池照家の「マッチ売りの少女」
★キャスト紹介★
マッチ売りの少女・・・・・池照ルパート
お婆さん・・・・・レオンハルト・ハインリッヒ
街の住人・・・・・河合エマ
<これより本編です>
ある大晦日の夜の事です。
ルパートと言う少女がホッペを真っ赤にし、街中を裸足でマッチを売りに出歩いていました。
「寒いよぉ〜・・・寒いよぉ〜・・・」
彼女はさっきから文句ばかりです。
マッチを売る気はあまり無さそうです。
人の家を覗いては、ご馳走だの暖炉だのを恨めしく見つめてお腹を鳴らしたりしています。
「チェッ!こんな事になるんだったら、おやつをもっと一杯食べておくんだったよ・・・
。ズルイよ、ジャンケンで負けた僕だけにマッチを売りに行かせるなんてさ」
ルパートに家の中を覗き込まれていたエマは「不気味っ!」と言って、ルパートの鼻先
でシャッとカーテンを閉めてしまいました。
「・・・エマってやっぱ性格悪いよ。いいじゃないか、ちょっとくらい家の中覗いたって。
(・・・あまり良くないと思う)あ〜あ・・・こんな事ならダンに付いて来て貰えば良かっ
たなぁ。靴はいつの間にかどっかに無くなっちゃうしさぁ〜・・・」
・・・どうして突然靴が無くなっちゃうんでしょうか・・・全く不思議な人です。
ルパートは街外れにチョコンと腰掛けて、ポケットの中をゴソゴソと探りました。
「やった!ガムがあった!」
早速ガムを噛み始めるルパート・・・。
やはり彼、かなりお気楽な性格のようです。
感動名作「マッチ売りの少女」を本気でやるつもりが無いとしか思えません。
「大体さ(クチャクチャ)・・・大晦日にさ(クチャクチャ)・・・マッチなんか買う人なん
か居ないんだよね〜(クチャクチャ)・・・」
大きな風船をプゥ〜ッと膨らましては、また文句・・・ずっとそんな感じです。
え〜・・・実はこの物語、殆ど「少女だけ」しか登場人物らしい登場人物出てきません。
その為、他の兄弟達はギャラリー席でダラケた格好で芝居を見ています。
このあまりにユル〜い劇・・・早くも長男オリバーや三男トムは疲れています。
その中で、末っ子ダニエルだけは涙目です。
一体彼、何に対して泣いているのでしょうか?
「可哀想過ぎるよ・・・「マッチ売りの少女」。ルパート寒いだろうなぁ・・・お腹もペ
コペコなんだろうなぁ〜・・・」
・・・ダニエル・・・どうやら、単純に劇中のルパートの境遇を気の毒がっています。
色んな意味で、こんな陳腐な劇で感動出来るなんて・・・凄いヤツです!
「寒いなぁ〜・・・暖っかい部屋で『電王ゲーム』とかしたいなぁ〜・・・。あ、今日金
曜日だから『ドラえもん』だった!あ〜あ・・・観たかったなぁ。全部ジャンケンのせい
だよ。チェッ!」
ルパートには、何に置いても「自分のせい」は有り得ません。
ルパートは手持ち無沙汰で、持っていたマッチを一本擦りました。(・・・売り物なのに)
「あ・・・」
何と、炎の中で「ドラえもん」がやっています。
が、炎が消えると「ドラえもん」も一緒に消えてしまいました。
「どうしてマッチから『ドラえもん』が出てきたんだろ?」
ルパートはまたマッチを擦ってみました。
「うわぁ〜・・・」
今度は彼の大好きな「パイナップル入りのピザ」が現れました。
「うわぁ〜い♪やったね♪」
ルパートは炎の中に手を突っ込みました。
「アチッ!」
・・・お馬鹿さんです。
ルパートは危険なそのマッチを、様子を窺っている猫のような目でジッと見つめました。
「・・・これ、ひょっとして『どっきりカメラ』なんじゃないのかなぁ・・・。僕の事を
誰かが騙そうとしているとか・・・」
ルパートは辺りをキョロキョロしました。
「・・・アホか。誰だよ、この馬鹿げた台本書いたの・・・」
トムが、ギャラリー席から大きな溜息を吐きました。
「でも、一応は『物語通り』に事は進んでいる。もう少し見てみようぜ」
次男ジェームズはなかなか寛大です。
彼に言わせれば、「『ルパート』なのに、あそこまで一応話を進めている事に天晴れ♪」
と言った所です。
ルパートはあちこちにカメラが仕込まれていないかを確認し、それがやっと「どっきりカ
メラ」じゃない事を理解しました。
「余計な時間を食っちゃったよ・・・早くマッチ売ろうっと!」
自分自身で「余計な時間」を作ったくせに・・・やっぱり全て「何かのせい」です。
「あのぉ〜・・・」
街行く人に声を掛けましたが、みんな早足で去って行ってしまいます。
「あのぉ〜・・・マッチ買ってください」
ルパートは冷たくなった手でマッチを差し出し、チョコチョコと街行く人に声を掛けて近
付いていきます。
「がわいぞ〜〜〜・・・」
ダニエル、オイオイ泣き始めました。
声が酷い鼻声です。
「・・・あれのどこが『可哀想』なんだよ。ガム食いながらマッチ売る『マッチ売りの少
女』なんて俺は聞いた事ねぇぞ?」
オリバーは「シラフ」でその劇を見ているのが馬鹿らしくなったのでしょう・・・台所か
ら持って来ていた発泡酒を一本開けました。
「おいおい・・・ズルイじゃねぇか、婆さん・・・」
