池照家の「水戸黄門」



★キャスト紹介★

水戸黄門・・・・・池照ルパート
佐々木助三郎・・・・・池照オリバー
渥美格之進・・・・・河合エマ
うっかり八兵衛・・・・・レオンハルト・ハインリッヒ
風車の弥七・・・・・池照トム
お銀・・・・・池照ジェームズ
飛猿・・・・・池照ダニエル


<これより本編です>



「こんにちは、池照家のみなさん!明けましておめでとうございます。昨年は大変にお世

話になりました!!」

池照家の玄関に、羽織り袴姿のレオンハルトが現れた。


「おっ、レオ〜ンハルトじゃん!今年もよろしくな。ん、お前今から結婚式でも行くの?」

迎え出たジェームズが簡単に挨拶した。

「ははは♪いえいえ、コレは僕の単なるお正月の略装ですよ」

「ふ〜ん・・・随分『華麗な略装』だな。ま、いいや。ちょうど良かったぜ。メンバーが

足りなかったんだ。上がれよ」

「え、メンバー?」

レオンハルトはジェームズに促され、池照家の居間に上がり混んだ。

 



「あーっ、着物のレオンハルト君だー!明けましておめでとー!

「あけおめ〜♪」

一応マトモに新年の挨拶をしたダニエルと、フザケた挨拶をしたルパートが出迎えた。

二人は畳の上に腹這いになり、「福笑い」を出して遊んでいる所だった。


「おめでとう、キッズ達。2010年も元気一杯だね?」

「うん!僕とルパートはさっき、お餅を五個ずつ食べたんだよ♪」

「えっとねぇ〜、あのね〜・・・お年玉はまだ受付中だから、お早めにネ♪」

「へ?」

会った早々からオカシな事を口走るルパート。

「恥ずかしい事言ってんじゃないよ、お前・・・」

ちゃっかりした事をのたまった四男の後頭部に、オリバーが今年一発目のゲンコツをバコ

と入れた。



「おや、そこに居るのは『我が愛しのトム君』ですね?今年もどうぞよろしく♪」

隅の方で、隠れてチビチビと酒を飲んでいたトムを見つけたレオンハルトの目が、キラン

と抜け目無く光った。

ルパートは叩かれた後頭部を押さえながら、オリバーをジロリと睨んでいる。


チッ!元旦早々から顔出すなよな・・・。今年こそは、本気でお前とは縁を切るつもり

だからな、俺。ま・・・その辺を特に『ヨロシク!』」

「またまたそんなぁ・・・。君が実は、結構僕を好いてくれているのは重々承知していま

すよ」

いきなり「舌打ち」から始まった会話を、全く気にしないレオンハルト。

今年も彼は強い。

トムは「フン!」とソッポを向いた。



「・・・そう言えば、めぐみさんの姿がありませんね?」

レオンハルトは居間で、殊更に『ふくよかなボディーライン』を探したが、居る女性と言

えばただ一人・・・隣の「河合エマ」だけだった。

「あぁ、めぐみちゃんは新年で実家に里帰りしてんだ。丁度良かったぜ、メンバー不足で

困ってたんだ」

オリバーがレオンハルトの座る場所を作ってやった。

「何をしようと言うのです?」

「新年早々から、また『お芝居』だとよ・・・ケッ!

トムが白けながら言った。

「いいんだよ!この『シリーズ』は割りと人気があるんだ!で・・・新年初っ端は、何と

初の時代劇に挑もうと思う・・・『水戸黄門』だ」

「・・・アンタ、『誰に向かって』喋ってんだ?」

「『アンタ』ってのは俺の事か?あぁっ!?

「アイデデデ・・・」

オリバーが、生意気を言った三男のこめかみにグリグリ攻撃をした。

オリバーが「誰に向かって」喋ったかは・・・・・そのままうやむやになってしまった。



ルパートがいきなり、サッと手を上げた。


「じゃ、僕『水戸黄門』ねっ♪」

「ってか、どんな役があんだよ?俺、『水戸黄門』の配役あんまし知んねぇし・・・」

「えぇ、僕も実は『水戸黄門』を見た事がありません」

元気良く手を上げたルパートを無視し、トムが時代劇好きのオリバーに「水戸黄門」を詳

しく聞こうとすると、レオンハルトもそれに賛同した。

オリバーは宇宙人を見るような顔で、質問して来た二人の事をジロジロと見つめた。


「『水戸黄門』を見た事が無いのか?非国民だな、お前等。ま、仕方無い・・・よし、説

明するぞ?まず、主人公は『水戸光圀』だ。この人は水戸藩の第二藩主で、その時代の将

軍・綱吉さえも一目置いている人で・・・」

「だから僕が、『水戸黄門』やるからっ・・・モガガッ!

