池照家の「浦島太郎」


★キャスト紹介★

浦島太郎・・・・・蒲生めぐみ
亀・・・・・池照ルパート
乙姫・・・・・河合エマ
いじめっ子・その一・・・・・池照トム
いじめっ子・その二・・・・・池照ダニエル
竜宮城の踊り子達・・・・・池照オリバー・池照ジェームズ・レオンハルト・ハインリッヒ


<これより本編です>


昔々ある所に、浦島めぐみと言う漁師おったそうな・・・。

 

「こんにゃろっ!こんにゃろっ!」

ある時めぐみは浜で、亀を苛めている子供達(トム・ダニエル)を見つけた。

「こんにゃろっ!こんにゃろっ!」

「ごめんね、ルパート・・・ごめんね」

トムは楽しそうにルパート亀を足蹴にしていたし、ダニエルの方は申し訳無さそうに、た

まにポカッと軽く殴ったりしている。

「いだいよぉ〜・・・」

自分の飼っているカメの「しーちゃん」そっくりのお面を付けたルパート亀は、頭を押さ

えて小さくなっていた。



「やめれぇ〜!こらぁ!亀苛めっと許さねど〜!」



めぐみが近付いて注意しても、子供達は亀を苛めるのを止めようとはしなかった。



「ほらぁ、饅頭やっからぁ、もうその辺で勘弁してやれぇ〜」

「饅頭なんかで止めるかっ!」

めぐみが差し出した饅頭に文句を言うトム。

「とにかく、ちょっと食ってみなせぇ〜。んめーどぉ〜?」

あまりにめぐみが薦めるので、トムはガッと一つ饅頭を取ってガブリと食ってみた。

「・・・ウマッ!」

予想を反して美味い饅頭だった。

ダニエルもムシャムシャ食っていた。

ルパートも・・・いや、亀もちゃっかり頂いて饅頭を食っていた。



「亀は饅頭食うな!」

トムがまたルパートに蹴りを入れた。


「痛いでしょー!お尻蹴ったら、お尻痛くなっちゃうでしょー!んもぅっ!

うるっせぇ!お前なんかこうしてやる!」

「痛い痛い痛ーーい!」

トムはルパートの甲羅の上に乗りあがって、その上でジャンプし始めた。

こらっ、トム!あんまりルパートを苛めるな!」

「俺とお前は『苛める役』なんだぞ?苛めてどこが悪いっ!」

ルパートを真ん中にダニエルとトムが揉め始めた。

めぐみが何とか宥めすかして、トムとダニエルに落ち着いてもらった。

ルパートは折角手作りした甲羅(ダンボール製)に折り目が付いてしまい、メソメソしている。

「フンッ!今日のトコはこの辺にしておいてやるぜ。でも、覚えておきやがれ!この辺ウ

ロウロしてっと、また苛めるぞ!」

「ケッ!」と棄てゼリフを残して、トムとダニエルは去って行った。

 


「大丈夫だったかぁ〜、亀さ〜ん?」

「んがんがっ!」

ルパート亀は今泣いていたはずなのに、また口いっぱいに残りの饅頭を放り込んでいた。

その為、上手く喋れなかった。

「まぁ〜たく酷でぇ事する子達だなぁ〜・・・」

めぐみは折り目が少しでも復活するように、綺麗に甲羅を整えてやった。

「トムは意地悪なんだよ!僕が、ちょっと海の中の魚が餌で、ダンの持ってたオモチャが

一杯だったから、『遊んでみたりする?』って聞いたらさ、『コラーッ!』って言って・

・・で、苛めたの」

「・・・・・」

ルパート亀の説明は、相変わらず頓珍漢で的を得ない。

めぐみは通訳のダニエルを探したが、残念ながらもう見えなくなっていた。



「ねぇ・・・お礼とかして欲しい?」

ルパート亀は口の周りにアンコを一杯くっ付けながら、アンコだらけの手をペロッと舐めた。

言う事が、何とも・・・生意気だ。

「いんやぁ〜・・・別に私そういうつもりで助けたんじゃないんでぇ〜」

「でも、それじゃお話にならないから僕の背中に乗ってみて!あ、ダメ・・・やっぱ降り

て!めぐみちゃんの事、僕おんぶ出来ないから乗ってるつもりで後ろ着いて来て」

「・・・・・」

色々うるさい亀だ。

めぐみは仕方なく、ルパート亀の背には乗らず海に入り、華麗な横泳ぎでスイスイ泳いだ。

一方、亀であるはずのルパートは「ビート板」と「ゴーグル」使用だ。

(キャップまで着けている)

バシャバシャ進んでいるが・・・如何せんノロイッ!

