池照家の「十二支」


★キャスト紹介★

・ねずみ・・・・・河合エマ
・うし・・・・・蒲生めぐみ
・とら・・・・・池照ジェームズ
・うさぎ・・・・・ヴォルデモート理事長
・たつ・・・・・レオンハルト・ハインリッヒ
・へび・・・・・スネイプ閣下
・うま・・・・・池照オリバー
・ひつじ・・・・・マルフォイ参謀
・さる・・・・・池照トム
・とり・・・・・池照ルパート
・いぬ・・・・・池照ダニエル
・いのしし・・・・・マッド・アイ男爵
釈迦・・・・・ダンブルドア校長


<これより本編です>


「新年、わしに挨拶に来た順に、褒美として十二番目まで『干支(えと)』のメンバ

ーに加えてやろう!」

ダンブルドア釈迦(しゃか)が意地悪そうなキンキン声で、一際(ひときわ)高い壇上から動

物達に命令を下した。



「ダリィ〜ぜ、そういうの・・・」

早速トム申(さる)が文句を垂れた。

「なかなか楽しそうではないですか、トム君。ふふ・・・負けませんよ」

(たつ)に扮したレオンハルトは意気が上がっている。

結構やる気満々だ。

(ねずみ)役のエマは、少し遠くに居た午(うま)役のオリバーをガンガン写メに収めてい

た。

「チッ・・・今日もカッコ良過ぎ♪」

相変わらず舌打ちの彼女・・・すぐにケイタイの画像メモリーは一杯になり、泣く泣く幾

つか処分している。



「アダルト特典は何か無いんですかね・・・」

(へび)のイデタチのスネイプ閣下は、亥(いのしし)スタイルが妙に似合っているマッド

・アイ男爵と未
(ひつじ)のマルフォイ参謀、それにかなり不気味な卯(うさぎ)のヴォルデ

モートと、腰痛や関節痛の「不健康自慢」に華を咲かせていた。

たわけがっ!わしの言う事は神の言葉じゃ!とっとと位置に付け!このアニマル共め

がっ!

「うっさい爺さんだぜ、相変わらず・・・」

(うま)のオリバーと寅(とら)のジェームズが、ソックリな顔で耳を押さえた。

二人は昔からこの校長・・・もといっ!

釈迦が気に食わない。



「僕、一位の自信あるよ」

陸上部所属の戌(いぬ)役ダニエルは意気揚々だ・・・レオンハルトと反応が似ていた。

「ルパートは?」

ダニエルが聞くと、酉(とり)の格好をしたルパートは「バッサバサやねん!」と、なぜか

関西弁・・・言っている事も意味が分からない。

ま、彼に意味を求めてはいけない・・・大体がいつもこんな具合だし、今もきっと「妄想

劇」を彼なりに楽しんでいるのだろう。

放っておいてやるのも優しさと言うものだ。



「わたし〜、体が重いので〜、先に出発させて貰いますぅ〜」

語尾上がりのめぐみ丑(うし)が、「よっこらしゃーのしゃ」の気合入れと共に、一番に出

立した。

「素敵だ、めぐみさん・・・やる気満々だな」

レオンハルトが目を細めて、めぐみのボリュームのある後姿を見つめている。

「仕方ない・・・じゃあ、我々も出発するとしますか?助さん!格さん!さぁ、参りまし

ょう!」

「・・・誰が『助』と『格』です?我々『スネイプ』、『マッド・アイ』、『マルフォイ

』の三人ですよ?」

「はは・・・一度やってみたくて・・・すいません」

ヴォルデモートは恥ずかしそうにスキンヘッドをポリポリ掻いて、部下の三人を連れてス

タートした。

「途中で、団子でも食いましょうか」と、四人は遊山(ゆさん)気分だ。

 


「よしっ、俺らも行くか!」

オリバーがいきり立っている。

「どしたい、婆さん・・・結構やる気じゃん」

ジェームズが驚いた。

「いや・・・ほら、俺今、午(うま)だろ?何だかもう・・・無性にガンガン走りたい気分

なんだ」

「そんなモンかね。疲れるぜ?」

「一応ポケットに『オロナミン・E』を三本仕込んである」

「飲み過ぎは反って体に悪いんだぞ?」

ジェームズは黒と黄色の寅(とら)の尻尾がお尻の位置に合ってないようで、先程からしき

りに直していた。



「おや、トム君・・・君は出発しないのですか?」

レオンハルトが聞いた。

「俺は後からバイクで行く」

「なるほど!じゃあ僕も爺に車を回して貰うので、ここでのんびりしている事にしましょ

う。では空いた時間、何かお喋りでもしましょうか、トム君」

「断るっ!」

トムは相変わらず「ツレナイ」・・・。

 


「全くもう・・・バッサバサやねん!

