「先生、僕は戻らないといけないのですね?」
「君次第じゃ」
「選べるのですか?」
「おお、そうじゃとも。ここが『キングス・クロス駅』じゃと言うのなら、帰ると君が決め
たからには、汽車に乗る事が出来るじゃろうのぅ」
「汽車は・・・僕をどこへ連れて行くのですか?」
「先へ」
ハリーは随分長い時間ダンブルドアと話をした。
いや、長い時間だと錯覚しただけなのかもしれない。
実際にはほんの一瞬の、瞬きをする間くらいだったかもしれない。
しかし、ハリーはダンブルドアと話をするうちに、ここには自分は居られないと気持ちを決
めた。
ここはとても静かで、清潔で、気持ちが良い。
ずっと会いたかった懐かしい人が優しくハリーに語り、ハリーはメガネをしなくてもよくそ
の顔を見れたし、周りの景色も良く見渡せた。
第一・・・体に負った傷がすっかり綺麗に無くなっていて痛くないのだ。
許されるのなら、このままここに居たい。
ここにはダンブルドアが居る。
ハリーにとっては、常に賢者で偉大で最高の魔法使いのダンブルドア・・・・・。
分霊箱探しの旅の途中では、彼に対する疑念や不安で散々浮かび打ちひしがれたハリーだったが・・・・・
結局ハリーはダンブルドアが好きなのだった。
尊敬すべき存在に値すると言う事では、以前と何ら変わりは無い。
だが・・・。
ハリーには、ここで安穏と過ごす訳には行かない事はもう分かっていた。
「先生、お聞きしたい事があるのです」
ハリーはずっとモヤモヤしていた事を問い掛けた。
「僕の母とスネイプ先生の守護霊が一緒です。これはどういう事なのでしょう?」
「わしが全てにおいて正しき答えを持っているとは限らんぞ?」
「では推測でいいです」
ダンブルドアは声を上げて笑った。
「まず、では君はどう考えておる?」
「え、僕は・・・」
ハリーは考えた。
質問をしたのは自分の方だ。
答えが分からないからダンブルドアに聞いたのだ。
だが、そのダンブルドアがハリーに質問をして来る。
おぼろげながら思う事はあったが、それを実際言葉にするのは難しい。
「スネイプ先生はリリーを愛しておった」
「・・・はい」
自分の父親以外の男が自分の母親を愛していた話を聞くのは、息子としてはあまり愉快では
無い。
しかも相手はあのスネイプ・・・尚更である。
が、「憂いの篩」に顔を突っ込んで過去を知った時、スネイプの気持ちが紛れもない事実で
ある事をハリーは認めた。
それにひょっとしたら、ジェームズよりもっともっとリリーの事を深く純粋に愛していたで
あろうスネイプ・・・。
が、スネイプのその想いは成就しなかった。
そして愛する者が自分以外の人間と結婚し、子供を授かり、そして今は当にその存在が消さ
れてしまっていても・・・スネイプは死の瞬間までリリーを愛した。
愛し尽くした。
ハリーは不意に、改ざんされたスネイプの記憶の事を思い出した。
「先生。先生は昔・・・『憂いの篩』の中で話していました。あの人に・・・スネイプ先生
に質問していました。『過去、一度もゴドリックの住まいを訪ねてはいないか?』と」
「いかにも」
ダンブルドアは静かにハリーを見据えていた。
優しい眼差しだけでない、何か「想い」を感じ取れる独特の目付きをしている。
「あの記憶で一体何が改ざんされたのでしょうか?先生は当然お聞きになった筈です。スネ
イプは・・・スネイプ先生は、ダンブルドア先生からの質問の答えを改ざんしたんだ。僕は
見た」
「・・・知ってどうするかね?」
ダンブルドアが意味深な言い方をした。
ハリーは少し身構えた。
「あの、それは嫌な内容なのでしょうか?」
「さて・・・いかがなものか?解釈の取り方じゃとわしは思う」
「聞きたいです、僕。教えてください」
そして、ダンブルドアは言葉を選び、少し回りくどい言い方で話し始めた。