このノロさがある意味・・・非常に「亀」らしかった。

 




「ハァ〜イ、一名様、三番テーブルにご案内〜♪」


「・・・・・」

「竜宮城」・・・とは、名ばかり。

到着した場所は、「キャバクラ」みたいなケバケバしさだ。

いや・・・居るのは殆ど男ばかりなので、「ホストクラブ」と言った方が当たっている。

めぐみはスタッフのレオンハルトに案内され、緊張した面持ちで席に座った。

「今回はぁ、何だかうちの可愛いバンビ・・・もとい、亀ちゃんをお助けして頂いたようで

〜・・・ありがとうございましたぁ、めぐみさぁ〜ん♪」


レオンハルトはいつもより言葉の一つ一つを伸ばしながら、軽薄そうに喋った。

レオンハルトもオリバーもジェームズも・・・そしてここにも一人二役で参加しているト

ムとダニエルみんながピラピラのシャツにエナメルの靴で、オカシな「営業スマイル」を

作ってめぐみを持て成している。

ある意味、レオンハルトは私服のようにそれが良く似合っていた。

一方池照家のメンバーはみんな、その衣装が恥ずかしそうだ。



「・・・レオンハルトさんが、竜宮城の乙姫様の役なんですかぁ〜?」

「いえ、違いまぁ〜す。ではご紹介いたましょう!我が、竜宮上の姫・・・乙姫様の登場

でぇ〜す!イェ〜ィ♪」

「・・・・・」

めぐみは、この「軟派なレオンハルト」があまり得意ではないようだ。



店内にスモークが焚かれ、ドラムが鳴り響いた。

ライトが暗くなり、ある一点にだけパァッとスポットライトが集まった。



ジャジャーーーンッ!



ドラマチックな音と共に登場したのは・・・。

 


「私が乙姫よ!」

 

ふんぞり返ったエマだった。


「エマちゃんだったのけぇ〜、乙姫様ぁ〜。可愛いなぁ〜・・・よ〜く似合ってるよぉ〜?」

「当然よ!」

エマはテレる素振りすらない。

チラッと最愛のオリバーの事を一瞥し、ピラピラ衣装を恥ずかしがっているオリバーをケ

イタイの写メで、またパシャリと隠し撮りした。

「・・・素敵♪」

 



ホスト達の・・・いや、めぐみを歓迎する為の催し物が始まった。

ソファーではめぐみとエマが男達のステージダンスを楽しそうに見ながら、ポッキーだの

フルーツを摘んでいる。

ヒョイヒョイ食べているが、実はこのポッキー・・・一盛り五千円だ。

十本程度しか入っていないとなると・・・・・怖い事だが、一本五百円もする。

フルーツの盛り合わせは二万円だ。



「もっと何か注文しなさいよ」

エマがめぐみに催促する。

「でンも〜・・・」

「何遠慮してんのよ、『らしく』ないわね・・・」

「んじゃ〜・・・オリバーさんが作った『オムライス』が食べたいですぅ〜」

「あら、いいわね!私もそれ食べたい!オリバー、私達にオムライス作って!それと・・

・ポテトサラダ付けて!」

「・・・はいはい」

オリバーは気が乗らなかったが、もっと気の乗らないダンスをしなくていいので、助かっ

たと思った。



キッチンに入って材料を刻んでいると、ステージが良く見えた。

恥ずかしがっているのはトムだけだった。

レオンハルトもジェームズもダニエルも・・・かなりノリノリでダンスを披露している。

「・・・凄げぇな」

双子の弟の天晴れなダンスとダニエルのカクカクした不思議なダンス・・・傍から見れば

非常にウケる。

亀の格好をしたルパートまでもがステージに上がり、お遊戯のような不思議な踊りを始めた。



「・・・レオンハルトと奴らはサーカスにでも入ればそこそこスターになれるぞ?トムは

・・・ありゃあ、ダメだな」

自分と良く似て照れ屋なトムだけは、馴染んで来ようとするレオンハルトやジェームズか

ら距離を取って、後ろに下がって「やる気の無いパラパラ」を踊っていた。

 