ルパートが話に割り込んで来たので、トムがその口を押さえ込んだ。


「うるっせぇのっ!お前の話はあとだっ!」

「ブー!ブー!」

「うるせぇっ!ブタッ!」

「ブー!ブー!」


ルパートが抗議のブーイングを繰り返す。

そして、オリバーがイライラしながらもまた説明を始めたので、ジェームズが「ブタにな

ってしまったルパート」の口を押さえた。

(ルパートはモガモガ暴れた)

 


「まず、家来の『佐々木助三郎コト助さん』と『渥美格之進コト格さん』だろ?それに・

・・」


「僕が『水戸黄門』するーっ!」

「今、オリバーが説明してるんだからちょっと黙ってろっ!シィ〜〜〜ッ!」


益々強い力でジェームズに口を押さえ付けられたルパート。

流石に観念したようで、大人しくなった。


「あとは、『風車の弥七』と『飛猿』と『お銀』・・・」

「『うっかり八兵衛』もだろ?」

「そう、『八兵衛』だ」

ジェームズに言われ、付け足したオリバー。

「僕は忍者役がいいから『飛猿』がやりたいなぁ〜・・・」

ダニエルが立候補した。

「だから、そういうのは今から決めるっつてんだろ!」

トムが言った。

「僕は『うっかり』している人なんか嫌だモンねーだ!だから僕は『水戸黄門』がいいっ!」

「お前は元から充分『うっかり』してるっ!」

トムが言うと、それに反応したエマがクスクス意地悪そうに笑った。



「でも『お銀』は女だし、それだけはエマがやったらいいかもな?」

トムが一つ、提案してみた。

馬っ鹿じゃないの!何言ってんのよ!あの女には『入浴シーン』が付物なのよ!何で

アンタ達の前で私が風呂に入らなきゃいけないのよ!」

「あの・・・実際に入る訳じゃないよ、エマちゃん?」

ジェームズがソロソロと言ってみた。

「私が自分の裸をいつの日か晒(さら)すのは、オリバーの前だけに決まってんじゃない!」

エマはジェームズの話などまるで聞いていなかった。

「・・・あ、そ」

トムがヒョイと肩を上げた横で、オリバーはドッと疲れた顔をしていた。


「僕が『水戸黄門』やりたいのっ!」


ルパートがまだしつこく騒いでいる。

 


「分かった、分かった・・・やりゃあいいさ。お前が『水戸黄門』!」

ジェームズが言った。

「他に誰か『水戸黄門』をやりたいヤツがいなきゃな・・・」

一応グルリとみんなの顔を見回したジェームズ。

「僕は、『バンビちゃん』が『水戸黄門役』で構いませんよ」

レオンハルトの意見を聞くと、ルパートがニヤリと笑った。

「あぁ・・・俺もジジィ役はやりたくない。俺は出来たら『弥七』がいいな。ちょっと出

てくるだけで見せ場があってカッコいいし、『親分』って呼ばれるんだろ、八兵衛に?」

トムが言った。

「じゃ、僕はやっぱ『飛猿』やりたい!」

ダニエルが続いた。

あーあーあー!みんな、好きな役やりゃあいいさ」

オリバーは投げやりになった。

 



「じゃ・・・俺、『お銀』希望!」

「えっ!?」

みんなが一斉にジェームズに注目した。


「え、ダメなの?今、『やりたいモノやっていい』って言ったろ?だから、俺『お銀』希

望!」

「ま・・・いいけど」

オリバーは胡散臭そうな顔で、自分とソックリな弟の事をジッと見つめた。

「あとは、何が残っているんです?」

レオンハルトが聞いた。

「『助さん』と『格さん』と『八兵衛』ってトコだ」

「私、『うっかり八兵衛』なんて絶対ごめんよ!『助』か『格』をやるわ!あ、確か『助

さんはいい男』って設定だから『助』がいいわ!で、オリバーが『格』!いえ、やっぱ『顔

の良い・助』はオリバーがやると良いわ。とっても似合うはずだし♪で、私が『格』☆

「あ、そ・・・。こうなりゃ、おれは何でもいいさ」

オリバーは投げやりに答えた・・・もうどうでも良かった。



「・・・じゃあ、僕が『うっかり八兵衛』って事ですか?」

レオンハルトが消去法で残った役名を述べた。

「そういう事よ!アンタは最後に現れたんだから、残った役でいいのよ!アンタが『八兵

衛』で決定よ!」

「えぇ、僕は何でもいいですよ。良く『水戸黄門』を知らないし、『八兵衛』がどれだけ

『うっかり』しているかなんて、大して知りませんし・・・」


よりにもよって・・・・・一番似合わない役を引き受ける事になったレオンハルト。

みんなは、『八兵衛』をするには、あまりに華麗なレオンハルトの姿をジッと見つめた。

 

