第六話「楽しい『学園祭』と『秋祭り』♪」
ちゃぶ台の上で、セカセカと何本もの腕が交差する。
「俺にもう少し、おしんこ取って」
「海苔がもう少し欲しいな。あ、お茶も」
「僕、お代わり!」
池照家の朝の風景だ。
食卓に着いてはいるが、若干箸の動きの鈍いトムと、全く起き切っていない重たい目でみ
んなの事を居間の端の方でジッと、体育座りで見つめているルパート以外は、朝からガッ
ツリ栄養を摂る、池照家の面々だ。
「めぐみちゃん、僕のご飯・・・もう少し足してよ。あと、『なめたけ』って冷蔵庫にあ
ったっけ?『ふりかけ』でもいいけど・・・」
ダニエルが、「よそわれた自分の飯が少ない」と、もう一度めぐみに茶碗を差し出す。
「ダニエルさんは、毎朝食欲旺盛ですね。『かつおのふりかけ』を確か、そこの戸棚で見
掛けましたよ」
めぐみは、語尾を上げる地方独特の喋り方でダニエルから茶碗を受け取ると、しゃもじに
たっぷり山盛り一杯足してやった。
それに、既に池照家の棚の中に何があるかまで良く知り尽くしていて、「ふりかけ」をダ
ニエルに取ってやった。
「蒲生めぐみ」は一週間前から、池照家に住み込みバイトとして暮らし始めた女の子だ。
ガタイが良く、身長は高め・・・・・女にしてはかなり大柄な女の子だ。
住み始めた日から恐ろしい順応性を見せ、池照家の「男所帯」の中でもたくましく暮らしていた。
「お前も充分食欲旺盛だ、トド。俺は知ってんだからな。お前、その茶碗のメシ、四杯目
だろ?」
トムが胸焼けした顔で、彼らしからぬ・・・女性に対して悪態を付いた。
「・・・三杯めです、まだ・・・」
めぐみは少しテレたように否定し、箸で一口分のご飯を掬(すく)った。
「嘘付け!台所で、軽〜く一杯食ってたじゃねぇか。見てたぜ」
「やんだぁ〜・・・あんまり見ないでください。こっ恥ずかしいから・・・//////」
めぐみがまた語尾を上げ気味に、モジモジとテレた。
「ヒューヒュー♪」とジェームズとダニエルが、トムを囃(はや)し立てた。
「アホかっ!『そういう目』で見てた訳じゃねぇだろっ!空気読め!」
トムが本気で二人に怒鳴りながら否定した。
自分とめぐみの2ショットなど・・・おぞまし過ぎる。
寒気がしたようで、腕を擦り始めたトム。
「どんな理由にしろ、見てた事には変わりねぇじゃん。なぁ、ダニエル?」
ジェームズは更にニヤニヤ顔でトムを煽(あお)った。
「お前・・・『変な期待』とかすんなよな、トド!『夢子』するならまず、『人間になっ
てからにしろ』よな!?」
「おいっ、トム・・・言い過ぎだぞ。ごめんね、めぐみちゃん。こいつ、口が悪くって
・・・」
オリバーがトムを睨んだ。
トムも流石に悪いと思ったのだろう・・・口答えはしなかった。
「フン」と悪態を付いて、味噌汁だけズッと啜(すす)った。
「チッ!・・・んめぇ〜な・・・」
味噌汁は勿論、めぐみが作ったものだ・・・めぐみは料理が上手かった。
しじみ汁だった。
しじみ汁はオリバーも良く作ってくれたが、トムは「磯臭い」と言ってあまり飲まなかった。
ダシが・・・オリバーとめぐみは違うようだ。
「いえ〜・・・トムさんは分かりやすくっていいです。影で言われるよりずっといいんです」
めぐみは、貴重な朝ごはんの時間に箸を止めるのが勿体無いようで、パクパク片っ端から
おかずを平らげながら言った・・・全くめげてないらしい。
相変わらず、語尾は上がり気味だ。
一方トムは、かなり胸焼け気味だ・・・殆ど箸を付けていない。
味噌汁を飲んだだけだった。
「・・・メシだけ食ったって美味くねぇだろ、トド。俺のも食っていいぜ」
トムが自分のおかずをめぐみに渡した。
トムなりに、さっきの悪口を詫(わ)びたつもりのようだ。
昨日、バイト仲間とかなり飲んで、真夜中をとっくに過ぎてから家に帰ってきたトム。
玄関から居間に入って、あまりに大きな図体の「物体」がゴロリとそこに横たわっていた
ので、夜中に係わらず、思わず叫び声を上げてしまったトムだ。
そして、起きて来た双子に思いっきり笑われて、トムは恥を掻いた。
「いえ〜・・・私、ご飯好きなんで、ご飯だけでも平気なんです。でも、折角だから頂き
ます〜」
めぐみはトムの「目玉焼き」と「海苔」と、「ししゃもの焼いたの三本」・・・それに
「ほうれん草のお浸し」も譲り受けた。
そして益々食が進むようになり、恥ずかしそうに茶碗に半分だけ更にご飯をよそった。
「お前は『ギャル曽根』か・・・」
最後、もう一度だけツッコミを入れたトム・・・ツッコまずにはいられないらしい。
めぐみは幸せそうに、最後一人だけになっても朝ごはんを美味しそうに食べていた。
まるで、たった今からご飯を食べ始めたような顔をして・・・。
「ねぇ、オリバー!僕のトコだけは、今日観に来てくれるでしょ?」
ダニエルがベルトを一つズラしながら、オリバーに話し掛けた。
どうやら少し食べ過ぎたようだった。
ダニエルも既に朝ごはんを終え、めぐみに入れて貰ったお茶を、春先に行った「京都修学旅
行」で、自分で絵付けした湯飲みで飲んでいた。
柄は勿論、自称「ルパート」の似顔絵だ・・・ダニエルにとっては、この上なく「ハッピーな湯飲み茶
碗」だ。
「あ〜・・・どうだろ?状況次第だよ、ダニエル。だって夜は町会の『秋祭り』だし、そ
の準備とかも俺あるし、五時までは通常に店の営業するし・・・」
「だって、中学三年の学園祭はもう二度と来ないんだよ!?僕の『勇姿』を見に来てくれ
よ!」
「・・・もう少し、事前に言って欲しかったよ・・・。何でいきなり言うんだよ。今日が
『学園祭』だなんて・・・」
ダニエルは色々な学校のお知らせを前日に言ったり、当日の朝に言ったりする。
ルパートに関しては、「お知らせ」をお知らせする事すら、忘れている事が多い。
三者面談や家庭訪問などの時は、いきなり先生が家まで来たりするから、オリバーは過去
・・・慌てる事がしばしばだった。
両親の他界している「池照家」では、オリバーとジェームズが弟達の「父親と母親代わり
」だ。
「言ったよ、僕。トムには」
ダニエルが、いけしゃあしゃあとした態度で言った。
「・・・一番行かなそうな奴に話してどうする?行く気あるのか、トム?」
