第十七話「温田三姉妹と秩父キャンプ」
「フンフフ〜ン、フンフンフ〜ン♪オ〜、イエッ!」
池照家の双子の次男ジェームズは、ある日の朝、かなり陽気だった。
お気に入りの外国人アーティスト「ラスティー・ローダー」を口ずさみながら、四月も中
旬過ぎ、腰を振り振り楽しげにシャワーを浴びている。
外資系チェーン店型レストラン「トレビア〜ン♪」に働き始めて約一ヶ月・・・。
かなり仕事も慣れて、生活に余裕が生まれていたジェームズ。
スーパーマーケット「ジェスコ」を辞めたとは言え、変わらず彼のファンをしている地元
の奥様方が毎日順番に店に来店してくれるので、この不景気のご時勢にも係わらず「トレ
ビア〜ン♪」はなかなか繁盛しており、ジェームズはスタッフとして以外にも色々と店に
貢献していた。
仕事仲間にも既にかなり信頼されており、店長ウケも客ウケも頗(すこぶ)る良かった。
「フレンチ・レストラン/トレビア〜ン♪」への就職選択は、ジェームズにとっても最良
だったと言えよう。
「まさに小春日和・・・傘は必要ないだろ?」
いつもなら朝の情報番組で天気を確認する所だが、今日はその時間をシャワータイムとし
て使用した為予報を聞けず、確認の為に風呂場の窓をガラッと開けたジェームズ。
「・・・おっ!」
「・・・・・」
先月に池照家の隣に引っ越して来た(エマの住む「河合家」は、池照家の逆隣の家)、美人
三姉妹の温田さん家の次女・陽子が、庭先で洗濯物を干している所とバッタリ鉢合わせだ。
全裸のジェームズと陽子の間に、不思議な時間が一瞬流れた。
「・・・や、おはよ!」
「・・・・・」
爽やかに挨拶するもジェームズ・・・今一度言うが、彼は真っ裸!
陽子はどうリアクションしていいものか迷った挙句、90度も頭を下げた少し古風な挨拶
を無言で返してきた。
長い腰まで届く黒髪が、サラサラと前に垂れ下がる。
「いい天気だね☆いつも早いね、洗濯干すの。あ、俺、そのシャツの柄好き♪『ウニクロ
』の新作だろ?」
「・・・・・」
自分の着ているシャツを褒められ、陽子はまた頭を90度下げてジェームズに応えた。
この姉妹・・・三人共とても美しいのだが、傍にいるだけでなぜか気温を一気に五度ほど
下げる独特の雰囲気を持っていた。
「サムい」反応・・・と言うのではなく、存在そのものがトムに言わせれば「幽霊かよ
っ!」と言うトコだ。
ちょっと「雪女」を想像させる存在感だ。
長女の厚子はジェームズ達の二つ上で占い師(巷では既に、「『新大久保』の姉」と呼ば
れている)、次女の陽子はジェームズ達と同じ歳で研究所勤務、三女の夏海はダニエルと
同じ歳で今年高校一年生だった。
「仕事どう?もう慣れた?確かさ、俺達の仕事場って割りと近いよね?」
ジェームズが気軽に陽子に話し掛ける。
池照家ではジェームズ以外の人間は、みんなこの姉妹の持つ「只ならぬサムさ」が苦手で
あまり馴染まない。
(あからさまに態度には出さないが、ルパートやダニエルでさえも感じ取っていた)
が、どういう訳かジェームズにはその「サムさ」は通じていなかった。
引越し後の挨拶で姉妹がやって来た時も、「良かったな、婆さん?揃いも揃って美人なん
てよ〜♪」と、オリバーの肩に手を回したジェームズだ。
「・・・研究所の仕事はとても楽しいです。子供の頃からの夢でしたから」
陽子が儚い声で答えた。
陽子は日本が誇る「その道」の教授「熊谷直巳(男)」の下、「地球環境温暖化による生物
への影響とその生態」を研究する研究所でこの春から働き始めていた。
京都大学の理学部出身の彼女・・・なかなか優秀な頭脳の持ち主のようである。
「陽子さんって、何の研究してるって言ったっけ?」
「『ガラパゴス諸島』に棲む、生き物全般です」
「へぇ〜・・・ガラパゴスねぇ。所で、『ガラパゴス』ってどこにあったっけ?」
「『エクアドル』の近くです」
「うぉぉ・・・久しぶりに聞いたなぁ、エクアドル。で、『エクアドル』ってどこだっけ?」
ジェームズ、どうやら世界地図には詳しくないようだ。
「エクアドルは南アメリカの西に位置しています。そして、ガラパゴス諸島は123の大
小様々な岩礁(がんしょう)からなっているんです。島全体が世界遺産登録されています」
「へ〜・・・教科書みたいな立派な答えをサンキュー。なるべく忘れないように努力する
よ。で、『研究所』って言うと陽子さんも白衣とか着ちゃうの?」
「えぇ、まぁ・・・」
「へぇ〜・・・見てみたいね、それ♪」
「・・・・・」
ジェームズは普通に陽子に話し掛けているが、もう一度言う・・・彼は全裸なのだ。
しかし、「恥ずかしがって大事な所をタオルで隠す」・・・などと言う小細工はしない。
色々な意味で、非情に「男らしい」彼である。
ジェームズはずっと真っ裸のまま、風呂場の窓越しに平気で同じ歳の女の子とお喋りして
いるのだ。
「お〜い、ジェームズゥ!」
オリバーが台所から大きな声で次男を呼んだ。
「じゃ、またね、陽子さん。おー、今行くー!」
ジェームズの挨拶に、陽子は今日既に三度目の90度の挨拶を返した。
風呂場の窓はまた閉められた。
陽子は暫くその窓を見つめていた。
「・・・池照ジェームズさん・・・素敵・・・」
陽子のその反応・・・「どこかの誰か」と似ている。
その頃、河合家のエマは歯磨きをしながら豪快なクシャミをして、口の中で泡立った歯磨
き粉を鏡に飛ばしていた。
彼女は今、高校の制服・・・ブレザー姿だ。
「高校生になったし、今日こそ・・・何かのハプニングでオリバーとキスする日を迎える
かもしれないわ。念入りに磨いておかないと!」
高笑いするエマ。
姉のその様子を、これまた進級して中学生になった妹のボニーが、いつものようにジッと
無言で見つめていた。
エマは高校生になり、益々「ラブ・イズ・オーバー・フォー・オリバー」の乙女チック度
満載な青春を謳歌している。
ちなみに今年、彼女はダニエルと同じクラスだった。
そしてクラスには何の因果か、温田夏海、中華屋「来々軒」の白湯(ぱいたん)、旧友の小
林も居る。
小林は、今年も最初の登校日からエマに色々「キツい言葉で意地悪」されていた。
そして同じ時刻池照家・・・。
「お〜い、にくー!」