 


役が決まったので、早速お芝居が始まった。

細かい設定は全部素っ飛ばし、ジェームズの希望もあり、なぜか「お銀の入浴シーン」か

ら話は始まった。


ジェームズが居間の襖をスッと開け、スネ毛の生えた足を膝まで出し、しゃなりなしゃなり

と部屋に入って来た。

そして、風呂場と見立てた段ボール箱の中に片足ずつゆっくりと入った。


「う〜ぃ、いいお湯だ〜ね〜♪こりゃ、『ストロベリーの香り』だね♪」

「・・・水戸黄門の時代には『ストロベリーの香り』なんて無ぇぞ」

オリバーが早速演技にダメ出しした。

「いいじゃん、楽しいし・・・」

ジェームズは口うるさい長男を相手にしなかった。



「僕もお風呂入りたーい☆」

「水戸黄門」役のルパートが早速我が儘を言った。


ダーメ!お前に入浴シーンなんか無ぇの!」

「そうよ!誰が見たいもんですか、年寄りの入浴シーンなんか」

エマはすぐに、オリバーと一緒になってルパートを野次った。

「僕はお年寄りじゃないモン!まだ十七歳の少年だモン!」

「何が『少年』だ・・・」

トムがケッとした。

「『水戸黄門』役だろ、お前?『水戸黄門』はな、かな〜りの『爺さん』なんだぞ!」

ジェームズが教えてやった。

「チェッ・・・じゃ、いいや。仕方ないから我慢するよ」

ルパートは唇をプゥーと突き出していた。

 


「お銀さん、お銀さん!」


八兵衛役のレオンハルトが、「うっかり」お銀の入浴中のドアを開けてしまったと言うシ

ーンになった。

おいおい、八っ!お前さぁ、女が入っている風呂場を覗こうなんて、ちょっといけね

ぇな〜」

「お銀」役のジェームズが、「八兵衛」役のレオンハルトを叱った。

「おい、ジェームズ!お前、全然『お銀』らしくなってねぇぞ?」

オリバーは「監督兼助三郎役」だったので、みんなの演技指導を買って出ていた。

「お銀は『色っぽい』って設定なんだ。もう少し女っぽく演技しろよ?何の為に『お銀役

』したかったんだか、訳分かんねぇぞ?」

「へいへい・・・」

ジェームズがオリバーに叱られているのを、エマはまた意地悪そうに笑っていた。

どこまでも性格が悪い。



「お銀さん・・・大変に失礼致しました。私とした事が『うっかり』してました」

レオンハルトっ!『うっかり』って言葉使えばいいってモンじゃねぇんだ!『八兵衛

』にしてはお前の言葉は品が良過ぎる!もっと、こう・・・『スイヤセ〜ン、お銀姐さん

。アッシとした事が・・・ははは♪』くらいにやるモンだ」

オリバーが見本を見せた。

「おぉ・・・巧いですね、お兄様・・・」

「流石だわ、オリバー♪素敵♪」

レオンハルトが感心し、エマはウットリと惚れ直している。

 



ダニエルが唐突にスタッと現れた。


「ご隠居、大変でーす!悪いヤツ等を見つけましたー!」

「おい、ダニエル・・・そんな間延びをしたような口利く『飛猿』がどこに居んだよ!」

オリバーがまたもやダメ出しした。

「え・・・でも、『飛猿』ってこんな感じじゃなかったっけ?」

「全然違うっ!」

「そうだったっけ?」


「とぅっ!」


「弥七」に扮したトムが、割り箸の袋で作った「手裏剣もどき」を投げて来た。

それが、イライラ気味のオリバーの後頭部に当たってしまった。



「痛ってぇな〜・・・何で突然手裏剣投げんだよ!」

オリバーは後頭部を押さえて、三男を睨んだ。

「『風呂のシーン』はもういいからよ、『戦闘シーン』しようぜ♪『弥七』の出番までが

無駄に長い・・・」

『戦闘シーン』はまだだっ!大体、『弥七の登場シーンが少ないのがいい』って理由

でお前はこの役にしたんだろ?それに『無駄に長い』って何だよ・・・って、おいっ!