「へぃ、お待ちっ!」

めぐみ用の、ご飯が通常の三人分のオムライスと、エマ用の普通の大きさのオムライスが

テーブルに置かれた。

「美味しそう〜♪」

「んだぁ〜」

二人はショーを見ながら飲み食いし、散々食って笑った。

 




「いンやぁ〜・・・すっかり長居しちゃってぇ〜・・・そろそろ陸に戻りますぅ〜」

めぐみが立ち上がった。

「そうですか・・・残念です。もっと沢山の僕達の持て成しを受けて欲しかったのに・・・」

レオンハルトはキラリと光った爽やかな白い歯を見せ、めぐみに笑い掛けた。

「いンやぁ〜・・・もう充分お持て成し頂きましたぁ〜。ありがとうございますぅ〜」



乙姫・エマが何やら箱を持って現れた。

「持ち帰ってね・・・」

不気味な笑みだ。

「何ですかぁ、これ?」

「帰ったら分かるわ。でも・・・忠告しておくけど、私なら開けないわね」

「んじゃあ、要りませ〜ん」


「ダメよ、持ち帰らなくちゃ!こんな場面で終わったら、『浦島太郎』にならないじゃない!」

「・・・はぁ」

めぐみは強引にエマから箱を渡された。



「じゃあ、めぐみさん・・・また」

「じゃね、めぐみちゃん」

「バイバイ、めぐみちゃん♪」

「またね、めぐみちゃん♪」

「・・・じゃな」

レオンハルト、双子、ダニエル、ルパート、そしてトムに別れの挨拶をされ、めぐみはま

た華麗な横泳ぎで陸に戻って行った。

 




「いんやぁ〜・・・楽しかったなぁ、竜宮城。みなさん、ダンスが上手かったなぁ〜」

めぐみは懐かしそうに竜宮城でのひと時を思い出していた。


「あンら?」

何かおかしいと思ったのは少し経ってからだった。

「ここ・・・確か浜辺だったのに・・・」

辺りはいつの間にか大開発が進み、「りんかい線」とか「ベイブリッジ」とか「フジテレ

ビ」が出来上がっていた。

「『汐留』に何が起こったんだぁ?私、たった一日しか向こうに行ってなかったのにぃ〜

・・・」

めぐみの周りには巨大なビルと綺麗に舗装された道、そして煌(きら)びやかな灯かりと洗

練された格好のカップルだらけだ。

ラブラブのカップル達は、オープンテラスのレストランで、「北海道『花畑牧場』直送の

キャラメルアイス」なんかを食べちゃったりしている。



「・・・うちはどっちだったっけなぁ〜?」

めぐみはキョロキョロした。

足元に置いてあった、乙姫から頂いた箱を見つけた。


「・・・これがあるって事は、夢じゃないはずなんだけンどぉ〜・・・」

めぐみは「あまり開けない方がいいわよ」と言うエマの言葉を思い出した。

しかし、開けるなと言われると開けたくなるのが人間のサガ・・・。

めぐみは少し考えたが気の向くまま箱を開けてみた。

モクモクと白い煙が出てきて、めぐみの体を包み込んだ。



「ん〜?」

めぐみは箱の中を覗き込んだ。

煙は消え去って、中に紙が一枚・・・・・。

「あンりゃあ〜・・・」

・・・請求書だった。

しかもっ・・・ベラボーな金額が書かれてある。

「おかしくねぇかぁ〜・・・この料金・・・」

自分の飲み食いしたモノを考えても、こんな・・・三百万円になどなっているはずがない。

「・・・いっくら、『ピンクのドンペリ』入れたって言ったってなぁ〜・・・」

めぐみは竜宮城からくすねて来たキャラメルをポケットから一つ口に放り込んで、「レオ

ンハルトさん、きっと計算間違ったんだなぁ〜」と、請求書をクシャクシャにしてポケッ

トに終い、おそらくこっちで合っているだろうと目星を付けた帰り道を、暢気(のんき)にテ

クテク歩いていったとさ。



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