ルパートが制服姿で池照家の廊下をトコトコ歩いていた。
彼は今年、無事(?)高校三年生になった。
学校に向かう出発時刻を当に過ぎていると言うのに、なぜかまだ家に居る彼。
グズでノロマなルパートは、人の三倍も早く学校に出発しなくてはいけないのに、何やら
グズグズしていた。
「お〜い、にくー!にくー・・・イテッ!」
居間に入った途端、ペットの「しーちゃん」に躓(つまず)いたルパート。
しーちゃんは最近特に体が大きくなって、今や甲羅は30センチにもなろうとしている。
「んもぅ!しーちゃんはホント、ノロマなんだから〜・・・そしてちょっとデブ♪」
ルパートは自分のカメを見下ろし、少し「ブラックな表情」をしてクスッと笑った。
「あのな、カメは元々ノロマな生き物なの。それに、お前の『赤ちゃん体系の腹』も俺に
言わせりゃ充分デブだぞ!」
ちゃぶ台に用意された朝食の味噌汁を飲んでいた三男トムが、早速ルパートをツッコンだ。
ルパートは「フン!」と言って、兄を無視した。
ルパートは最近、「遅ればせながらの反抗期」に入っていたのだ。
「腹減ってんなら飯食えよ。うるせぇんだよ、朝っぱらから『肉、肉』って・・・」
トムは味噌汁を飲みながらこめかみ辺りをグッと押さえていた。
彼は進級し、これまた無事に大学二年生になっていた。
テニスサークルに入って来た多くの女子新入生(殆どがトムとレオンハルト目当ての女の
子ばかり)の歓迎会で、昨日はかなり遅く家に帰って来ていたトム。
どうやら二日酔いらしい。
ガンガンする頭と格闘しながら、馬鹿な弟を疎(うと)ましく扱った。
「違うモンねーだ!僕はお腹なんか減って無いんだモンねーだ!おーい、にくー!」
ルパートは相変わらず、朝ごはんを食べない生活を送っている。
「だから何だってんだよ、さっきから『肉』『肉』って!持ってく弁当の『から揚げ』で
もダニエルに取られたのか?」
トムは益々イライラした。
「違うよ!『にく』は昨日、温田さんに『預かって』って・・・あっ、居た!」
ルパートがトムのすぐ脇を指差した。
「ギャッ!」
トムが味噌汁と箸を持ったまま、ザッと立ち上がった。
小型の恐竜のような・・・それでいて厳(いか)つい岩のような姿の生き物が、のしのしと
我が物顔でトムの傍を歩いている。
「どこ行ってたかと思ったよー!んもぅ、お馬鹿さんなんだからぁ〜!」
ルパートがそれをヒョイと抱き上げた。
「な、な、な・・・何ソレ?ってか・・・お前、それ良く抱けるな?」
トムはドキドキがまだ止まらなかった。
少し前に友達と観に行った映画、「トランスフォーマー」の中の、悪者「メガトロン」の
ようなゴツイ姿・・・尻尾までの体長50センチ強。
体全体が濃いグレーで皮膚がゴワゴワしていて、目を閉じてさえ居たら本当に岩にしか見
えない「未知なる物体」だ。
「この子はね、昨日から居る・・・えっと、地球温暖化をしてる温田さん家に教授の陽子
さんが研究している、何とか島の何とかイグアナだよ。名前は『にく』。胃が多分弱いの
。世界の胃酸が欲しいみたい」
「・・・?」
トムはかなり難解な四男の会話を自分の頭の中で適度にシャッフルして並べ替え、まとも
な文章を脳内に構成した。(「世界の胃酸」は「世界遺産」と訳した)
「『にく』って・・・それがソイツの名前なのか?温田さんのペットが・・・え、『にく
』?」
トムは、「あの姉妹、やっぱ少し変わってんな」と思った。
「ううん、『にく』は温田さんのぺットじゃないよ。研究所のイグアナなんだってさ。で
も、へんちくりんで何だか難しい名前だったら、僕が新しいお似合いの名前を付けてあげ
たんだよ」
「・・・で、『にく』?それも充分『へんちくりん』じゃねーのか?」
「でもゴツゴツしてて、何だか『タツタ揚げ』みたいでしょ?」
「確かに・・・」
ある意味「似合いの名前」かも知れない・・・トムは変に納得してしまった。
「でも、家にいるのは今『にく』だけじゃないよ。『ももにく』も居るの。ほら、ソコ!」
四男が指差す方向をトムが振り返ると、自分の股下くらいまである「ピンク色のペリカン
」が!
「うわぁーっ!」
「クワーッ!」
トムはルパートの後ろにサッと隠れた。
トムの叫び声に驚いたペリカンは一叫びし、翼をバサーッと広げて口をパカッと開けて
いる・・・威嚇のつもりらしい。
「で、でけー・・・」
トムは慄(おのの)いて、ルパートの後ろからペリカンをチラ見した。
「トムが大きな声出すから恐がっちゃったじゃないか・・・ほら、おいで『ももにく』」
「・・・何で『ももにく』?」
トムは一応名前の由来を聞いた。(大方想像は付いたが・・・)
「ピンク色なんだよねー、このペンギン」
「・・・ペリカンだろ?」
「ま、そうとも言うかもね」
「どうしてお前はそう、『間違えました』が出ねぇかな?あぁっ!?」
ペリカンもイグアナも、ルパートに妙に馴染んでいた。
今、ルパートを野次るとその二匹を自分に嗾(けしか)けられるかも・・・それは非情に困
る。
トムは今だけはそれ以上色々言うのをやめた。
そしてしーちゃんは、「我関せず」にいつの間にかノシノシと庭に出て行ってしまった。
有りもしない「幸子(きゅうり)」の辺りをウロウロしている。
「トムさ〜ん」
「ぎゃっ!」
めぐみがトムの後ろから声を掛けて来た。
「馬鹿っ!い、いきなり俺の背後に居るなよ!ビビるじゃねーか!また別の動物かと思っ
たぜ・・・。ま、お前は確かに相変わらず動物っぽいけどな」
トムは一言多く付け加え、胸を押さえた。
「恐がりだンなぁ〜、トムさんは〜」
めぐみがクスクス笑いながら、ルパートの抱き上げているイグアナの餌を持って来た。
草のようだが・・・海草の一種らしい。
「こんな凶暴な顔のくせに、そんなヘルシーなモン食うのか?」
「んだ〜。サボテンも好きらしいです〜。あ、頼まれた靴買っておきましたよ〜。玄関に
あるんで確認してくンちぇ〜。大きさ合わないようなら替えて貰って来るんで〜」
「・・・おー」
トムは朝から散々だった。
しかし、おかげで二日酔いはどこかに去った。
ブツブツ言いながら玄関に出ていく。
「うおっ!」
再度、トムの悲鳴が上がった。
春の朝から、玄関に幽霊っ!