「ねぇ」
「ほら見ろ・・・」
ジェームズが朝の情報番組の「今日の運勢」を観ながら聞いた。
トムはやはり胃が痛むのか、胃を擦りながら立ち上がって、薬箱から薬を探し始めた。
めぐみがすぐに加勢して薬を見つけ、トムに渡してやった。
トムは別段、礼を言わなかった。
「ダンの方だけ行くつもりなの、オリバー?僕だって今日は『学園祭』だぞ?」
ルパートは「覚醒(かくせい)」し始めたようだ・・・やっと会話に参加してきた。
「そうか・・・高校の方も一緒だもんな。あ〜・・・弱った・・・」
オリバーが頭を抱えた。
「悪いな・・・俺、『就活』だし・・・」
ジェームズが謝った。
「そんなのはいいんだ。お前は自分の就職決める方が大事だ」
ジェームズはかなり出遅れた就職活動を、大学四年生の秋になってから始めていた。
始め、兄弟二人で「喫茶レインボー」を商うはずだったが、「喫茶レインボー」はそんな
に忙しい店ではなかった。
どちらかだけでも就職するなら・・・それは、弟のジェームズだった。
「あンのぉ〜、オリバーさん。一時間くらいなら、私一人でお店何とかしてますよ。どう
ぞ二人の活躍、見てあげて下さい」
めぐみがやっと食事を終えたようで、モグモグしながら言った。
オリバーは暫し考えた。
まだ働き出して間もないめぐみ一人で、店が回るのかどうか・・・。
忙しい店ではなかったが、任せるにはちと早いような気がしていた。
まぁ、「魔子」が辞めてからと言うもの、いきなり常連になった客は自然に足が遠のき始
め、元の常連のみになっていたので、一日片手だけの客数の日もあるくらいだが、それが
果たして「今日」だとは・・・読めない。
オリバーは「魔子」の笑顔を思い出し、少し物思いに耽(ふけ)り、沈んだ顔をした。
オリバーの「遅めの春」は・・・芽が出る前に摘み取られていた。
「元気出せよ、オリ婆さん・・・」
トムが絶妙のタイミングで言った。
飲んだ胃薬はバッチリ効き目を表したようで、髄分元気そうになったトムだ。
「うるせぇ!俺を『オリ婆』って呼ぶなって何度言ったら分かるんだ!」
オリバーが「凸ピンのポーズ」を、トムに向けて構えた。
トムが最近鏡の前で、自分の前髪の生え際を気にしている事を、オリバーもジェームズも
知っていた。
トムは兄弟の中で、一番お凸が広かったのだ。
「チェッ!『慰めの言葉』を言ってやったのによ・・・。ったく、ジョーダンじゃない
ぜ」
ジェームズに笑われ、トムは「この話」が膨らむうちに黙るしかなかった。
「で、ダニエル・・・お前は一体、学園祭で何やんだ?」
オリバーが聞いた。
ルパートはモソモソと四つん這いで、みんなの方に近寄って来た。
めぐみに「牛乳飲む?」と聞かれ、「ううん」と首を振った。
「残念だけど、僕・・・『リコーダー』なんだ。『大太鼓』を狙ったんだけど、『小林』
に取られた。うち、『オーケストラ』やるんだ」
ジェームズがプッと吹いた・・・「また、『小林』かよ・・・」。
ダニエルに睨まれて、そっぽを向いたジェームズ。
「・・・で、ルパート、お前は?」
自分の席に付いて大あくびしたルパートに、問い質(ただ)したオリバー。
やっと人間らしくなってきた・・・ルパートの起き抜けは、本当に猫か何かのようなのだ。
ジッと動かずにみんなの様子を伺(うかが)っていて、ヘタに手を出すと「シャーッ!」
と怒られそうな感じだ。
「僕はずっと舞台の真ん中に立ってる」
クスクスと何かに笑っているルパート。
ダニエルが横で「変な顔」をして、ルパートを笑わせていた。
「え、スゲェじゃん!お前、劇の主役か?」
トムはバイブで掛かってきた、ケイタイのメールをチェックしながら聞いた。
オリバーがそれに反応して、少しトムを睨んだ。
オリバーは、食卓へケイタイを持ち込むのが嫌いだったのだ。
「どうだろ・・・『木、その1』の役なんだけど・・・。『1』だから、僕、『木の主役』かな?」
ルパートのあどけない笑顔に、みんなはそれ以上、敢えて何も言わなかった。
「あ〜・・・でも、ルパートが演じる『木』だったら、きっと他のどの『木』より素晴ら
しい『木』だろうね。僕は、絶対にルパートの舞台を観に行くからね♪」
「ありがとう、ダン・・・僕、一生懸命がんばるよ。緑色の『ツナギ』を着るんだよ!女
子が作ってくれたの」
「へぇ〜・・・がんばってね、ルパート。あ、僕はね、リコーダーだけど、学年みんなで
それぞれ仮装して・・・あっ」
ダニエルはバッと両手で口を押さえた。
「何だよ・・・」
ジェームズが聞いた。
「えへへ、内緒♪僕がどんな格好をしているかはね・・・。見た人だけのお楽しみ♪」
ダニエルがクスクス笑いをした。
「とにかく、僕はルパートのがんばりを絶対に観るからね」
「うん」
「・・・一体どうがんばるんだよ、たかが『木』が。台詞もないくせに・・・」
トムが「めぐみ!俺にお茶!」と言いながら、ケチを付けた。
バイトの同僚「佐々木」が、時間に少し遅れるとのメールだった。
「いいじぇねぇか、トム・・・ルパートががんばるって言ってんだからよ。お前、マジ、
凸ピンするぞ!?」
今度はジェームズが「凸ピンの指」をして、嗜(たしな)めた。
トムは咄嗟(とっさ)にお凸を抑えて、ジェームズから後退(あとずさ)りした。
「仲が良くって、羨ましいです〜。私には兄弟がいないから〜」
めぐみは「微笑まし」く、兄弟の会話を聞いていた。
「『仲良さそうに見える』かっ!?俺、精神的に追い詰められてんだぞ!?」
トムはまだお凸を守っていた。
ジェームズは「フンッ♪」と立ち上がって、一欠けら余った「きゅうりのおしんこ」を、
「しーちゃん」の箱の中にポトッと落とした。
「やめてよ、ジェームズ!『しーちゃん』が、塩分摂り過ぎで病気になっちゃうじゃな
いか!もう、馬鹿馬鹿!」
ルパートは慌てて「しーちゃん」の箱の中から、「きゅうり」を抜き取った。
「いいじゃん。どうせカメは、元は海の生き物なんだからさ。ってかさ・・・こいつの柄
、ちょっと変わってるよな?甲羅も面白れぇし・・・」
ジェームズが「しーちゃん」を、二本指で目の高さにまで持ち上げた。
「『しーちゃん』は単なるカメじゃないんだ!僕の弟みたいなものなんだ!返してよ!