ジェームズが早速抗議です。
「自分で取って来いよ。あ、台所行くんなら、何かツマミ持って来てくれ。『さきいか』
が確か戸棚に入ってたはずだ」
「ヘイヘイ・・・」
ジェームズが「よいしょ」と立ち上がった。
「あ、ジェム爺!じゃあ、俺にもビール一本!」
「あ、じゃあ僕にはオレンジジュース!氷少なめで!」
どさくさに紛れてトムとダニエルも催促です。
「ったく、調子いいヤツらだぜ・・・分かったよ。特別に持って来てやる。『優しいお兄
様』に感謝しやがれ!ガキ共!」
「よっ、ジェームズいい男!ニクいよ、この『おばさんキラー』!」
「お兄ちゃん、優しいっ!!好きっ♪」
トムとダニエルは思ってもいない事を言って、次兄を「ヨイショ」してます。
「フンッ!」
ジェームズはそんな二人の「戯言」など百も承知。
自分の分の発泡酒とさきいか・・・それに、「トマトジュース」を二つ持って帰って来ま
した。
「おい、何で『トマトジュース』なんだよ!」
「ジェームズの意地悪っ!」
トムとダニエルが早速猛攻撃です。
「うるっせぃっ!文句あんなら自分で取って来いやぁ!がはは♪」
プロレスの「高田文彦」のような居直りを始めたジェームズ。
豪快な高笑いを始めました。
「馬鹿ジェム爺っ!」
「爺ぃジェームズ!」
「んだと、こんにゃろぃっ!」
「アイデデデデデーーーーーーーッッ!」
ジェームズは器用にも、トムとダニエルの二人に同時に技を仕掛けました。
「うるさいよっ!んもぅっ!」
終いにはルパートに叱られてしまった、オリバーを抜かした三人。
「これから、一番いいトコでしょ!ちゃんと静かにしててよ!んもぅっ!」
「・・・ごめんね、ルパート・・・」
ダニエルを始め、ジェームズとトムもスゴスゴと大人しく座わりました。
ルパートが劇の続きを再開します。
更なるマッチを一本擦りました。
「あれ?」
なぜかマッチに火が点きませんでした。
更に次のマッチに火を点けるルパート。
「あれ?」
「・・・何やってんだよ・・・『一番いいトコ』じゃなかったのかよ?」
トムがブツブツ文句を言っています。
「しょーがないでしょ!マッチが点かないの!オカシイなぁ〜・・・」
ルパートが何本も何本もマッチを擦りましたが、なぜだか火は一向に点きません。
当たり前です・・・ルパートは汗ばんだ手で、マッチの頭の方をずっと握り締めていたの
ですから。
「なぁ・・・何か焦げ臭くないか?」
ジェームズが鼻をクンクンさせました。
みんなの視線の端で、チラチラと炎が上がっています。
「わぁーっ!火ぃ!火ぃ!!火事だぁ!」
「ぎゃーっ!」
「火を消せーっ!」
ルパートが先程点けたマッチの火が、ちゃんと消火していなかったようです。
水を張ったバケツではなく、畳の上に燃えガラが落ち、そこからボヤが出たのでした。
「わぁ〜ん!お家が燃えちゃうよぉ〜!!」
ルパートが演技を忘れて、泣き始めました。
「泣いてる場合かっ!?お前の不始末だろ!とにかく早く火を消すんだっ!」
オリバーを筆頭にみんなして毛布を被せたり、その上を踏ん付けたり、発泡酒を引っ掛け
たりして・・・やっと火が鎮火しました。
「『マッチ売りの少女』って、結構危険なお話なんだねぇ」
ルパートはいつの間にかちゃぶ台の上からおせんべいを摘んで、端っこの方でボリボリ食
べています。
「お前がヌケてるからだろ、ボケッ!せんべい食ってる場合かよっ!」
トムは慌てたせいで、ジェームズが掛けた発泡酒を半分ほど引っ被っていました。
「トム、何かビール臭い・・・」
ダニエルが嫌〜な顔をして鼻を押さえています。
「俺のせいじゃねぇっ!」
ダニエルは「余計な一言」でトムからゲンコツを貰い、頭を押さえています。
「でもさ、僕やっぱりこれで良かったよ。あのままお話通りに話が進んじゃったら、ルパ
ートが死んじゃうトコだ。ルパートが死んじゃうなんて僕嫌だから、お話が終わっちゃっ
て、これで良かったんだ」
ダニエルが改めて言いました。
「火事になったらみんなで死ぬわっ!オカシな結論に勝手に達してんじゃないっ!」
ダニエルはオリバーからもゲンコツを貰って、いよいよ頭が痛くて涙目になりました。
「ダン、ごめんね?」
ルパートがおせんべいの欠片を口の周りにくっ付けながら、弟に謝りました。
「ううん。僕、ホント良かったよ。ルパートが死ななくて」
「えへへ・・・ありがと♪」
「えへへ・・・」
二人は僅か20センチの所で微笑み合っています。
「不気味っ!」
どこからともなくまた「エマ」が現れ、一言そう言うと姿を消しました。
「・・・俺に言わせりゃ、エマこそ不気味だぜ・・・」
トムが、どこから入り込んできたか分からないエマの登場に、訝しげな顔をしました。
「あれ・・・そう言えば『少女の婆さん役』のレオ〜ンハルトはどうした?」
ジェームズがキョロキョロしています。
その頃レオンハルトは、「僕の出番はまだかな?」と暢気(のんき)に庭で待機していまし
たとさ。
チャンチャン♪
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