・・・ではなく、温田家の長女・厚子が回覧板を持って立っていた。
「・・・おはようございます」
「あ〜・・・どうも」
儚げに薄っすら笑顔の厚子の存在に、トムはブルッと体を震わせた。
そして「サムさ」から突然尿意を催したようで、「あ、すいません・・・俺、ちょっと・
・・。めぐみぃー、厚子さん来てるー!玄関、即行―!」と、めぐみに対応を丸投げ
して自分はさっさとトイレに駆け込んだ。
温田厚子・・・姉妹一の「雪女」・・・。
トムはやはり温田姉妹が大の苦手だ。
美人は美人なのだが、この得体の知れないサムさは勘弁ならない。
めぐみと、二匹の動物を抱っこしてヨタヨタしたルパートが玄関に出て来た。
厚子が儚げな笑顔になった。
「おはようございます、めぐみさん、ルパート君。すいません・・・大きな動物を二匹も
こちらで預かっていただいて・・・」
「いンえ〜」
めぐみが回覧板を受け取った。
ペリカンが「クワーッ」とまた鳴いた。
厚子がその大きな嘴(くちばし)をヨシヨシした。
「陽子の勤めている研究所の教授が昨日から海外出張で、あの子、教授が居ないうちに動
物がもし死んだら嫌だって言って、全部の動物を連れ帰って来てしまって・・・。とても
家だけでは全ての動物を面倒見切れなくて・・・。ご面倒お掛けします」
「温田さん家はみなさん、動物に優しいんですね〜。五日間くらい大丈夫ですよ〜♪みん
なで順番に餌やれば済みますから〜。厚子さん達の家には今、何が居るんですかぁ〜?」
「私の家には今、『ガラパゴスゾウガメのパパリキ・パパラギ』と『メンフクロウのライ
オネス・スカルモルツァ』と『カモメのピニャコラーダ・トーフドーフ』が居ます」
めぐみもルパートも、頭の中にそれらの名前を一つもインプット出来なかった。
トムはトイレの中でその三人の遣り取りを聞いており、「何だ、その馬鹿げた名前は!
?」とイラッとした。
確かに・・・ルパートでなくとも、とてもじゃないが覚えられない不思議な名前を付けら
れた研究の動物達だ。
(これらに比べたら、レオンハルトの「リュックヒェン・フランクバウアー」など、まだ
「まともな方」かも知れない)
「私の家はみんな動物が好きで・・・」
厚子がイグアナにもヨシヨシした。
「僕もだよー♪『にく』と『ももにく』はねー、ホントはずっと僕ん家に居てもいいんだ
けど、ほら、『しーちゃん』は僕の事が好きだからさー、ちょっぴり嫌なんだって。スネ
ちゃうんだよ。可愛いでしょー?今は、庭で『幸子』と遊んでる」
「あら・・・私、まだ『しーちゃん』を見た事がないわ。今度ぜひ見せてね♪」
「うん!」
ルパートは言わなくても良い事を楽しそうに報告し、それを聞いた厚子は微笑ましく笑った。
「ホント・・・いつも可愛いわね、ルパート君♪」
厚子がニコッと笑い掛けた。
その途端、ルパートが「ックシ!」とクシャミをした。
「どしてだろ?僕、温田さんに会うといつもクシャミが出るんだけど?」
ルパートがブルルと震えながら首を傾げた。
「ほほ♪どうしてかしらね?あ、今日はハンカチの色を緑にすると良い事あるわよ♪」
「え、ホント!?わーい♪」
ルパートは動物を抱えながら、ハンカチを探しに行った。
そして厚子が帰ったのを確認してから、トムはトイレからソロ〜ッと出てきた。
「めぐみ・・・味噌汁おかわり。そして、ルパート・・・お前はいい加減さっさと学校
行けっ!」
「ダンと一緒に行くんだモンねーだ!」
ダニエルは高校の制服・・・ネクタイにまだ慣れておらず、鏡の前で二十分も奮闘していた。
(結構不器用な彼だ)
トムは最近、めぐみの作った味噌汁だけは毎朝飲むようにしている。
なぜだかこの味噌汁だけは、温田姉妹の「得体の知れないサムさ」を消し去ってくれるのだ。
不思議なパワーを持っためぐみの祖母が、田舎で手作りしていると言う「めぐ味噌」使用
のめぐみの味噌汁。
「オカシなモノ」を、体の中から取り去ってくれる効用があるのかも知れない。
そして、その日の午後・・・。
ホグワーツ学園高等部、三年生のあるクラス・・・。
男性教師を向こう側にして、神妙な顔のオリバーとのほほんとしたルパートが並んで座っ
ている。
進級後初めての、ルパートの進路を話し合う三者面談の席である。
「・・・君も三年生です、池照君。どういう将来を考えていますか?」
「え?」
「『え?』じゃねーだろ。先生が聞いてんだ・・・答えろよ」
ルパートはササクレを剥いていたので、先生の言う事を全く聞いていなかった。
オリバーはムカムカしていた・・・家だったらゲンコツの一発も落とす所だ。
両親の居ない池照家・・・トムの時も、こうしてオリバーが弟に同席した。
「ん〜・・・僕の未来かぁ・・・。多分僕、まだあの家に住んでると思うな。結婚はまだ
しないと思う」
「そー言う事じゃない!『進路』をどうするかって先生は聞いてるんだ!」
オリバーはトーンを落とし気味に声を荒げた。
「進路〜?え、僕の?」
「お前のじゃなかったら、誰のだよっ!」
「まぁまぁ、お兄さん・・・。そうだよ、池照君。君、来年どうしようと思ってる?先生
、それを聞かせて欲しいんだ」
先生は「ルパートの病気」の事をそこそこ理解してくれていたので、なかなか気が長かった。
始終笑顔で、優しくルパートを見守っていた。
「さぁ、聞かせてくれるかな?君のビジョンを?」
「ビジョンって何?テレビに関係ある?」
「テレビには何の関係も無いっ!さっさと答えろ!」
オリバーは拳をギュッと握って、隣のルパートを威嚇した。
残念ながら、そのアクションにルパートは気付かずだ。
優しそうな担任だ・・・オリバーはホッとしていた。
ルパートは指をテーブルの下でモジモジさせて、考えているのか考えていないのか全くハ
ッキリしない。
「じゃ・・・質問の仕方を変えようか。君の夢はなんだい?夢を聞かせてくれないか?」
担任はルパートの為に、なるべく温和にゆっくり会話を進行して行った。
「僕の夢?昨日の夢なら簡単なんだけど。あのね、しーちゃんが庭の幸子(きゅうり)を全
部食べちゃったんだよ。で、僕が『わー!ダメでしょー!』って怒ったら、しーちゃんが
『何で?』って喋ったの。で、僕が『わー!しーちゃんが喋ったー!』って言ってね、そ
したら幸子が・・・アイテッ!」
オリバーがルパートの側頭部をボカッとパンチした。
「昨日の夢の話なんか聞いてないんだ!今先生が聞いているのは、お前の来年の夢の
話だ!この馬鹿たれがっ!」
「まぁまぁ、お兄さん・・・」