」
ルパートがジェームズから「しーちゃん」を奪い取った。
「ルパートの『弟』は僕だろ!」
ダニエルが加わってきた。
「ダンも弟だけど・・・『しーちゃん』だって、弟だ!」
「僕と『しーちゃん』と、ルパートはどっちが大切なんだよ!」
突然ダニエルが熱くなった。
「あ〜・・・難しい質問しないでよ、ダン」
「全然難しくないだろ!『僕とカメ』だぞ!?」
「『カメ』って言うな!僕の『しーちゃん』だぞ!」
「あーーーーっっ!二人共うるせーっ!もう、お前ら学校行けっ!」
オリバーが「シッ!」と、二人を追い払った。
二人はブツブツ言いながらも、それぞれの弁当を持って家を出発した。
二人の弁当は今や、めぐみの担当だ。
だからオリバーは今までに比べ、かなり睡眠時間を取れるようになっていた。
満年の「四十肩」が、かなり緩和(かんわ)していた。
愛飲していた「オロナミン・E」を飲む回数も減っていた。
朝食も夕食もめぐみがしてくれるし、家の掃除から洗濯まで、言えば何でもやってくれる。
とても頼りになる上に手際が良く、家事を慣れている感じだ。
自分の故郷では、中学、高校と、「相撲部」・・・のマネージャーをしていたと言うめぐみ。
本来なら「女子相撲部」に所属したかったのだが、部が無かった為に仕方なく男子相撲部
のマネージャーをしていためぐみ。
しかし、どの選手より実際は強かったらしい。
部長は嘆いた・・・「お前・・・何で女なんだ?」と・・・。
ご飯は池照家の誰よりも食べるめぐみだが、それでもオリバーは「めぐみの存在」に、大
いに助かっていた。
めぐみの田舎のおばあちゃんが農家をしており、この秋には「米三十キロ」「ゴボウ一箱
」「玉ねぎ二十キロ」「ニンジン一箱」が届いていた、池照家。
それ以外にもめぐみの母からは、「世話になっている」と言う理由で、「ハムとベーコン
の詰め合わせ」の箱が届いていた。
この「ハムとベーコンの詰め合わせ」がまた・・・今まで食べた事のないような、「絶品
の代物」だった。
食の細いトムでさえ、「お代わり」をしたくらいだ。
池照家の食費に、大いに貢献してくれているめぐみ・・・今はもう、手放すのは惜しい。
「めぐみ」ある所に、「美味しいもの」ありなのだ。
特にダニエルとルパートは、割りとめぐみが好きだった。
あまり母親の記憶の無い二人は、めぐみに「母」を依存している所がある。
ダニエルは良くルパートの耳掃除を、自分の膝の上に彼の頭を置いてしてやっていたが、自分の耳掃除
はオリバーではなく、いつの間にかめぐみに変えていた。
実際、母「池照モリー」は、めぐみほど太ってはいなかったが、そこそこふくよかな女性
だった。
オリバーやジェームズも、年下のめぐみなのに(トムと同じ歳)、いつの間にか「姉」か「
母」のような扱いになっていた。
めぐみは体格がデカイので、「守ってあげたくなるような女性」ではなく、むしろ「守っ
てもらえる」ような存在だった。
双子が中学の頃に両親を亡くしたので、二人はずっと十四、五歳からがんばって、一家を
支えてきたのである。
それがめぐみの登場で、少し肩の荷が降りていた。
「アレで顔とスタイルさえ、もう少しまともだったらな・・・」と言うのが、トムの意見だ。
トムはかなりビジュアル重視の所があり、トムの彼女は実際、ハッキリ言って美人揃いだ。
しかしどうやら、その中のどの女性も「本命」ではないらしい。
「俺は『面食い』だ。俺と付き合う事が出来るのは、俺が認めた女だけだ」・・・と、女
性が聞いたらムキーーーーッッとなりそうな事を平気で考えている。
しかし「イケメン・トム」は、それを言う事を世間で許されていたし、トムはこう見えて
も外面(そとづら)は大層良く、女の子に対しては最大限に「紳士」だった。(めぐみを抜か
して)
大抵、彼が働く日のピザ屋の売り上げは倍になるし、電話で必ず「『池照君』に持って来
て貰いたい」と指名さえ来る。
ガソリン・スタンドのバイトの方も、トムの働く日は、もっと早めのスタンドで補給すれ
ば良かったものの、ガス欠ギリギリまでがんばってトムのいるスタンドに来て、ガソリン
を入れる女性客が多い。
時々友達の兄のやっている原宿のクレープ屋のバイトを任された日には、通常の三倍の行
列が出来るほどだ。
「じゃ、俺、バイト行って来るわ・・・」
トムが立ち上がった。
「あ、俺もそろそろ行くわ・・・」
続いてジェームズも立ち上がった。
「お前ら、夕方までにはちゃんと戻って来いよ!今日は大事な『秋祭り』なんだからな!」
オリバーが釘を差した。
「分かってるって」
二人の声がユニゾンした。
トムが先に玄関を出、続いてジェームズも上着を持って、トム後を追うように出て行った。
こうして食卓には、オリバーとめぐみの二人っきりになった。
だからと言って、「色っぽいシチュエーション」にはならない。
それが「めぐみ」だし、「オリバー」だった。
「オリバーさん・・・私も町会長さんから、『屋台を出さないか』って言われてるんです」
めぐみがちゃぶ台の上を片付けながら言った。
「え、めぐみちゃんが?」
「んだぁ〜。私の『地元らしいモノ』を売ってみてくれって・・・」
めぐみはなるべく標準語を喋ろうとしているが、語尾は相変わらず上向きだったし、返事
は必ず「んだ」だった。
「へぇ〜・・・何売るの?」
オリバーは、良く良く考えてみたら、めぐみがどこの出身か聞いた事がなかった。
めぐみのおばあちゃんやらお母さんから届く箱は、大抵自分が開ける前にダニエルとルパ
ートに開けられてしまったし、空き箱はトムがさっさとゴミ置き場に置きに言ってしまう
ので、確認出来ていなかった。
頂き物のお礼は、いつも「めぐみ経由」で伝えて貰っていたし・・・。
「『きりたんぽ鍋』にしようかと・・・」
「あ!いいんじゃない!?俺、一回も食った事ないけど・・・」
オリバーはその時、めぐみの出身地が「秋田」である事が分かった。
「おすそ分けに行きますよ。それに・・・どうせそんなに売れません。だって町会長が、
池照家が毎年売る『焼きそば』が、何て言ってもお祭りの中では売れ行きも人気も『ダン
トツ』だって・・・」
「うん、まぁ・・・有り難い事にね」
オリバーは、満更でもないように謙遜(けんそん)した。
そう・・・池照家の毎年祭りで出す「焼きそば」の屋台は、祭りで大人気の「名物屋台」
で、毎年必ず一番に売り切れる、売れ切れ必須の自慢屋台だった。
兄弟みんなで手分けして客寄せをし、双子が「ハッピにハチマキ」で「焼きそばを売るサ
マ」は、オネエサン、オバサン達の写メの餌食(えじき)と化す・・・。
「さ・・・じゃあ私、お店のオープン前に、洗濯と掃除と布団干ししちゃいます」
めぐみは、空いた茶碗や残ったものを、全てお盆に乗せると「よっこらしゃーのしゃ」と
、かなり変わった気合の入れ方で席を立った。
オリバーは、のしのしと居間から出て行く「たくましいめぐみ」を、目を点にして追った。
・・・よっこらしゃーのしゃ?