ハリーの想像以上にその内容は衝撃的だった。
ハリーは動揺し、暫し茫然とした。
「真実は分からん。確かめる事は無論可能じゃろうが・・・」
「いいえ。僕、確かめません。今のままでいい」
「ある種のショックを受けたとは想像する」
「いいえ。先生は僕が聞きたいと言ったから教えてくれただけです。だからこれでいいんで
す。ありがとうございます」
「そうか・・・それではわしの話はこれでしまいじゃ」
ダンブルドアの姿がゆっくりとボヤけて来た。
「あ、先生!最後にもう一つだけ!この事は現実なのでしょうか?それとも、僕の頭の中で
起こっている事なのですか?」
「勿論、君の頭の中で起こっている事じゃよ、ハリー。しかし、だからと言って現実で無い
と言えるじゃろうか?」
ダンブルドアの姿は霧だか靄の中にスゥ〜ッと溶けて行った。
ヴォルデモートの「死の呪文」で、ハリーの一部が死んだ。
予定外に闇の帝王の「分霊箱」とされてしまった少年は、今やっと「ハリーだけ」の体を手
に入れた。
もう、額の痛みに悩まされる事も無いだろう。
知りたくも無いヴォルデモートの心と自分の心を共有する事も無いだろう。
「向こうの世界」から意識が帰って来た瞬間から、ハリーはこの対戦で自分の体に拵えてい
た傷や怪我の激痛に耐える事になったが、それでも頭の中がスッキリしていた。
靄が消えたように、晴々とした気分だった。
そして、思いもよらぬ懐かしい人と再会した事により、確証は無いが「光」と「力」がハリ
ーの中で芽生え始めていた。
だが、今はまだこのままだ・・・目を開けてはイケナイ。
誰かの足音が近づいて来る。
ハリーはドキドキした。
それがヴォルデモートで無い事は分かった。
が、死食い人の誰に「生存を確かめられ」ても厄介だと言う事は分かっている。
さて、どうするか・・・?
くそ、その時は成るようにしかならない!
近付いて来た誰かがハリーの上に覆い被さるように頭を近付けて来た。
ハリーの胸の上に耳でも押し付け、心臓の音を確認しようとしているのだろう。
ハリーの顔に一瞬、サラリとする軽い感触が当たった。
ハリーはそれが髪だと理解した。
・・・女?
まさかっ・・・!
ハリーは瞬時に「女=ベラトリックス・レストレンジ」と連想した。
「・・・ドラコは生きていますか?城に居るのですか?」
女が囁いた。
ベラトリックスでは無かった。
ハリーは安堵した。
ハリーはその人物と同じくらいの小さな声で返事を返した。
「ええ、アイツは生きています」
そのハリーの言葉を聞くと女は立ち上がった。
「死んでいます!」
向こうにいる仲間達に・・・そして自分のご主人様にハリー・ポッターの死を知らせた。
確認しに来た女はドラコの母、ナルシッサだった。
「英雄の死」に死食い人達は歓喜し感嘆のお雄叫びを上げ、ヴォルデモートは死体と報告さ
れたハリーの体に「クルーシオ」の呪文を掛けて弄ぶ。
ハリーは苦しかったが、何とか反応せずにそれに耐えた、
そしてヴォルデモート直々の指名を受けて、ハグリッドがハリーを抱えて城に向かう手筈に
なった。
「ハリー・・・ハリーよぉ・・・」
大粒の涙がハリーの頬に落ちて来る。
思えば・・・ハリーはハグリッドに抱き抱えられるのはこれが二度目だ。
一度目はまだ自分が一歳の時・・・ゴドリックの谷のポッター家が襲撃され、唯一生き残っ
たハリーをハグリッドが救いに来てくれた時だ。
不思議な巡り合わせだ。
額に傷を負った赤ん坊のハリーを一番最初に抱き抱えてくれたのがハグリッド・・・そして
、ヴォルデモートとの繋がりが立ち切れた時ハリーを抱えたのが、これまたハグリッドであ
るのだ。
ハグリッドを騙す形になって胸が痛む。
僕は生きてるよ・・・そう言ってやれたら。