先生が笑顔でオリバーを制した。
「でもさぁ、来年の夢は来年にならないと見ないと思うんだけど?僕、魔法使いとかじゃ
ないからさぁ、色々今言われても分かんないんだよねー」
「・・・・・」
相変わらず、質問には頓珍漢なルパート・・・しかし、全部の答えが合っているなら、ある
意味頷ける。
オリバーは顔に手をやって、ガックリと俯いた。
「すいません・・・先生・・・」
オリバーは首を九十度下に落としたまま、担任に話し掛けた。
「・・・家で少し話し合おうと思います。今は多分、コイツ色々無理みたいで・・・」
「・・・そうしてくれると助かります」
担任は薄っすら笑顔だった。
笑い方が、少し「堺 雅人」と言う俳優に似ていた。
オリバーは、ルパートとの初めての三者面談に相当疲れたようだった。
「ほら、帰るぞ」
「はーい♪じゃ、さよならー、センセー!」
「うん・・・さよなら」
オリバーとルパートが教室から出て行くと、担任は次の生徒と母親を教室に呼んだ。
「内田君、どうぞ!」
「担任を困らすんじゃねーよ、この馬ぁ〜鹿!」
夕飯の席でトムがまたルパートを野次った。
「『馬鹿』まで言わなくてもいい。ほら・・・ルパートも泣くな」
ルパートはコロッケを目の前に、唇を突き出して涙目だ。
人には結構「馬鹿」を言うくせに、自分が言われるとすぐ泣く・・・面倒臭い男だ。
「ちゃんと考えてみろよ。お前の人生なんだぞ?大人になったらどうしたいんだ?」
オリバーは諭すように聞いた。
「ん〜〜〜・・・僕、『電王仮面』になりたいなぁ」
「馬鹿っ!」
オリバーが怒鳴った。
結局・・・オリバーにも「馬鹿」と言われ、ルパートは本格的にメソメソし始めた。
「みんな酷いよ、ルパートを苛めるな!大丈夫だよ、ルパート。僕がず〜っと一緒に居て
あげるからね」
「うん」
ダニエルだけがいつもルパートの味方だ。
ルパートはコロッケを放ばった。
そして、今泣いていたくせにケロッと泣き止み、テレビでやっている「ドラえもん」を見
て「あはは♪」と愉快そうに笑った。
オリバーもトムも、それ以上真剣にルパートを相手に話をするのに疲れてしまった。
「俺は逆に、夢は超有り過ぎるんだけどなぁ・・・」
突然ジェームズが話に割り込んで来た。
彼は取り皿に、三つもコロッケをキープしていた。
彼は今日早番で、少し帰りが早かったのだ。
それに、何をもって『逆』なのかが意味不明だ。
「俺ならさ、超山奥でアホほど行列の出来るラーメン屋とかしてみたいね〜。でなかった
ら・・・無人島で10年間一人で生き延びてみるとか、世界一デカイ花火作って、富士山
の頂上から打ち上げてみるとか・・・」
「お前の『無駄にデカい夢の話』は今はどうでもいい!」
オリバーに話を止められたジェームズ。
「ま、体が一つしか無いってのが一番の悩み所だけどな。ははは♪」
ジェームズは全く気にしていなかった。
「なぁ、真剣に考えろよ、ルパート・・・お前の事なんだぞ?」
オリバーは再度ルパートに聞いた。
「僕はさぁ〜・・・ずぅ〜っとみんなと一緒に居たいなぁ。みんなで仲良く、ずぅ〜っと
一緒に居たいの。それだけなの。僕は特別凄い未来とか要らないの。いつも通りが一番好
きなの。ホントなら、そこにはお父さんもお母さんも居て欲しいんだけどね〜♪」
みんなが真面目な顔で四男を見つめた。
「何か分かります〜、そういうの。優しいんですね〜、ルパートさ〜ん」
めぐみが微笑ましそうに言った。
彼女は既に茶碗に五杯目のご飯である。
ルパートはテレたように「えへへ♪」と笑った。
「・・・何の解決にもなってねぇじゃん、その答え・・・」
トムが「やれやれ」と溜め息を付いた。
しかし兄弟達は・・・その日、ルパートにそれ以上「答え」を求めようとはしなかった。
そして数日後の日曜日・・・。
「アンタ『何様』だよ!」
「『俺様』だ!」
トムとオリバーが庭で口論していた。
長男に「俺様だ」と言われ、トムは苦々しく押し黙った。
オリバーに勝手に部屋の漫画本を処分され、トムは少しばかり怒り狂っていたのだ。
池照家の家訓には、「長男の意見が第一優先」と言うのがある。
オリバーはそれを利用し、増える一方のトムの漫画本を当人の知らない間に処分してしま
ったのだ。
「くそ!ズルイよなぁ・・・こういう時ばっか、『家訓』の『兄の権力』盾にしやがって
よ〜。ったく、『ぐぅの根』も出ねぇじゃねぇか・・・」
「え、『ぐ』が言えないの?あははは♪僕は言えるけどねー、『ぐ』って。簡単だよ。『
がぎぐげご』の段の三番目を言えばいいんだよ?口をこう、『う』みたいにして・・・『
ぐ』!」
ボカッ!
「何だよぉ〜・・・痛いでしょーっ!んもぅっ!」
ルパートが頭を押さえて唇を突き出した。
「お前が喋ると色々ややこしくなるんだ!黙っとけ!」
「僕が折角『ぐ』の言い方教えてあげたのに・・・ケチッ!ねぇ、オリバァ〜・・・」
ルパートは早速長男の後ろに隠れてトムをチクる。
オリバーは「ケチッ!」の出た場所が意味不明だ。
「コラーッ、トム!ルパートをまた苛めてるだろ!?やめろー!」
愛する兄・ルパートがやられたのを見掛けたダニエルが、自分の部屋の窓から顔を出して
、庭の三男に向かって悪態を付いた。
彼は今、真面目に宿題をやっている所だった。
「何だと、こんのぉ〜・・・」
トムがゲンコツを振り翳し、キッと上を向いた。
ダニエルは「ベーッ!」として窓を閉め、サッと引っ込んでしまった。
「あのやろ・・・高校生になったからっていい気になりやがって・・・覚えてろよ?」
「いいですねぇ〜・・・池照さん家はいつも賑やかで・・・」
「うおっ、いきなりサムッ・・・」
トムが後ろを振り返ると、隣の厚子が垣根越しにその一部始終を見つめて微笑んでいた。
トムが猛烈な速さで二の腕を擦り始めた・・・ルパートもまたクシャミをし始めた。
オリバーは厚子に笑顔を向けながら「どーも」と挨拶し、それでもやはり歯をガチガチ言
わせている。
「こんにちは、オリバーさん、トムさん、ルパート君。実はお隣同士、もっと仲良くなれ
たらなと思いまして・・・秩父にキャンプでもご一緒しませんか?今度のゴールデン・ウ
ィークとか・・・如何でしょう?何かもうご予定が?」
「え、と・・・何で『秩父』?」
オリバーが聞き返した。
「秩父の方角に何か『良い兆し』が見えるのです」
「・・・・・」
兄弟三人が押し黙った。
厚子は占いの技術を用いて、時々こうして池照家の人間に色々とアドバイスを持ち掛けて
来る。