「ダニエルッ!!」
エマが腰に手を置き、仁王立ちで、ダニエルの教室の入り口のドアをバーンッと開けた。
何人かの男子生徒が悲鳴を上げた。
「うわわ・・・何だよ、エマ!今、僕らは着替え中だぞ!?あ、『アリス』だ・・・。」
ダニエルの教室は、「学園祭の三年生の出し物」・・・「仮装オーケストラ」の男子着替
え室になっていた。
エマの教室は、勿論女子の着替え室だ。
エマは「不思議の国のアリス」の格好で、いつもどおりの睨みを効かせている。
かなり「怖いアリス」だ。
「何なのよ、あの『トド』はっ!?」
「『トド』・・・?あぁ、ひょっとして、めぐみちゃんの事?ハハ!トムと同じ事言ってる」
「笑い事じゃなぁ〜いっっ!何なのよ、あいつは!?」
「あ〜・・・『喫茶レインボー』の住み込みバイトだよ」
「住み込みィ〜っっ!?」
「・・・うるさいよ、エマ・・・」
二人は「男子着替え室」のドアを跨(また)いで、話している。
教室の中の男の子達はみんな、エマに背中を見せながら、セカセカと慌しく着替えていた。
「『魔子』が居なくなったと思ったら、今度は『トド』・・・。しかも何なのよ、その『
住み込み』って・・・?」
「住み込みって言うのは、僕ん家に住みながら働くって言う事で・・・」
「そんなのは知ってるわよ!つまり・・・あのトドは『オリバーと一緒に暮らしてる』っ
て訳?」
エマは頭を抱え、ギャーッと叫んだ。
ブツブツと、「オリバーの入った後のお風呂に入ったり」とか、「オリバーの入ったトイ
レの後に入ったり」とか・・・などと呟いている。
「めぐみちゃんは田舎に帰るお金がないんだ。だから、まずうちで住み込みしながらお金
貯めてるんだって」
ダニエルは、エマに聞かれる前に全て喋ってやった。
「虫が良過ぎるわ、トドのくせに。ちょっと、アンタ!持ち金、そのトドに貸してやり
なさいよ!」
「無茶言うなよ、エマ。僕の『お財布事情』は良く知ってるだろ?」
エマは親指の爪をガリガリ噛んだ・・・全く「怖い、凶暴なアリス」だ。
「めぐみちゃんはとってもいい人だよ。それに料理が凄く上手いんだ。お裁縫や掃除も上
手だって、オリバーが言ってた」
「え、オリバーが!?」
エマはまた悶々と考え込み始めた。
「ま、まさかオリバーって・・・『デブ専』?それとも『ブス専』?じゃなかったら、む
しろ・・・『動物専』?いえ、それはルパートだったわ・・・。あぁ、どっちにしろイ
ヤッ!」
「ルパートは『動物専門』じゃないぞ!『動物好き』なだけだ!酷い事言うなよ!そ
れに、ルパートにはレッキとした『僕』と言うものがいるだろ?!僕らは『ノーマル』
さ!」
エマは、ダニエルののたまった「不思議な事」を無視した。
「・・・んで、アンタのその格好は・・・一体何のつもりなのよ?」
エマは訝(いぶか)しげな顔で、ダニエルを見つめた。
ダニエルは「ブリーフ1枚」だった。
エマは二人の会話の途中、冷たい視線をずっとダニエルに浴びせていたのだ。
「『小島義男』だよ。流行(はやり)っぽくていいでしょ?」
ダニエルは「そんなの関係ねぇ!」と、ドスの聞いた言い方で、エマに披露していた。
「・・・『仮装のポイント』がやっぱズレてるわ、アンタ。そんなトコは、まさにルパー
トとお似合いね。オリバーの弟じゃなかったら、もっとあからさまにイジめてやるのに。
小林・・・『開いてる』わよ」
エマは冷たい視線で、小林の股間を指差した。
指摘された小林は、慌てて「アムロ・レイ」の白いズボンのチャックを上げた。
エマは言う事だけ言うと、ドアを開けっ放しで去って行った。
「・・・エマってさ・・・嵐みたいな女の子だよね。でも、良かった・・・僕とルパート
の事を『お似合い』だって・・・」
ダニエルは小林相手に、かなり馬鹿げた話で「ルンルン♪」盛り上がっていた。
「へぇ〜・・・とっても可愛いよ、エマちゃん」
めぐみに店を任し、少しだけ店を抜け出して、ダニエルとルパートの「勇姿」を見に学校
へ来たオリバーは、廊下で会ったエマを見つけて褒めた。
エマはオリバーからの「賛辞」に「心ハッピー♪」で、足が三センチ床から浮かんでいた。
オリバーは全ての単位を既に取ってあるので大学へは通っていなかったし、卒業式に参加
するだけになっていたので、かなり久しぶりの登校だ。
それに、ジェームズのように「就職活動」する事もないので、益々学校へ来る事はない。
池照家の兄弟が通っているマンモス学校は、巨大な一つの校舎で、小学校から大学までが
繋がっている。
時たま、迷子になった小学校一年生が、泣きながら高校生のクラスに入ってくる事もしば
しばだった。
「エマちゃんは、楽器は何やるの?『オーケストラする』ってダニエルから聞いたけど・
・・」
「私は指揮者です!」
エッヘンと胸を張ったエマ。
「へぇ〜、凄いね。みんなを纏(まと)めるのは大変だったでしょ?」
「いえ、それほどでも・・・」
そうは言っても、満更ではないエマ。
オリバーに見られる事を意識して、志願した指揮者だったからだ。
だから、こうしてオリバーが自分の演奏を聞きに来てくれたのは(本当はダニエルの)、嬉しかったし、
大いに意味があった。
目立つ事は、何より大好きなエマだったので、今日はオリバーが来た事で「最高の指揮」
を披露出来そうだった。
「体育館だったよね、演奏やるトコ?」
「そうよ!あと十分で、私達の演奏なの」
「ルパート達っていつだろ?知ってる?」
「ちょっと待ってて・・・」
エマは進行表をポケットから取り出して、チェックした。
「私達の終わった次の次ね・・・」
オリバーにジッと見つめられている視線をバシバシ感じているので、ドキドキが聞こえそ
うなほどに心臓が高鳴っているエマ。
「そりゃいいや。助かった。めぐみちゃん一人にしておくのは、まだ不安だしさ。あ、今
うち、『めぐみちゃん』って子が、住み込みのバイトを・・・」
「ダンから聞いたわ。オリバーって・・・ホント、優しいわよね。トド・・・いえ、困っ
ている人を働かせてあげるだけじゃなくって、住むトコまで・・・」
そうは言っても、内心はムカムカしているエマ。
「あ〜・・・何か成り行きって言うか・・・」
「ま、そんなオリバーだから私は・・・あ、もう、行かないと!」
エマは危うく「流れで告白」しそうになって、慌てて用事を作って行ってしまった。
耳まで真っ赤だった。
オリバーに対しては、有り得ないくらい「乙女チック」なエマなのだ。
その分の皺寄せは、みんなダニエルとルパートに行くようになっている。
エマは、告白する時は「こんな場所」ではなく、ちゃんとドレスアップした夜景の見えるレ
ストランで・・・と決めているのだ。
「アリス」の格好の自分ではなく、エプロンをしたままのオリバーではない、素敵なシチ
ュエーション・・・そんなのに憧れている、まだまだ可愛い乙女、十五歳の河合エマだ。
オリバーは、たった今のエマの言いたい事はほぼ理解していたが、如何(いかん)せん、ダ
ニエルと同じ歳の中学生・・・しかもお隣さんの女の子に恋心が生まれるはずも無かった。
オリバーにとっては、エマは可愛い妹同然だった。
知らぬはエマばかり・・・う〜ん、残念っ!