何でいつの間にか『ご隠居』が『お銀』と一緒に風呂とか入ってんだよっ!


ルパートはちゃっかりと、「お銀」役のジェームズとダンボールの風呂に入っていた。


「だって、『水戸黄門』って暇なんだも〜ん」

ルパートは「おじいちゃん役」らしく、自分の肩に「『ピップエレキ絆』をお銀に貼って

貰う」と言う小細工をしていた。

「頼むから、お前等『水戸黄門』マジにやってくれよぉ〜。俺の大好きな時代劇なんだぞ?」

オリバーは半泣きだ。

「安心して、オリバー・・・いえ、助さんっ!私だけはちゃーんと『格さん』するか

ら!ええーい、控えろ、控えろー!この紋所が目に入らぬか〜!印籠だー!

「いや、エマちゃん・・・今の、『格さん』のセリフとしては若干オカシいし、しかもそ

れは俺
()が言うセリフだよ。話の展開もいきなり唐突過ぎる・・・」

「あら、そうだったかしら?」


「あの・・・『うっかり八兵衛』はこういう時、どうしていたらいいんでしょう?」

レオンハルトがオドオドして聞いてきた。

彼は正真正銘、全く「水戸黄門」を見た事がなかったようだ。

「アンタは『饅頭』でもその辺で食ってろって事よ!」

レオンハルトの質問にエマが答えた。

「え、『饅頭』?お饅頭はここには無いですよ?お正月なんで『栗きんとん』くらいしか

・・・」

「じゃあ、『栗きんとん』でも食ってなさいよ!」

「・・・はい、じゃあそうします」

レオンハルトはちゃぶ台の前に座り、小皿に「栗きんとん」をよそった。



ああああ〜〜〜・・・俺の大好きな『水戸黄門』が崩れていくぅ〜・・・」

オリバーがオイオイと畳みに突っ伏した。

「まぁまぁ婆さん・・・気にすんなって。高々『芝居』だろ?」

「ジェームズ・・・お前は『お銀』なんだから、『栗きんとん』食ってんじゃねぇよ」

オリバーがジェームズから「栗きんとん」の皿を奪い取った。

「『お銀』だって、少しは『栗きんとん』食うかも知れないだろ!」

「お前には最初から『お銀』は無理だったんだ。お前が『八兵衛』をやってさえいりゃ・・・

おい、黄門っ!お前も何食ってる!


「え?」


ルパートは「かまぼこ」をモグモグと放張っていた。


「ねぇねぇ・・・早く対決しようよぉ!」

「そうだ!俺達の『見せ場』がちっとも無ぇぞ!」

ダニエルとトムが吼えた。

あーっ、うるせぇっ!『戦い』はもう終わって『印籠のシーン』で行く!」

助役のオリバーがいよいよキレた。

自分のジーパンのポケットから、「かまぼこの板」を細工した「印籠もどき」を取り出した。

 


「えぇ〜い、静まれ!静まれ〜ぃ!この紋所が目に入らぬかー!」


オリバーが叫ぶと、その言葉に反応したルパートがキョトンとした。


「こちらに居()わすお方をどなたと心得る!恐れ多くも先の副将軍、水戸光圀公で

在(あ)らされるぞー!」

エマは、先ほどオリバーに書いて貰った「格さん」のセリフを棒読みで読み上げた。

「ご老公の御前である・・・図が高〜い!控えおろうっ!

最後はまた助役のオリバーが〆た。

オリバーの気分が少しだけ満足し、快復した。



「それ、僕が言うヤツでしょーっっ!」


「・・・は?」


ルパートが頓珍漢な事を言い始めた。

ルパートは途轍もなく「キレて」いた。


「僕が言うセリフ言わないでよー!んもぅっ!