そんな中、池照家の庭に突如バラの香りがフンワリと漂った。
「ハァ〜イ♪こんにちはぁ、みなさ〜ん!レオ〜ンハルト・ハインリッヒです♪お忘れ
じゃないでしょうね?おや、暫く訪れない間に新しい顔ぶれですね?」
レオンハルトが厚子に気が付いた。
「温田厚子です」
厚子が深々とお辞儀をした。
「これはこれはご丁寧に。僕は池照家の・・・いや、取り合えずはトム君の大親友、レオ
〜ンハルト・ハインリッヒです。以後、お見知りおきを・・・。やぁ、めぐみさん。こん
にちは!」
「こんにちはですぅ〜、レオンハルトさ〜ん」
どうやらジェームズ同様、レオンハルトにも温田家のサムさは通じないらしい。
トムは、「お前は俺の親友なんかじゃ無ぇ」とブツブツ舌打ちしていた。
「めぐみさん・・・久方ぶりですね。お変わりありませんか?あ〜・・・相変わらず魅力
的な方だ。これをあなたに!」
バラの花束だった。
「ありゃンまぁ〜、いつもすンませぇ〜ん、レオンハルトさ〜ん。でも、確か二日前に会
いましたよね〜?あ、私今朝〜、1、8キロも痩せたんです〜♪」
「おぉっ、そうでしたか!でも、僕は健康的なめぐみさんがとても良いと思います。なの
で、どうぞ体など壊さぬように・・・」
「コイツがたかだか1.8キロくらい痩せたって、何が何だかちっとも分かん無ぇぞ?コ
イツは少しくらい体壊した方がいいんだ」
トムが尽かさず悪態を付いた。
オリバーがその失礼発言に、一応凸にペチンと制裁を入れておいた。
「あぁ、トム君・・・君のその愛ある毒舌、僕は大好きです♪ゾフィーと四人で、水道橋
の『ラクーア』に行って以来です」
二日前の金曜の夜に、トムとめぐみとレオンハルトとゾフィーの四人は、「東京ドーム内
の『ラクーア』に遊びに行っていたのだ。
「そう言えば〜、ゾフィーちゃんはそろそろドイツに帰るんですよねぇ〜?来週辺りです
か〜?」
めぐみが聞いた。
「いえ・・・実は今、彼女を成田まで送って来た所です」
「え?」
「何っ!?」
めぐみとトムが驚いた。
「やンだぁ〜、そったら水臭ぇ〜なぁ・・・。言ってくれれば一緒に見送りしたのに〜」
「寂しくなるから誰にも言うなと・・・また必ず来日すると言ってました。みなさんによ
ろしくと・・・」
「そうですかぁ〜・・・。でも、残念だぁ〜・・・」
めぐみがションボリした。
「ゾフィーちゃんに僕、もう一回会いたかったよ・・・」
ルパートもションボリした。
みんなも・・・そして、勿論トムも少しガックリしていた。
ゾフィーと過ごしたひと夏・・・もといっ、「ひと冬の思い出」が過ぎ去って行ってしま
ったようだった。
「ちょっと!」
その声に、みんなが上を向いた。
河合家の方から「声」は聞こえた。
「色々聞いてたわ!秩父にキャンプですって!?私も行くわよ、それ!」
エマが自分の部屋から、池照家の庭の遣り取りを盗み聞きしていたのだ。
突然参加希望を出して来たにも係わらず、口調が「上目線」の彼女だ。
「え、何です?秩父にキャンプとは?」
「何でも無ぇ」
質問してきたレオンハルトを、トムが一刀両断した。
「ゴールデン・ウィークに『秩父にキャンプに行きませんか?』と、ただ今池照さん達を
お誘いしていた所だったんです」
厚子が答えた。
「それはいい♪ぜひ、僕もご一緒させてください。そうだ・・・キャンピング・カーが
家のガレージにあります。僕が運転いたしましょう」
「まぁ、素敵です♪」
厚子が手を叩いた。
「何人になりますかね、全員で・・・え〜と?」
レオンハルトが頭数を数え始めた。
「池照さん家がめぐみさんを入れて六人、うちが私と陽子と夏海の三人、それに河合さん
家のエマちゃん、それにあなた・・・全部で十一人・・・え、じゅ、十一っ!?」
厚子が恐怖の顔で仰け反った。
「何か?」
厚子がヨロヨロと慄(おのの)くので、レオンハルトが不思議がって聞いた。
「奇数はとてもマズイです・・・不吉だわ。遇数がいいのです、秩父方面は・・・」
厚子がワナワナと震え始めた。
「はは♪大丈夫ですよ、厚子さん。気にし過ぎですって」
オリバーが笑った。
(だが、さっきから彼はず〜っと二の腕を擦っている。どうやらずっと「サムい」らしい)
「・・・心配だわ・・・とても嫌な予感がする・・」
厚子が悲観した途端、天気なのに雨がポツポツと降って来た。
「ヤベッ!洗濯物をみんなで手分けして取り込めーっ!」
オリバーが兄弟に指示を出し、一旦その話はそこで中断した。
そして・・・。
日は過ぎ、あっと言う間に日本列島はゴールデン・ウィークに突入した。
高速道路は一律1000円効果で、大混雑である。
故に、「秩父・キャンプ」は一般道路で移動している面々だ。
朝から天気に恵まれている・・・気温は今日、いきなり二十五度を超え、場合によっては
水遊びが出来そうなほどだ。
キャンピング・カーの中では、十一人それぞれに有意義に過ごしていた。
「あ〜〜〜っ・・・腹減ったぁ〜〜〜・・・」
キッチンの冷蔵庫を開けて、魚肉ソーセージに手を出したジェームズ。
(朝早くの出発で朝飯抜きだったので、ジェームズの腹減りはピークを迎えていた。魚肉ソ
ーセージはジェームズの日々の「おやつ」的役割を担(にな)ってて、自分用に朝一で十本
ほど入れて置いたのだ)
「めぐみちゃんおにぎり持ってたぞ?貰えよ」
オリバーがそう言うと、「いや、向こう着いてからの食事に100%期待しているから、
今は涙を呑んでやめておく」と返答したジェームズ。
魚肉ソーセージなんかでは実際腹の足しにもならないが、今は取り合えず「我慢の人」だ。
今車は、都会を離れてかなり山の中に入り込んでいた。
目的地までは、もう暫くだ。
「マァーボォードォーフゥー!」
ルパートが車の窓を開けて、突如山々に向かって叫んだ。
「フー・・・ウー・・・ウー・・・」とそれが辺りに木霊(こだま)する。
「・・・何言ってんの、お前?」
トムは読んでいた雑誌の横から、馬鹿な四男を非難がましく見つめた。
「今、僕が食べたいの言ってみた」
時刻は十時四十分・・・ルパートもそろそろ腹が減って来たようだ。
「じゃ、僕も何か言おうっと!」
ダニエルがコホンと咳をして、外に向かって続いて叫んだ。
「ルパァートォ〜〜〜〜!大好きだぁー!」
「だー・・・あー・・・あー・・・」とこれまた木霊した。
「・・・おい、今ルパートは『食いたいモン』を叫んだんだぞ?」
トムが訝しげな顔をして末っ子を睨んだ。
「え・・・僕はだって実際『ルパート』を・・・」
ボカッ!