ダニエル達、中学校三年生の出し物になった。
オリバーはダニエルが出てきた瞬間、唖然(あぜん)とした。
みんなが「コスプレ」しているのは・・・いい。
ダニエルがリコーダーなのも・・・いい。
ダニエルがしている「コスプレ」が、寄りによって「小島義男」な事が、現実として受け入れたくなか
ったオリバー。
会場で見学している人々が、殆どダニエルを見て笑っている・・・恥ずかしい・・・。
「何で、アレなんだよ・・・馬鹿/////」
一人、「ブリーフ姿のダニエル」は、壇上で一際(ひときわ)目立っていた。
アリスに扮したエマも、大きなアクションで指揮をし、宛(さなが)ら「女ベートーベン」
のようだった。
そしてエマは、壇上の小林のチャックが開いている事を、わざわざココでも注意し、小林
もダニエル動揺に来訪者から「笑われる人」になっていた・・・気の毒な小林・・・。
中学三年生の演奏は上手で、見ている人々を楽しませ、そこそこで終えた。
オリバーはその後の二つの見世物もそのまま見学し、ルパートの登場を待った。
「キリスト誕生物語」・・・そういうタイトルと共に、高校二年生の出し物が始まった。
「・・・何じゃ、ありゃ・・・」
ルパートは木の役で(しかもルパート曰く「木、その1」らしい)、確かに最初から最後ま
で、舞台中央で「グリーンのツナギモノ」を来て、楽しそうに立っていた。
そう・・・立っているだけだった。
「よくもアレで、俺に見に来て欲しいとか言えるよな。ま、いっか・・・。ルパートは楽
しそうだし、ダニエルは・・・向こうで『喜んでルパートを応援してる』し・・・帰ろ」
オリバーは半分呆れながら、体育館を出て行った。
帰って五時まで店をしなくてはいけなかったし、夕方からの祭り用の「焼きそば」の下準備も
ある。
めぐみの「きりたんぽ鍋」の用意も、少しは手伝ってやらないと・・・と考えていたオリ
バー。
沢山の保護者の間を縫って、オリバーはヒョイヒョイと廊下を小走りした。
「池照っ!」
聞き覚えのある、若干高めの声が、オリバーを後ろから引き止めた。
この学校の校長、ダンブルドアだった。
床にまで届きそうな長いヒゲとロン毛、それに、派手な紫色のローブ・・・間違いない。
「あ〜・・・どうも、校長」
オリバーは、ダンブルドア校長を「面倒臭い奴」と思って、あまり好きではなかった。
「お前と弟のジェームズが壊した便器とドア・・・あのままじゃ!どうしてくれるっ!
?」
「『どうしてくれる?!』ったって・・・知らないっすよ。何年前の話ですか、それ」
オリバーは早速、「面倒臭い話」をされた。
「理事長はなぜか『あのトイレだけ』修理してくれんのじゃ!お前達二人が、責任を持っ
て直すのじゃ!」
「嫌っすよ、そんなの・・・。この学校、金持ちでしょ?可愛い生徒が青春の1ページを残した跡な
んだ・・・気にしなけりゃいいでしょ」
「するわいっ!わしはあのトイレが一番のお気に入りだったんじゃ!」
「校長室に『金ピカのトイレ』あるじゃないっすか。何であそこ使わないの?」
「・・・『フォークス』に乗っ取られたんじゃ」
校長は苦々しく言った。
「フォークス」とは、校長が飼っている尾長鳥(おながどり)の一種だ。
オレンジ色で、珍しい羽色をしている。
誰が教えたのか、「オハヨー!オハヨー!快便♪快便♪」とお喋りする、かなり下品で
うるさい鳥だ。
乗っ取られたのが自分の飼っているペットでは、文句も付けられないダンブルドアだった。
「校長・・・悪いけど、俺、急いでるんすよ。また今度!あ、ダニエルとルパートの事、
よろしく!あ、トムもか・・・」
「絶対に、トイレ修復金を出させるからな!池照オリバー!『喫茶レインボー』を担保に
入れて、首を洗って待ってるがよいっ!」
校長は杖をビュンビュン振り回して、オリバーを追い立てた。
「・・・『首を洗って待ってるがよい』って・・・あの人、一体いつの時代の人間だよ。
残念だけど、まだ当分長生きしそうだな・・・。日本の平均寿命を確実に上げてるぜ」
みんなの噂だったが、ダンブルドア校長は実年齢が150歳ではないか・・・と言われて
いた。
オリバーは無駄な時間を食ったので、長い足で校庭を猛ダッシュで横切り、スピードを弱
めないまま、自分の店を目指した。
夕方、五時二十分・・・慌てて帰ってきたトム。
「悪い・・・」
「遅っせーぞ、トム!ほら!お前の半被(はっぴ)!」
ジェームズが既に「イナセな格好」で、祭り用のトムの半被を放った。
「材料はもう運んだのか?」
「あぁ、後は、俺らが現地入りするだけだ」
「トドももう行ったのか?」
「めぐみちゃんはキバッてたからな・・・。四時半には向こう行って、色々準備してたみ
たいだ」
「あいつの半被、間に合わなかっただろ・・・どうしたんだ?」
「布団屋の相田さんが、あそこのネエチャンが昔着てた奴、貸してくれたよ」
「あぁ・・・あのネエチャンもデブだったからな・・・。よし!準備出来たぜ!ダニエル
とルパートは?」
「オリバーと先に向こう行ってる」
「なぁ・・・ひょっとして、俺を待っててくれたのか、ジェームズ?」
「優しいだろ?後でジュース奢(おご)れよ」
「そう、先に催促されると、途端に絶対奢りたくなくなる気分になるぜ・・・」
「俺に『貸し』作ったままじゃお前だって気分悪いだろ?ジュース一本なんざ、安いモン
さ。だろ?」
「・・・まぁ〜な」
二人は戸締りをして、外に出た。
「うおっ!風が出てきた・・・寒っ!」
ジェームズが自分の体を抱き締めた。
「半被の上にコート着たい・・・」
トムは歯がガチガチしている。
トムもジェームズも痩せているので、ダイレクトに夜風が染み渡る。
「ダメだ。昔っからの『シキタリ』みたいだし・・・ほら、走るぞ!ちっとは暖まる」
「さみーよぉ〜・・・」
二人は祭りの「お囃子(はやし)」が聞こえる方向に、ダッシュして向かった。
祭りは既に凄い人で賑(にぎ)わっていた。
綿アメ、水風船、金魚掬(すく)い・・・etc。