 

なぜか始終ルパートはイライラしていた。

「何なんだよ、お前はさっきから・・・」

トムが「イライラしたルパート」に対し、イライラし始めた。

「きっと何かあるんだよ・・・ね、ルパート?」

ダニエルだけはルパートの味方だ。

 

「バッサバサやねん!何かもう、バッサバサやねん!」

「うるせーっ!アホッ!」


 

あーっ!ルパートに酷い事言うなよ、トム!」

「アホをアホと言って何が悪い」

「僕のルパートを侮辱すると、唯(ただ)じゃおかないぞ!」

「お〜っ、どうしようってんだ?えぇっ!?

 


「・・・とぉっ!」

「うぐっ・・・」

 


ダニエルがトムのお尻にカンチョーして逃げた。


「てっめぇ、このダニエルッ!」

ブツブツ言いながらスタートしたルパートの後ろを、ダニエルがスタコラ付いて行く。

「野郎・・・後で絶対ぇ泣かすっ!

トムはダニエルに向かって中指を立てた。

「イケナイな、トム君・・・それは下品なポーズだよ」

「お前も去れっ!」

レオンハルトは肩をヒョイと竦(すく)め、ケイタイで爺を呼び出した。

「爺、ハイヤーの手配を!トム君、一緒に乗っていきませんか?」

「断る」

レオンハルトは「やれやれ」と微笑んだ。

 




めぐみはゆっくりではあるが、着実に前に進んでいた。

そのかなり後ろをオジサン四人衆が歩いていたが、綺麗な草花を見つけると写真に収めて

みたり、お土産屋さんに立ち寄っては「ペナント」を買い占めたりしていて、全くレース

をしているようには見えない。

「お一ついかがです?」などと店員に声を掛けられれば、「じゃ、ちょっと味見を」と、

饅頭だのお茶だの漬物など摘んでは小腹を満たしていた。

その後方、物凄い勢いで追いついてきたのは双子であった。

が・・・早くもオリバー、スタミナ切れ・・・。

もう最後の「オロナミン・E」に手を出してしまった。



「大丈夫かよ、婆さん・・・」

「・・・いきなり走るもんじゃないな。足はガクガクだし下っ腹は痛いし・・・」

心配するジェームズに、気の利いた答えを返せないオリバー。

「だから言ったじゃねーか。ほら・・・」

「ん?」

「おぶってやるって言ってんの」

「在り難い・・・やっぱ持つべきものは双子の弟だな」

「高く付くぜ?感謝しやがれ」

「取り合えず『チュー』で許してくれ」

オリバーが唇を突き出した。(やはり、「いつもの彼」ではない)

「・・・同じ顔のお前に『チュー』貰ってもなぁ・・・あんま嬉しくないぜ」

いつものオリバーじゃないオリバーを背負い、ジェームズは坂道を上がっていく。

(それでも、ちゃーんと「チュー」は貰っておいたジェームズだ)




その頃、エンジンをいよいよ吹かしてバイクに跨(またが)ったトム。

エンジンからは黒い煙が濛々(もうもう)と天に舞い上がっていく。

彼はまだ、愛車(「クール・ビューティー」と言う名)のエンジンメンテナンスを怠(おこた

)っていた。

愛車からの黒い煙は、地球のオゾン層を今日も破壊している。

トムは取り合えず、レオンハルトにだけは負けたくないと思っていた・・・それに、先程

自分に暴言を垂れたダニエルには。

「サクッと一番乗り決めてやる・・・。めぐみには悪いけどな」

ニヤリと口の端を上げ、一気にアクセルを踏んだ。

酷いポンコツをフルパワーで走らせた為、申(さる)のツナギが一瞬、頭から捲(めく)れそ

うになって「おっとっと」なトム。
(結構可愛い)

 




「あンれがゴールかぁ?」

汗だくのめぐみがゴールと思しき白いテープを見た。

「私が一番かぁ〜?」

テープを切ろうと最後の一歩を出した瞬間、彼女の背中におんぶしていたエマがピョンと

先にテープを切った。

 


「あはははは!一番〜♪」


 

エマはトドの・・・いや、丑(うし)の・・・いや、めぐみの背中にずっとへばり付いてい

たようだ。

「何だか体が重いと思ってたら、エマちゃんが居たのけぇ〜?」

めぐみはゴールした途端、ゴロンと地面に仰向けで寝転がった。(ホント、トドみたいだ)

「ブラボーじゃ!良くやった子(ねずみ)に丑(うし)!そちらは、十二支の一番と二番じゃ

!」

ダンブルドアが夕方の水戸黄門を見ながら、横柄(おうへい)に足でペチペチ拍手した。

 