「痛っ!」
「アホかっ!この変態のドチビがっ!」
「・・・何が『変態』なんだよぉ、トム・・・」
ダニエルはツムジの辺りを押さえながらブツブツ文句を垂れた。
どうやら、ダニエルには「深い意味」はなかったようだ。
しかし、トムは兄として・・・いや、人として「制裁を入れて置かなくてはいけない」と
考えたようだった。
「叫ぶなら食いモンにしろよ、食いモンに・・・。ったって、川岸のキャンプじゃおそら
く麻婆豆腐は作ら・・・」
「トムくぅ〜〜〜ん!大好きでーす!」
「でーす・・・でーす・・・ーす・・・」
ガクッ・・・。
「あのヤロ・・・」
トムはコケた。
運転手席から、後ろの面々の叫び声を聞きつけたレオンハルトが「流れに乗って」叫んだ
のだ。
「・・・いい加減にしろよ。どいつもこいつも・・・」
トムがイライラしてまた雑誌に目を落とす。
「馬鹿の相手」はよそうと決めたらしい。
そんな様子を、温田家の三姉妹は「みなさん、仲がホント良いんですね」と微笑ましく見
ていた。
「・・・サミ〜な・・・」
トムは三姉妹とは目を合わさずブルルッと震えて、持って来ていたパーカーを羽織った。
ルパートも「ックシッ!」とクシャミした。
「ところで・・・お前、良く休み貰えたな?ゴールデン・ウィークってお前の店は稼ぎ時
なんじゃないの?」
オリバーが、二本目の魚肉ソーセージをパク付いている次男に問うた。
「喫茶レインボー」と違って、大型店舗の「トレビア〜ン♪」は相当の客数が見込まれて
いるはずだ。
オリバーはソファーに横になり、既に片手にビール・・・。
レオンハルトに運転を任せっきりで、すっかり寛(くつろ)いでいる。
「普段の行いがいいモン、俺。店長にも気に入られてるし・・・『無理が利いた』んだ」
二人は今、レオンハルトの運転するキャンピング・カーの後ろのソファーに横になり、ほ
ろ酔い状態だった。
エマはちゃっかりオリバーの横に席を陣取り、オレンジジュースを飲みつつ車に内蔵され
てある液晶テレビからワイドショーを観ていた。
温田三姉妹と池照家の下の弟二人は、トランプで「ババ抜き」を始めた。
トムはそこから少し離れて「バイク雑誌」を読んでいる。
めぐみは助手席に居た。
手には巨大な「自家製おにぎり」・・・例の「めぐ味噌」を塗ったモノだ。
軽くハンドボールくらいある大きなおにぎりだ。
「運転ありがとうございます〜、レオンハルトさ〜ん。おにぎりいかがです〜?」
「ありがとうございます、めぐみさん。しかし、今カーブ道なので片手が塞がらない方が
いいかと思いまして・・・。おにぎりは後にします。すいません」
「いンえ〜・・・。じゃ、私だけ〜」
めぐみはレオンハルトを気にせず、景色を見ながらモリモリと握り飯を食べ始めた。
(めぐみ・・・減った1.8キロはすぐに戻っていた)
「みなさんが喜んでくれて良かったです。このキャンピング・カーは僕が子供の時、ドイ
ツでは良く走らせたのですが、ここ最近はずっと使用していなかったので・・・。僕とし
ても、これで出掛けるのは久しぶりなので嬉しいです」
「そうですか〜」
レオンハルトは助手席にめぐみがいるので特に嬉しいようだ。
「そう言えば・・・めぐみさんの幼い時の話、あまり聞いた事がありませんでした。何か
お話くださいませんか?眠気覚ましに丁度いい・・・」
レオンハルトは自分の身支度と車の手配で、朝二時起きだった。
(ちなみに、「身支度」の方で二時間掛かっている。車の準備は僅か三十分だ)
「昔の話ですか〜?んじゃ〜・・・。私がフランスに居た事は話した事ありましたよね〜
?小さい時に父ちゃんの『手作りハムとソーセージの勉強』って事でフランスに行ったん
ですよ〜」
「はい、伺った事があります。ご実家が確かお肉屋さんでしたモンね?」
「はい〜。父ちゃんは、『秋田の土地の肉さ使って、本格的なハムとソーセージを作りて
ぇ』って思ってたみたいで〜・・・母ちゃんと私を連れて修行の為にフランスに渡ったん
です〜」
「勉強家なお父様だ・・・素晴らしいです」
レオンハルトは年末年始に秋田で世話になった、めぐみの父親「卓夫」の事を脳裏に思い
浮かべた。
トムと共に雪山で遭難した、あの出来事・・・随分過去の出来事のように感じる。
「めぐみさんは、フランスのどの辺りに住んでおられたのですか?」
視界は、すっかり山道だった。
新緑が青々と生い茂り、空から降り注ぐ強い日差しをそれが上手い具合に遮断していた。
栃木の「いろは坂」とまでは行かないが、山越えをしているので、カーブがずっと続いて
いる。
「私達は、『ランヌドック−ルシヨン』です〜」
「お〜・・・『ランヌドック−ルシヨン』ですか!?」
「知ってますか〜?」
「はい。あの辺りはフランスのカンパーニュ(田舎)でも、特に好きな地域です。僕の別荘
からそんなに離れていません。フォアグラとトリュフの産地ですよね?ワインも美味しい
し・・・素敵な所で幼少期を過ごされたのですね、めぐみさん。感性が豊かな訳だ」
レオンハルトがめぐみを持ち上げ、一人納得していた。
「はい〜・・・食いモンは確かに美味かったですね〜。子供だったんでワインは飲ませて
貰えませんでしたが、向こうで飼ってたうちの豚には良く父ちゃんが餌で与えてました〜」
「え、ワインをですか?いやぁ〜・・・幸せな豚だな・・・」
「『メル』って名前の豚を潰す時は泣いたなぁ・・・。私、その豚を特別可愛がってたん
で〜。でも、食べたら美味かったぁ〜」
「・・・・・」
「うちの母ちゃんが良く作ってくれたのは、『豚肉と白いんげんの煮込み』です〜。シー
ドルに結構合うんですよ〜。レオンハルトさん、『シードル』は知ってますか〜?飲んだ
事はありますか〜?」」
「フランスのは無いです。我がドイツにも名前を『アップフェルヴァイン』と呼ぶものが
ありますが・・・あれと似ているのでしょうか?確か林檎を発酵させて作るものですよね
、シードルって?炭酸が入った・・・」
「はい〜。それを蒸留すると林檎のブランデーになるんです。有名なのが『カルヴァドス
』って言います〜」
「あ〜・・・カルヴァドスは良く知ってます。うちの母がアップルパイを作る時、時々隠
し味に入れますよ。なるほど〜・・・めぐみさんはそういう豆知識、本当に良くご存知だ。
そういうウンチクを知っていると、食事の楽しみも殊更豊かなものになりますね。そうだ
!いつか、めぐみさんの事を食事にお誘いしてもよろしいでしょうか?」
「あンら〜、楽しみだぁ〜・・・。喜んで〜♪」
「はい・・・じゃ、ぜひお誘いします。素敵な店を選びますね♪」
レオンハルトはウキウキして来た。
初めて、めぐみをデートに誘ったのだ。
「ところで、レオンハルトさんはハムとかソーセージは好きですか〜?」
めぐみの話は突然変わった。
「えぇ。言ってませんでしたっけ?うちの父の会社が、実はドイツでハムとソーセージの