通りの端から端まで、ぎっしりと様々な屋台が並んでいる。
下町風情の残るこの辺も髄分都市開発が進み、昔からの家が立ち退きを余儀なくされ、別
天地に移動して行く。
それでもまだまだ「勢いある」お祭りが開催されていた。
住民はとにかく多いココ・・・都電荒川線利用の「新庚申塚(しんこうしんづか)」駅近辺だ
。
「お待たせ!」
ジェームズとトムが、オリバーの待つ屋台に辿り着いた。
「遅いぞ!じゃ、早速役割分担を言い渡す。ダニエル!」
「はいっ!」
「お前は後から櫓(やぐら)に乗るから、それまでは俺達の屋台の前で客寄せだ。いい
か?」
「オッケー!」
ダニエルは元気一杯に答えた。
寒さも何のその・・・だ。
「トムとルパートはチラシ配りだ。ルパートはあっち・・・トムは向こうの通りの入り口
に立って、それぞれ俺達の焼きそばの宣伝チラシを配る・・・いいな?」
「は〜い♪」
ルパートが暢気(のんき)な返事をした。
もう、どこかの屋台で「電王」のお面を買って、後頭部に貼り付けている。
「おい・・・どうして俺とルパートのチラシの量が違うんだ?」
トムのチラシの量は、ルパートの三倍は近くあった。
「・・・『能力』を考えてみろ。俺はあれでもルパートには多いと思う・・・」
「・・・なるほど」
トムは納得した。
ルパートは自分の事を話されているとは思いもしないで、「ダニエルの半被の着方がカッ
コいい」とか、「後でダンが踊ってるトコ、見に行くからね」とか、ダニエルと喋っている。
ダニエルはダニエルで、「ルパートの格好だって、素敵だよ。とっても可愛いよ」などと
、二人は「オカシなラブラブモード」だ。
「・・・オリバーだろ、コレ?」
トムが少しニヤリとした。
チラシの下に、めぐみの「きりたんぽ鍋」の紹介も載っていた。
「一生懸命だったからさ、彼女・・・。少しでも力になれたら・・・って」
「相変わらず、優しいねぇ〜・・・オニイチャン♪」
ジェームズも優しげにニヤリと笑った。
オリバーはテレたようで、サクサクと屋台の準備に取り掛かった。
「よし!ほら・・・行くぞ、ルパート!」
トムは、弟達の「ラブラブモード」が一向に終わる様子がないので、無理やりルパートの
半被の襟(えり)を引っ張った。
「苦しいよ、トム・・・。あ、バイバ〜イ、ダァ〜ン!」
「がんばってねぇ〜、ルパァ〜トォ〜!」
永遠のお別れをするかのような別れをしたダニエルとルパート。
「アホか・・・」
トムはルパートを引き連れて、ズンズンお互いのポジションに向かった。
「いいな、お前はココで。俺は向こう側でチラシを配る。一生懸命配るんだぞ?『うわぁ
、星が綺麗だなぁ』とか、『腹減ったなぁ・・・』とか、考えんじゃねぇぞ?まずは自分
の任務を遂行(すいこう)せよ!いいな?」
「ラジャー!」
ルパートは元気一杯に敬礼をして見せた。
「・・・ま、アテにしてねぇけど・・・がんばれよ」
トムは赤信号なのに、車が来ないかをチェックして、通りを横断して行った。
「あ〜・・・いけないんだぁ、トム・・・。後でオリバーに言ってやろうっと!」
ルパートは、「さて」と言って、後頭部の仮面で顔を覆(おお)い、チラシを配り始めた。
彼なりに「戦闘態勢」に入ったらしかった。
「あ〜・・・オネエサン。そこの祭りでさ、俺のアニキが『焼きそば屋』やってんだよ。
少し覗いてみない?」
トムは、持ち前の「男前度」を充分に発揮して、手当たり次第女性に声を掛けていた。
「え、あなたのお兄さん?カッコいい?」
女は大抵、すぐに食い付いた。
「勿論さ。俺なんか敵(かな)わねぇくらい、カッコいいぜ?」
「じゃあ・・・ちょっとだけ・・・」
心にもない事を言って、女性をほぼ100%ゲットするトム。
トムのチラシはとっくになくなっていた。
だが声を掛ければ、面白いくらいに女性をゲット出来た。
「ルパートも流石に配り終わっているかな?」
トムは自分の方を引き払って、ルパートの様子を見に行った。
「何だよ!お前・・・全然減ってないじゃないか!何やってたんだよ!」
「ちゃんとチラシを配ってたよ」
ルパートは憤慨(ふんがい)している。
ルパートの「チラシ」は配られたままの状態で、殆ど減っていなかったのだ。
「一体、どういう配り方してんだ?ちょっとやってみろ」
トムは道端に腰掛けて、ルパートの「やり方」を見る事にした。
ルパートは少しムスッくれていたが、言われた通り、トムの前で披露した。
「あの〜・・・僕ね、二人のお兄ちゃんがいて、あの中でね・・・」
一人逃げた・・・トムは目が点になった。
「あの〜、あの中のね、美味しい匂いが・・・あ〜・・・」
また一人逃げた・・・トムが頭を抱えた。
「あの〜・・・あの〜・・・」
「・・・・・」
トムが眉間に皺を寄せ、深い溜息を吐いた。
ルパートが声を掛けたおばさんは、ルパートの事を少し気の毒そうにチラッと見て、そそ
くさと行ってしまった。
ルパートは、始終トコトコとその辺の人に適当に近付いて、意味の分からない誘導をしていた。
「あの〜・・・僕ね、『焼きそば』が好きなんだけど、今日はお兄ちゃん達がね・・・」
また逃げられたルパート。
「あの〜・・・」
「いい加減にしろっ!お前は『マッチ売りの少女』かっ!?」
トムがイライラしながら近寄って来た。
「違うよ!僕は『チラシ配りの少年』だよ!」
「どっちでもいいわっ!何だ、今のは?」
「チラシを一生懸命配ってるんじゃないか。ちゃんと見ててよ・・・」
ルパートはトムを睨んだ。
「お前は人を見る目がなさ過ぎる。スーパーの袋持った奴が祭りに顔出すか?ああいう人は、これか
ら家に帰って晩飯作るタイプなんだ。ちょっと貸せっ!」
トムはルパートのチラシを数枚引っ手繰(たく)った。
「あ〜・・・オネエサン?」
トムに話しかけられた女性が「あらっ♪」と、「何か」の期待を込めて足を止める。
「急いでるトコ、悪いね。俺のアニキが祭りで『焼きそば屋』やってんだよ。すっげぇ美