「・・・は?」

みんながキョトンとした。



「・・・何言ってんの、お前?『黄門』が自ら印籠出して『控えさせる』訳無いだろ?」

ジェームズが「栗きんとん」のお代わりを小皿によそいながら言った。

「そうだ・・・確か、家来の二人が場を〆てたはずだ。そこだけは何回か見た事俺もある」

「え・・・?」

ルパートはトムの言葉にショックを受けたようだった。

「そうだよ、ルパート。黄門様は最後に笑うだけなんだ。『カァ〜ッカッカッカッカッ

♪』
ってね」

「え・・・?」

「はは・・・あの笑い方、ちょっとうちの学園の『ダンブルドア校長』みたいだよな♪」

ジェームズが言うと、トムとエマがプッと噴き出した。



ルパートがガックリと畳みに両膝を付いた。


「おいおい、随分大袈裟だな・・・」

ジェームズは「芝居掛かったルパート」を起こしてやった。

ルパートはメソメソ泣いていた。


「ぼ、僕がそれやりたかったんだモン。だ、だから僕、み、『水戸黄門』になったんだモ

ン・・・」

ポロポロ涙を零している。

「そっか・・・君は配役の勘違いしていたんだね、バンビちゃん?」

レオンハルトが優しくルパートの頭をヨシヨシと撫でた。

「ウエェェ〜〜・・・ン・・・僕がやりたかったよぉ〜・・・『この紋所』したかったよ

ぉ〜・・・ウエェェェ〜〜〜ン・・・」

「・・・ウゼェな」

トムが舌打ちした・・・エマも舌打ちだ。

(この二人、まるで兄妹のように反応が良く似ている)

 


本格的に面倒な事になって来た。

そして、場が思いっきり白けてしまった。


あーっ、うるせーな!仕方ねぇだろ?お前が一番先に『水戸黄門役したい』って、散

々喚いたんだぜ?」

トムは「手裏剣もどき」をちゃぶ台の上に置いて、もうお芝居をやる気を失くしていた。


「ウェェェ〜〜ン・・・違うモン!僕、ホントは『静まれー!』ってやりたかったんだ

モン!間違ったんだモン!ウェェェ〜〜ン・・・」

みんなは大きな疲れた溜め息を吐いた。

新年早々、「十七歳の我が儘発言」にはウンザリだ。



「あー・・・分かったよ。ほら・・・じゃあ、お前やれよ、『助』!」

オリバーが印籠をルパートにグイッと渡した。

うるさいのは適わない・・・。

「・・・・・」

ルパートは印籠を貰うと、あっと言う間に泣き止んだ。

オリバーとトムとエマは、そのイチイチにイライラした。



「えへへ〜♪えっと・・・じゃ、やるね♪『助さん』って何て言うんだっけ、最初?」

ルパートは「キメ台詞」をちっとも知らなかった。

「・・・『静まれ、静まれー!』だろ?」

オリバーが溜め息を吐きながら教えてやった。

「あ、そっか!えっと、『静まれ、静まれー!』・・・えっと・・・で、次は何て言うん

だっけ?」

「おい・・・お前ホントにこの役やりたかったのかよ?」

オリバーが胡散臭そうな顔をした。

やりたかったよ!僕はこれ言いたかったんだモン!」

「なぁ、オリバー・・・ルパートにセリフ書いてやれよ?こいつ、絶対に一回一回次のセ

リフ聞くぞ?」

「・・・だな」

トムが言う事は当たっているだろう。

オリバーはムカムカしながらもセリフを紙に書き、それをルパートに渡した。



「わーい♪コレがあれば、もう大丈夫だよ!ありがとう、オリバー♪」

「良かったね、ルパート」

ダニエルだけは、今回もルパートの絶対的な味方だ。

「礼はいいから、早くセリフ言え!」

「うん!えっと、『こちらに・・・こちらに・・・』これ、何て字?」

「『居わす』って書いて、『おわす』って読むんだよ!」

「そか!えっと・・・『おわすお方をどなたと心得るー!恐れ多くも先の副将軍、水戸・

・・水戸・・・』次何て読むの?」

アホッ!この物語は誰の話だよ!?」

「え、『水戸黄門』でしょ?あ、じゃあコレ、『こうもん』って字?」

「馬鹿っ、違う!『みつくに』っ!」

オリバーの胃が本格的にキリキリしてきた。


「フーンだ!『馬鹿』って言った方が馬鹿なんだモンねーだ!ねぇ、この『くに』って字

さ〜、ちょっとヘンテコな字で難しいよね。僕見た事無いけど、コレって中国の漢字?」

「漢字ってのはな、元は全〜部中国から来た文字なの!」

「へぇ〜・・・そうなんだぁ。中国人って凄いね♪頭イイね♪」

オリバーは本格的に押し黙ってしまった。



「なぁ、爺さん・・・俺、コタツで横になっていいか?」

「ま、頃合いだな・・・ご苦労だったな、婆さん」

ジェームズからオーケーを貰ったので、オリバーはくの字になって体を曲げ、コタツ布団

に頭までスッポリ隠れた。


そして、結局ルパートに最後まで付き合ってお芝居をしたのは、ダニエルと「水戸黄門」

を殆ど知らないレオンハルトだけだったとさ。


チャンチャン♪

 


え〜・・・みなさま☆

新年明けましておめでとうございます。

本年も当サイトをよろしくお願い致しまするぅ〜!!




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