会社を経営していまして・・・。で、僕も昔は家族でドイツに住んでいたのです。ただ、
母が日本に帰らなければならなくなり、彼女と一緒に十歳の時『神戸』に来たのです。父
もすぐにドイツの本社を弟に任せ、母の実家である神戸を拠点に会社を構え、今では世界
に二箇所から市場を伸ばした人なんです」
「ンまぁ〜、そうだったんですか〜?私達、何だかちょっと色々共通点がありますね〜?」
「ですね。はは・・・前も喋ったかも知れませんが、意外と昔、一度くらいは向こうで僕
達擦れ違っていたかも知れませんね?」
「んだ〜。楽しかっただろうなぁ・・・その時、レオンハルトさんと知り合ってたら〜」
ドッキン・・・。
「え・・・」
めぐみが意味深な事を言うので、レオンハルトがハンドル操作を誤った。
危うく・・・崖に転落だ。
「馬鹿野郎っ・・・危ねぇだろっ!」
「しっかり前見て走れよ!」
「まだ死にたくねぇぞぃ、俺ぁ!」
「ホント・・・気を付けなさいよ!私の未来はこれからなのよ!馬鹿!」
途端に後ろから、トムと双子の怒号が次々飛ぶ。
加えて・・・エマだ。
「ス、スイマセン・・・」
レオンハルトは軌道修正してしっかり前を向き、ハンドルをキチンと握り直した。
だが、まだ少しドキドキしていた。
チラッと横目でめぐみを見る。
が、めぐみの方はもう「気」が別の所に向いていた。
「あンれ〜・・・あそこ饅頭屋だぁ。帰りに少しばっかり買いてぇなぁ〜・・・」
「・・・・・」
レオンハルトは少しガクッとした。
しかし、今はそれでいい・・・それで安堵した。
「ほら、めぐみさん、あそこ!どうやら、『蕎麦打ち体験』とか出来るみたいですよ?」
「あンれまぁ〜・・・私一度やってみたいんだぁ〜、アレ・・・」
「はは♪その時はお供いたしますよ」
そのまま、話題をナチュラルに変えたレオンハルトだった。
十一時前には、何とかキャンプ場へ到着した。
途中、工事や小さな崖崩れが原因で何箇所か道が閉鎖されており、予定の時間より随分到
着が遅れていた。
「スミマセン・・・キャンピング・カーに内蔵されてあるナビが少々古いモノでした」
レオンハルトはすまなさそうだった。
川岸には、同じくキャンプらしき家族や大学生のグループが所々に居る。
既にあちらこちらから良い匂いが漂って、池照家ご一行達の胃を刺激していた。
「私達は、その大きな石の辺りにテントを張ると良い事があると思います。入り口は南北
向きで・・・。」
厚子が突如、「新大久保の姉」に変化した。
みんなは色々それに対してツッコンだりしてもメンドーなので、厚子の言うままに拠点を
「大きな石」の辺りに決めた。
「どうしたの、河合さん?」
温田夏海がエマに声を掛けた。
夏海は身長のかなり低い女の子だ。
多く見積もっても145センチ・・・髪は短く、見た目ボーイッシュな感じだ。
だが、流石温田家の人間・・・「サムさ」をどうしても隠し切れない。
「話し掛けないで・・・ウプッ」
エマは車内で飲んだオレンジジュースとカーブ道にすっかりやられ、グロッキーになって
いた。
口を押さえ、青白い顔でしゃがみ込んでいる。
そんな事はお構いナシに、ルパートとダニエルは川縁で「キャッ♪キャッ♪」と大ハシ
ャギしている。
「わぁー・・・見て見て!小さい魚が一杯泳いでるよ、ルパート!」
「ホントだぁー・・・。帰る時、『しーちゃん』にちょっこし(ちょっと)お土産で持って
ってあげようかな」
「ははは♪『しーちゃん』は食べないと思うよ?」
「違うよ。『お友達』にしてあげるの。『にく』と『ももにく』が研究所に帰っちゃった
からさ」
「優しいなぁ、ルパートって・・・。ホント、君って天使みたいだよね〜」
「えへへ〜♪そうかなぁ〜・・・」
二人は既にラブラブ・モードだ。
池照家の面々は聞こえていたが敢えてそれを無視した。
「ったく・・・私が具合悪いってのにラブ付いてるんじゃないわよ!」
エマはブツブツ二人を呪った。
「大丈夫か、エマちゃん?」
そう後ろから声を掛けて来たのは、エマにとって『あの愛する愛しい人』の麗しい声・・・。
「大丈夫よ、オリバー。少し休んでいれ・・・何だ、アンタの方?」
折角少し大袈裟にフラ付いてみたのに、残念ながら「ジェームズ」の方だった。
途端にゲッと言う、現金な顔になったエマだ。
「空きっ腹だから、気分悪くなったんだろ・・・。何か腹に入れれば治るはずだよ」
「アンタじゃあるまいし、飯食ったくらいじゃ、私の気持ち悪いのは治らないのよ!放っ
ておいてよ!シッ!」
「へいへい・・・相当『お冠』だね。ま、少し横になってな。今、美味〜い飯作ってやる
から・・・な?」
ジェームズは自分のシャツを脱いでエマに掛けてやった。
「アンタ・・・さては私に気があるわね?ジョーダンじゃないわよ!私にはレッキとした
愛する人が・・・」
「分かってるよ。けど、おっかしいよなぁ〜・・・同じ顔なんだけどな。何が違うんだ?」
「どこもかしこもよ!比べるなんて、百億年早いのよ!」
「へいへい・・・」
ジェームズは、「障らぬタタリに憂いナシ」とばかりに去って行った。
エマはそんなジェームズの後姿を見送り、「フン!」とのたまった。
「はぁ〜あ・・・このシャツがもしオリバーのだったら・・・。大体、『私のオリバー』
はどこよ?」
いつの間にか、「エマのオリバー」になっていたオリバー。
(本人今、絶妙なタイミングでクシャミした)
エマが辺りをキョロキョロすると、オリバーはテントの用意する為に大きなバックを下ろ
し、テントキッドを広げている。
「あぁ・・・私の為にテントを張る愛しのオリバー・・・素敵♪」
エマの言い回しは今、ちょっとしたミュージカルのようだった。
自分は病弱で金持ちの悲劇のヒロイン(ちなみにどこのか国の姫)・・・そしてあそこに見
えるのは、カッコいいけど貧乏な自分の愛する人(ちなみに馬番)。
(「失礼じゃないか、おい・・・」byオリバー)
二人の間には生まれや育ち、邪魔者などが沢山あり、「禁断の恋」は果たして上手く行く
のか否か・・・。
「エマ、ゲロ袋あげるね。一杯あるから・・・」
「・・・・・」
不意に後ろから、大量の「ゲロ袋」を持って現れたダニエル。
「そーそー!一杯、ゲロ出しな?ね?」
ニコニコのルパートだ。
・・・ロマンティックもへったくれも無い。
「チッ!」
エマは「エロイメッサイム、エロイメッサイム・・・」と、去って行く二人の後ろ姿に向
かって、「悪魔の呪文」を唱えた。
「よぉ〜し!じゃ、『係り』を言い渡すぞー!俺とジェームズで、『テント』を一先ず男
女別に二つ張る!トムとレオ〜ンハルトは、川で食えそうな魚を釣る!食える魚釣れよな
?めぐみちゃんと厚子さんは飯炊き兼、飯の用意全般モロモロ!で、陽子さんと夏海ちゃ
んは食器類の用意と飲み物係りだ!以上っ!」
「え、僕達は?」
係り発表を言い終えたオリバーに、ルパートとダニエルが手を上げた。
「お前らの仕事は、まぁ・・・『みんなの作業の邪魔をしないようにする事』だな」
