杯も食う大食漢ですし、「金持ち」はいつでもどこでもミ
ュージカル口調・・・。
勿論「ツッコミ」と「不貞腐れ」も厄介です。
特に「不貞腐れ」はオリバー姫が何をしていても興味があるらしく、この度、物凄く性能
のいいデジカメを買ってしまったくらいです。
オリバー姫は寝ている時は勿論、お風呂やトイレに入る時はキッチリ鍵を閉めないと、ウ
カウカしていられない危機感を「不貞腐れ」に対して感じています。
オリバー姫は城に居た頃より遥かに疲れて、ヨレヨレになってしまいました。
すっかり若さは無くなり、日に「オロナミン・E」を何本も飲みます。
それでも、城に住んでいた頃よりは遥かに楽しい毎日である事には違いありません。
小人達はみんなある意味「個性的」で、毎日顔をつき合わせていても飽きる事はないのです。
「鏡よ鏡よ、鏡さん・・・。この世で一番美しいのはだ〜れ?」
ある日、また「鏡」に向かって大きな独り言とも取れるトークをしたジェームズお妃。
「それはあなたです、お妃様」
「フッフッフッフ・・・やっぱりな」
ジェームズはその言葉に大層ご満悦です。
白雪姫をこの世から消し去り、自分がこの世で一番美しいと思っています。
が、どっこい・・・勿論白雪姫は生きていますし、ただ単に白雪姫自身に「美しさ」が無
くなった・・・いや、「若さ」が無くなったと言うだけの事なのです。
白雪姫の居なくなった城の庭では、野菜はみんなお妃によって食べ尽くされ、ちゃんと次
を育てていないので、二度と美味しい野菜が実る事はありませんでした。
お妃の話し相手は「鏡」だけでしたし、お妃は益々ネガティブ人間になっていってしまい
ました。
一方・・・。
「コラーッ!洗濯終わってから今頃パンツ出したのは誰だー!」
オリバー姫は、今日も小人達に悩まされつつ一日を過しています。
それでもお城に居るよりは、何倍も何倍も楽しい生活を送ったのでした。
今思えば、あのキュウリでオリバー姫が一瞬だけでも意識を無くしていた怪事件は、「森の七不思議」
の一つとして、「知らない黒尽くめの婆さんにキュウリを貰っても、食べてはいけないよ」と言う、大
人が子供を育てる時のマニュアルの一つになってしまったようです。
エンド オーロラ5★目次へ