味いからさ、ちょっと寄ってってくれない?『男前の双子がやってる屋台』だから、すぐ
に分かるはずだよ」
「『男前』?行ってみるわっ♪」
女がダッシュで祭り会場に入って行った。
「な?簡単だろ?」
「・・・トムは女の人にばっかり声を掛けてる・・・。ズルイよ」
「何がズルイんだよ。客は客だろ?捕まえれば何でもいいんだ。ほら・・・お前も俺みた
いにやってみろよ。それに『お面』は上げてろ」
「う、ん・・・」
ルパートは気乗りがしないように、トム風に迫ってみた。
「あ〜・・・僕のお兄ちゃんは双子でカッコいいんだけど、今日は『焼きそば』焼いてて
、お祭りはすっごく美味しいんだよ」
またもや、頓珍漢な話し方になっているルパート。
トムは本格的に「こいつ、ダメだ・・・・・」と項垂(うなだ)れた。
「へ〜・・・君、可愛いね♪幾つ?」
脂ギッシュなオヤジに声を掛けてしまったルパート。
いつの間にか、ルパートはオヤジに手を握られている。
「オジサン、お金一杯持ってるんだ・・・『一晩幾ら』なら、いいの?」
オヤジがルパートの腕を引っ張り出した。
「・・・お金一杯持ってるの?凄〜い!トムぅ〜、このおじさんね・・・」
「あ、ダメダメ!こいつ、俺の弟なんだ!悪いね、間違ってアンタに声掛けたみたいだ
・・・じゃね」
トムはルパートを抱え込むようにしながら、オヤジを無理やり遠ざけた。
オヤジはトムに悪態を付きながら去って行った。
「僕、トムと同じようにやったよ?それに、あのオジサンは、お金持ちみたいだったよ?」
「相手を見ろっ!お前・・・知らねぇぞ?ダニエルに『掘られる』前に、知らねぇオヤ
ジに・・・」
「『掘られる』?ダンが何を掘るの?」
「・・・何でもねぇ////////」
トムはそっぽを向いた・・・一言多かったと、自分で反省した。
「ねぇ、ねぇ!ダンは何を・・・アイタッ!」
トムがルパートの頭をゲンコツで殴った。
「痛いじゃないか、トムぅ〜・・・」
「お前がしつこいからだ!お、エマ・・・」
エマがボニーを伴って、半被姿で祭りに顔を出した。
「・・・アホが居ると思ったら、やっぱりルパートだったのね。こんばんは、トム」
「よっ!オリバー、中に居るぜ?元気か、ボニー?」
ボニーはペコリとトムに挨拶した。
「・・・わ、私は別にオリバーを見に来た訳じゃ・・・。お腹が空いたから、ちょっと『
焼きそば』を食べに来ただけよ。行きましょ、ボニー」
「ふ〜ん・・・半被が可愛いぜ、エマ」
「///////////」
エマとボニーは、小走りして祭りの中に消えて行った。
エマがオリバーを好きな事は、誰が見てもバレバレだったのに、当のエマだけはバレてい
ないと思っている・・・残念っ!
「トムってやらしー・・・」
ルパートが蔑(さげす)むような顔で、トムを見た。
「そうだ!俺はやらしーぜ?でも、男はみんな『やらしー』んだ」
「僕は『やらし』くないぞ!」
「嘘だね・・・。言っておくけど、ダニエルは『やらしー』からな」
「うん!ダンは確かに『やらしー』よ」
即答だ。
「あ〜・・・チラシ少し貸せ!手分けして配っちまおうぜ?俺も少し腹が減ってきた。昼
メシ食いっ逸(ぱぐ)れたからさ」
「朝も食べてないのに、昼も食べてないの、トム?良く生きてるね?」
「うるさい。時間が無かったんだよ。早く配れ!」
ルパートはまたトムにゲンコツで頭を殴られた。
ルパートは「ぷーっ」と怒って、「電王」のお面でまた顔を隠してしまった。
実際は「佐々木」がバイトを「ドタキャン」したせいで、彼の穴埋めをした為に昼食を食
べられなかったトム。
見た目「チャラ男」のトムは、意外にも義務感が強く、しっかりモノなのだ。
ただ・・・「その事」でトムを突くと、恥ずかしさからか、必ずや「意地悪な事」を言わ
れる羽目になる・・・場合によってはゲンコツだ。
「さぁっ!みんなで『秋だ!祭りだ!あっぱれ!日取(にっとり)音頭♪』踊るよ!」
ダニエルが櫓(やぐら)の上で、マイク越しに大声で音頭を取った。
祭りのメイン・・・盆踊りの開始だ。
「池照君!池照君!違う違う!『日暮里(にっぽり)・鳥取音頭』だよ。『秋だ!祭りだ!
あっぱれ!日暮里・鳥取音頭♪』」
「あ、そっか・・・//////////」
ダニエルは緊張から、思いっきり曲目を間違えた。
相変わらず、緊張に弱いダニエルだ。
「・・・あいつ・・・また・・・」
トムが、自分がやったヘマとのように顔を隠した。
トムとルパートは、「池照家の屋台」を目指す途中、たまたまそれを聞いてしまった。
ダニエルは気を取り直してもう一度元気良く「合図」を述べ、その合図で「2007年、
秋の盆踊り」が開始された。
「ねぇ、トム・・・どうして、僕らの住んでるトコは『日暮里』でも『鳥取』でもないの
に、『日暮里・鳥取音頭』を踊るの?」
「知らねぇよ・・・俺に聞くなよ。そういうのは『オリ婆』に聞け。さ、少しあいつらの
『焼きそば』でも食わせて貰おうぜ。マジ腹減った。時間が若干早いから、まだ少しくら
いは残ってんだろ・・・」
「うん・・・ねぇ、トム!ダン、カッコいいね♪」
ルパートは、櫓(やぐら)の上で率先してみんなの踊りの先生役を務めている、弟ダニエル
を、誇らしく見上げた。
ダニエルは振りの要所要所を、「ピッ!ピッ!」とシャープにキメながら、「理想的なお
手本」で踊っていた。
下町のぉ〜、秋の夜空にお月様ぁ〜♪
東京囲むよ、山手線♪真ん中通るよ、中央線♪
秋の食べ物美味しいなぁ〜♪
きのこに蕎麦に栗に柿♪君は何回食べたかなぁ〜♪
苺と蟹は、はぁ〜、もう少し〜♪
タイトルにあまり合わない歌詞が永遠と続く・・・。
しかし、どこかの有名な大先生がお作りになられた盆踊りらしく、町会長は鼻高々だった。
「恥ずかしい歌詞だぜ・・・ほら、行くぞ」
「うん」
それでもルパートにとっては、櫓の上のダニエルは、やはりカッコ良かった。
「俺達にも少しくれよ、オリバー」
トムが人混みを掻き分けてそう言うと・・・あらら?