あははは♪ま、こんなモンよ♪あはははは♪

エマは悪びれた様子もない。

大体彼女・・・猫に「レース」の日時の嘘を教え、スタート前からライバルを一人減らし

ていたくらいだ。
(ちなみに、猫役は彼女の妹の「ジニー」だった)

 



「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっ〜〜〜〜っ!」

 


(とら)がラストスパートをかけて走ってきた。

「ちくしょ・・・俺、三着か」

ゼェゼェ息を整えているジェームズ。

「・・・オリバーは?」

エマが聞いた。

「婆さん、途中のコンビニでまたオロナミン・E買うって言うもんだから、置いてきた」

「サッイテーッね、ジェームズ!」

自分の「サイテー」はこの際置いておくエマ・・・ケチョンケチョンにジェームズを罵(

ののし
)る。

 


向こうから白いヤツがヨロヨロして歩いてきた・・・ヴォルデモートだ。

「み、水・・・」

めぐみに貰った水を一気に飲み干し、後は一切何も喋れなくなったヴォルデモート。

疲労困憊(こんぱい)だ。

そこへリムジンが颯爽(さっそう)と到着した・・・レオンハルトだ。


「おや・・・みなさん結構がんばりましたね。やぁ、めぐみさん♪」

「レオンハルトさん、五着ですよ〜」

「めぐみさんは?」

「私は二番です〜」

「それは素晴らしい♪がんばりましたね」

「はい〜」

二人は和気藹々(あいあい)と言葉を交わした。



そして地面に這い蹲(つくば)って・・・まるで本当の巳(へび)のようにゴールしたスネイ

プ。

「大丈夫かね、スネイプ?」

「あ、理事長・・・」

「そら、水だ。飲みたまへ!」

「ありがとうございます」

スネイプはゴクゴクと水を飲み干した。

「マッド・アイとマルフォイは?」

「さぁ・・・途中で逸(はぐ)れてしまいまして・・・」

「そうか・・・もう、喋るな。少し休め」

「ありがとうございます」



オリバーが現れた・・・結構元気だ。

「オリバー!!」

エマが尽かさず近寄った。

「やぁ、エマちゃん・・・何位だったの?」

エッヘン!私は一位です!」

おぉ〜っ!流石、現役中学生だ・・・凄いね」

「えへへ・・・まぁ、それほどでも♪」

めぐみはジッとそんなエマを見つめていたが、特に訂正はしなかった。

(相変わらず性格がいい)

未(ひつじ)に扮したマルフォイは、ツカツカと顔色一つ変えずにその脇をゴールした。(クールだ)

 


「退け退け退け〜!!」

トムのバイクが突っ込んできた・・・そしてそのままブレーキも使わずバイクから降りた。

バイクは壁に激突し、大破した。

「危なかったぜ・・・途中、おまわりに『ヘルメット未着用』で点数減点されそうになっ

てよ・・・しかも、ブレーキイカレちまうし。新年早々、危うく死ぬトコだぜ」

「トムさ〜ん、お水です〜」

「お、サンキュー、めぐみ」

 


向こうからプンスカ怒りながらルパートがやって来た。

ブツブツ何か言っている。

近くまで来ると「バッサバサやねん!」をまだ繰り返していた。

ダニエルが手に「カルピス」だの「キャラメルコーン」だのを持ちながら、困り顔でルパ

ートに続いてゴールした。


今日ばかりは、ダニエルにもルパートが手に負(お)えないらしい。



「お前、まだイライラしてんのかよ?」

トムがルパートを呆れた。

「だって、バッサバサやねん!」

「何なんだよ、さっきから・・・何がバサバサなんだよ?」

「ルパート・・・昨日から虫歯なんだって。それに、この酉(とり)の衣装がチクチクして

痛いんだって。僕、てっきりお腹が空いていると思ってコレ買ってあげたんだけど、逆に

怒られちゃったよ・・・」

「来週ちゃんと歯医者行けよ!」

オリバーが向こうから言った。

「あ、馬鹿だね、お前は・・・。裸にこんなの直(じか)に着たら、チクチクするの当たり

前だぞ?」

ジェームズがルパートの後ろのファスナーをシャーッと下ろした。

お尻がちょっと見えてしまったルパート。



「何やってんだよ、ジェームズ!」



怒ったのはダニエルの方だ。

「変態っ!ルパートのお尻見ないでよ!」

「お前にだけは『変態』とか言われたくないぞ、俺!?」

「変態ジェームズ!」

「んだと、こんにゃろっ!」

「イデデデデデデーーーーーッッ!!」

ジェームズに関節技を掛けられたダニエル・・・物凄い声で絶叫だ。

そしてその脇を、最後の到着者・・・亥(いのしし)役のマッド・アイが団子片手に静かに

ゴールした。



十二支の干支はこうして無事決まった。

おしまい、チャンチャン♪

 

 

          エンド                 オーロラ目次へ