「えーっ、ヤダよ!僕達も何かしたーい!」
「そうだー!したーい!」
ダニエルが意義を申し立て、それに賛同するルパート。
ルパートは明らかに、弟の真似をして喜んでいるだけだ。
「・・・じゃ、薪集め・・・」
トムがボソッと言った。
「はーい!ぃよぉ〜し、一杯取ってくるぞぉー!行こう、ルパート!」
「おー!」
やはりルパートは、ただ単に「ノリ」で喜んでいるだけだ。
二人はタタタタと適当に走り始めた。
が、一旦足を止めてみんなを振り返った。
「ねぇー、これって、重要な役だよね!?」
ダニエルが聞いた。
「勿論!超、重要だ!」
トムが答えた。
「分かったー!一杯取ってくるよ!待っててね?ところで、今日のお昼はご飯は何―
!?」
「もしかして、麻婆豆腐とかー?」
ルパート・・・どうにも麻婆豆腐が食べたいようである。(「家で食えっ!」byトム)
「安心してくんちぇー!色々ありますからー!薪集めよろしくですー!」
めぐみが大きな声で答えた。
「はーい!」
「はーい!」
二人の姿が本格的に見えなくなった。
「馬鹿が・・・こっちは携帯コンロもキャンピング・カーの中のガス台もあるっての・・・」
トムがクククと意地悪く笑った。
「いえ、折角彼らが集めて来てくれるのでしたら・・・文明的なモノは使用せずに食事の
用意をしましょうよ」
「アホか!何時間掛かると思ってんだ!?」
トムがレオンハルトにダメ出しした。
「大丈夫ですよ、トム君・・・僕は父に随分キャンプには連れて行って貰った経験があり
ます。様々な事をしている間に、意外と時間はすぐ過ぎ去って行くものです。さ、我々も
作業に入りましょう」
みんながワラワラと、「自分の持ち場」に散らばって行った。
双子は解説本を見ながらテント張りに夢中になっていた。
初めての経験である。
池照家の父親アーサーは、年がら年中研究に没頭していた人物だったので、子供達との「
遊びの時間」があまり取れない父親だった。
故に、あまり父親と遊んだ経験がない子供達・・・。
キャンプなど、夢のまた夢だ。
「ここにまず杭を打てって書いてあるぞ?」
「え、『ここ』ってどこ?おい・・・そんな金具、こっちは無いぞ?」
「え、何で?あ、ヤベ・・・これ、逆さまだった」
「おいおい、しっかりしてくれよ?」
「悪ィ悪ィ」
共同作業は久しぶりの双子だ・・・なかなか新鮮で楽しい。
めぐみと厚子は、綺麗な川の水で共に米を洗っていた。
(米はどうやら二十人前くらいある。殆どがジェームズとめぐみ用だ。めぐみと厚子は
十合ずつ洗っている)
「こんなに沢山のお米洗ったの私初めてです。うちは三人とも少食で・・・」
「ダメですよ〜、お米は一杯食べないと〜。力が沸きませんから〜」
「そうですね。けど、今日は沢山食べれそう♪みなさんと一緒だし、川縁での食事は楽し
そうです♪」
「んだ〜」
陽子と夏海の二人は、全員分の食器を拭いたりグラスを拭いたり、簡易用のテーブルを広
げて、その上にテーブルクロスを敷いたりしていた。
「姉さん?花があると素敵よね?」
「そうね・・・どこかに咲いてないかしら?」
「さっき車で通った道に咲いていたから、あとで私取ってくる」
「私も一緒に行くわ♪何だかウキウキするわね、キャンプって♪」
温田家の三人も、いつもよりかは「サムさ」が消されているようだ。
そして、トムとレオンハルトは魚釣りの係りだったが、トムは「俺は向こうで釣る!」と
、レオンハルトから離れて遠くに行ってしまった。
レオンハルトは少し寂しそうだった。
エマはキャンピング・カーの中で、まだ青白い顔で弱っていた。
気持ち悪いが、胃に殆ど何も入っていないので吐く事も出来ずに居た。
誰かが車の中に入って来て、エマの額にソッと冷たい感触をもたらした。
「・・・誰?」
目を開けると夏海だった。
「・・・アンタの手、どうしてそんなに冷たいのよ?」
親切心の夏海を一睨みで一喝するエマ。
「あ、ごめんね?冷たかった?今川の水で手を洗ったから・・・」
「気持ちいいから、やめなくていいわよ。で、みんなは?」
やはりエマは誰彼構わず威張っている・・・口調は常に「上目線」だ。
「それぞれまだ作業してるみたい」
「ふ〜ん・・・。で、アンタは?」
「私は簡単な仕事だったからもう終わっちゃった。もう少ししたら、陽子姉さんと花を取
りに行くの」
「ふ〜ん・・・」
エマは体を少し起こし、ここから丁度見える双子の姿を・・・いや、「オリバーの姿」を
ウットリしながら見つめていた。
「・・・素敵でしょ?私のオリバー・・・♪あっ、アンタ、オリバーに手を出すんじゃ無
いわよ?もしそんな事したら、確実に呪うから・・・」
「大丈夫よ、河合さん。私好きな人居るし・・・」
夏海が少し頬を染めた。
「え、誰っ!?私の知ってる人!?」
エマがガバッと起き上がった。
本当に具合が悪いのだろうか・・・?
「・・・まぁね♪」
年頃の女の子達は、恋話に夢中なのだ。
「おいっ!」
「うわわ・・・あ、トム君・・・」
魚釣りを始めてから三十分もした頃、トムがレオンハルトに声を掛けた。
「何が『トム君』だ・・・何してんだよ、お前?」
トムはレオンハルトのバケツに、水しか入ってないのを見下ろした。
レオンハルトは携帯用の優雅な椅子に座席を倒し気味に腰掛け、無駄に立派な釣り道具を
川に垂らして、サングラス姿で悠々居眠りしていたのだ。
「魚を釣っているんですけど・・・?ほら、僕達係りでしょ?」
「ここは『ハワイ』か!?何だその格好は!?随分余裕かましてるじゃねーかよ・・・」
ツッコンでみたり威嚇したり・・・トムは忙しい。
「はは・・・あ、え〜と・・・トム君、どのくらい釣りました?おぉ・・・素晴らしい♪
流石だ!」
トムのバケツには、岩魚(いわな)や山女(やまめ)などの川魚が八匹ほど泳いでいた。
「何、無駄にヨイショしてやがる・・・。さっさと釣れよな?」
「はい・・・スイマセン・・・」
レオンハルトは本気に居眠りしてしまっていた。
ずっと車の運転だったし・・・が、そんな事は理由にならない。
係りはみんな、「平等に(?)」言い渡されてあるのだ。
トムに居眠りがしっかりバレて、誤魔化すようにいつも以上のオーバーリアクションのレ
オンハルト。
「あ〜・・・キッズ達は、薪を探せたでしょうかね?」
「知らね・・・いいんだよ。ガス台と携帯コンロがあるんだ。おい、お前、最低三匹は魚
釣れよな。俺はノルマ達成・・・先に戻るからな」
「はい、お疲れ様です。がんばります」
「餌、これやるよ。こっちの方が釣れると思う」
トムは珍しくレオンハルトに優しさを見せた。
「・・・っ!?」
餌入れに入っていたのは、生きたミミズだった。
「ん〜〜〜・・・」
レオンハルトはそれを見つめ、背中にゾゾゾと寒気が走った。
その頃、ダニエルとルパートは薪集めではなく、天然のカブトムシに夢中だった。
第十七話完結 第十八話に続く オーロラ目次へ トップページへ