「悪い、トム・・・少し前に『売り切れ』だ」
「マジかよぉ〜・・・。今年は特に早かったんじゃねぇの?俺、腹減って死にそうだぜ・・・
ん?」
トムの顔の脇に、スッと「いい匂いモノ」が出された。
「トムさん・・・少しですがどーぞ〜」
めぐみが語尾高めに、お盆に池照家の人数分の「きりたんぽ鍋」を差し入れてきた。
「屋台にいなくていいの、めぐみちゃん?」
ジェームズが聞いた。
めぐみは少しはにかんだように言った。
「嬉しいです〜・・・うちも『売り切れ』になりました。コレだけ残して・・・」
コレ・・・つまりは池照家分の「きりたんぽ」である。
オリバーもジェームズもトムも、感慨深げにめぐみを見やった・・・どうやら「チラシ作戦」
は成功したらしい。
「やったぁ!『きりたんぽ』だぁ!僕、初めて!」
ルパートは特に猫舌なので、早速「フーフー」開始だ。
「・・・どーせ、余ったんだろ?食ってやってもいいぜ?」
トムは悪態を付きながら、めぐみから「きりたんぽ鍋」を奪い取った。
「あ〜・・・んめぇ〜・・・」
トムは一口汁を啜(すす)ると、思わず本音が出た。
そして、そのまま勢いを止めずに一気に完食した。
「珍しいな、トム・・・お前が『こういうモノ』食うなんて」
「俺は美味い物は食うんだ。サンキュー、めぐみ。少し生き返ったぜ」
綺麗に汁まで飲み切ったトムは、空いた皿をお盆に戻した。
「良かったですぅ〜。トムさんの口に合ったみたいで〜・・・」
めぐみは嬉しそうだった。
オリバーもジェームズも「フーフー」しながら、アツアツの「初・きりたんぽ鍋」を食べ
た・・・とっても美味しかった。
一方、ルパートはまだ「フーフー中」だった。
「あのぉ〜・・・」
屋台の前に、黒ずくめの男二人が立った。
寒いからか、頭までスッポリ防寒具で覆(おお)っている。
「あ、悪いね!もううちの『焼きそば』売り切れちゃってさ」
ジェームズが断った。
「いえ・・・私達です」
防寒具を取った男達・・・「スネイプ閣下」と「マッド・アイ男爵」だった。
「あれ?閣下と男爵・・・今日は一体どうしたんですか?祭りを見に来たんですか?」
オリバーが聞いた。
「いえ・・・あの、今日・・・」
「は?」
「今日・・・そのぅ〜・・・」
二人は何となく、モジモジしていた・・・言い難(にく)そうだった。
「今日?『10月31日』・・・『ハロウィーン』か?」
トムが言った。
「いえ、そうじゃなくって・・・。あ、それは勿論そうなんですけど・・・えっと・・・」
何やら、言葉を濁している閣下・・・。
オリバーもジェームズもトムも・・・やっと「きりたんぽ」を食べ始めたルパートを残して、五人は互
いを見合わせた。
「あぁーーーーーーーーっっ!!!」
決闘の日だった・・・。
すっかり・・・いや、うっかり忘れていた。
ルパートは、いきなり叫んだ二人の兄に驚いて、少し咽(むせ)た。
めぐみがドンドンとルパートの背中を叩いてやった。
「あの、あの・・・俺達・・・」
オリバーとジェームズは、ヨロヨロと閣下と男爵を見つめた。
申し訳なくって、まともに顔が見られない・・・・・。
「残念です・・・今日は『ヴォルデモート卿』も一緒にいらっしゃってて・・・」
「ええええええええ〜〜〜っ!決闘会場に?!」
「はい・・・」
「アチャ〜〜〜・・・」
双子が項垂(うなだ)れた。
「あ・・・あの車の中に今、『卿』はいらっしゃいます」
男爵が通りの向こうに停めてあるリムジンを指差した。
「あ・・・どうも」
双子が車の方にペコリと挨拶した。
確かに「あの人」だった。
あの異常に白い顔・・・あるのかないのか分からないような鼻・・・充血した赤い目・・
・間違いない。
ヴォルデモートは、アメリカンドックを頬張りながら、ケチャップの付いた顔でペコリと
後部座席から挨拶してきた。
「あ〜・・・髄分、そのぅ〜・・・待っちゃいました・・・か?」
オリバーが殊更気まずそうに、スネイプに話し掛けた。
「まぁ・・・二時間くらいでしょうか。電話もお宅へ何度も掛けたんですが・・・お祭り
してたんですね。やぁ・・・いいお祭りだ」
閣下も男爵も、会場のあちこちを見やった。
「はぁ・・・」
双子は体裁悪そうに、まだ俯いていた。
「あ、だいじょーぶですよ、『卿』はお怒りではありません」
「・・・ホントですか?」
疑わしそうに聞くジェームズ。
「はい、勿論本当です。むしろ妹君の・・・」
スネイプがもう一度乗ってきた車を見やると、後部座席・・・ヴォルデモートの脇にいた女性
(ベラトリックス)が、有り得ないくらいに怒っている。
「あの方が・・・妹君の『ベラトリックス様』の方が、大層お怒りで・・・」
「アチャ〜〜〜・・・」
そして、オリバーは見た・・・ベラトリックスの隣に座っている女の子を・・・。
紛れもない・・・「魔子」だった。
魔子もオリバーに気付いたらしく、少し会釈(えしゃく)をしてきた。
オリバーは機械的に魔子に挨拶を交わした。
何とも・・・タイミングが悪かった。
オリバーに、ズキンと胸が締め付ける衝撃が走った。
「・・・終わった事だろ?元気出せ、オリ婆」
「・・・『オリ婆』って言うなって・・・な・ん・ど・言・え・ば・分・か・る・ん・
だ!!」
トムの頭の両サイドを、ゲンコツでギリギリと締め上げたオリバー。
「イデデデデ・・・俺じゃねぇ!今のはジェームズが言ったんだ!」
トムに指摘され、オリバーは隣の自分の片割れを見ると・・・確かにジェームズは、「V
」と指で「Vサイン」をしていた。
オリバーはジェームズに、トムにやった同じ事を施行(しこう)した。
ジェームズは痛がって、道端にひっくり返った。
「じゃ・・・今日は帰ります。また次の機会に・・・」
スネイプとマッド・アイが会釈した。
「あの・・・本当にスイマセンでした。この穴埋めはきっと!」
オリバーが誠意を込めて謝った・・・・・約束を守らないのは、「池照家の家訓」に反する事だ。
「だいじょーぶです。言ったように、『卿』はお怒りではありません。しかし・・・気を
付けて下さい。『ベラトリックス様』は、かなり根に持つ方で・・・じゃ!」
二人は車に乗り込み、リムジンは去って行った。
「ただ今ぁ!お腹減ったぁ!オリバー、『焼きそば』頂戴♪」
「・・・ねーよ。ほら、めぐみの『きりたんぽ』だ」
トムから「きりたんぽ」を譲り受けたダニエル。
「わぁ〜『きりたんぽ』だぁ!オ〜イスィ〜イ♪」
腹減りのダニエルは、ある人気長寿番組の「料理コーナー」で、司会で、元アイドルグル
ープのリーダーの男が言うようなリアクションで叫んだ。
腹減りのダニエルには・・・腹に入れば、ある意味何でも良かった。
大して味わいもせずに「きりたんぽ」を食べ切った。
「ダシの味が絶妙だぜ、コレ。そういうのを味わって食うもんだ」
トムが注意した。
「・・・珍しいな。トムがそんなに食い物に力説するなんて・・・。ま、まさか、お前、
めぐみちゃんの・・・」
「ジョーダン言うなっ!有り得ねぇっ!」
トムはプリプリ怒って、先に家に帰ってしまった。
みんなはポカンとしていた。
「・・・めぐみちゃんの作る料理なら、『玉ねぎ食えるかも』・・・って言おうと思った
んだけど、俺・・・。何かまずかったか?」
ジェームズが言った。
みんなはそれから「二つの屋台」を片付けて、家に戻った。
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