が、今はこうして居る他無かった。
ハリーは今、「チャンス」を待っていた。
蛇のナギニの息の根を止めるチャンスを・・・。
あの蛇を生かしておけない。
死食い人は列になってホグワーツ城を目指していた。
ダラリと力無くその身をハグリッドに預け、目を閉じた状態のハリーの瞼の奥に、森の外に
出た事を知らせる月明かりが差しこんで来た。
夜風がフワリとハリーの前髪を掻き上げる。
ハリーは額に手を置いて確かめたかった。
ハリーには確信があった。
多分、傷が消えている・・・。
ハリー・ポッターの有名なシンボル「稲妻型の傷」は綺麗に消えていた。
だが、泣きじゃくっているハグリッドにはその変化を知る由も無い。
しかし、それはハリーに取って好都合である。
今そんな事をハグリッドが大きな声で反応してくれても困るだけだ。
「ハリー・ポッターは死んだ!」
「そんな・・・」
森からやって来た死食い人達の行進に、「何事か?」と城から出て来た全ての人間に聞こえ
るようにヴォルデモートは高らかに宣言した。
マクゴナガル先生の悲痛な叫びがハリーの良心に響く。
みんなが次々とハリーの名を呼び、絶望に打ちひしがれた。
「これで分かっただろう?コヤツは最初から何者でもなかったのだ。他の者達の犠牲に頼っ
たに過ぎない小僧だった」
「いいや!ハリーはお前を破った!」
ロンが大声で吠えた。
それが引き金となって、またみんなに戦う意欲が復活して来た。
「黙れっ!コヤツは自分だけ助かろうとしてこっそり抜け出した所を俺様に殺されたのだ
!自分だけが助かろうと・・・」
ヴォルデモートの言葉はそこで途切れた。
ネビルの攻撃がヴォルデモートを黙らせ、そして怒らせた。
「ネビルよ・・・それでもお前は純血だ。勇敢な少年よ・・・お前は高貴な血統だ。貴重な
死食い人になろう・・・。さぁ、俺様の前へ跪(ひざまず)け」
しかしネビルはそれに屈服しなかった。
「ネビル、貴様は・・・ほほぅ、これは」
組分け帽子が地面に転がっていた。
常にクタビレた装いの帽子だったが、今は格別クタビレている。
泥と砂に塗れ、所々は・・・誰と分からぬ靴の跡だ。
ヴォルデモートが細い目を更に細めて笑った。
「もう組分けはする必要が無かろう。ホグワーツは我が高貴なる祖先であるサラザール・ス
リザリンの紋章、盾、そして旗があればそれで充分だ」
ヴォルデモートは組分け帽子に杖先を定め、軽く振った。
帽子は見る間にメラメラと炎に包まれた。
みんなが落胆の声をあちこちで上げる。
ハリーの瞼がピクピク動いた。
耐えられない・・・行動を起こさなければ・・・。
が、ハリーがそう思った瞬間色々な事が起こった。
校庭の向こうでドスンドスンと言う地響きを上げ、百人にも及ぶ巨人が突進して来る。
先頭はグロウプだ。
その後ろからは蹄の音が聞こえ、弓弦が鳴り響き、ケンタウロス達がやって来る。
屋敷しもべ妖精達もドビーを先頭に城からワラワラと出て来て、妖精独自の呪文で戦いに加
わった。
ここに来て、本当の意味での戦争になった。
魔法界の全ての生き物達が自分達の未来の存続の為に奮起したのだ。
ネビルは炎上している組分け帽子の炎を消し去り、その中から銀色の何かを取り出した。
燦然と輝く「グリフィンドールの剣」である。
そしてネビルはその剣で、一太刀でヴォルデモートの近くを這っていたナギニの首を刎ねた。
ネビルはハリー同様、剣に選ばれた「勇気ある勇者」となった。
ヴォルデモートが気が狂わんばかりの怒りの声を上げた。
が、既に辺りでは怒涛の戦いが始まっていた。
ハリーはそのどさくさに紛れ、透明マントで身を隠してみんなの前から消えた。
唯一ハグリッドがその事に気付き慌てていたが、今みんなはハリーの所在より目の前の敵に
意識を集中していた。
死食い人達は形勢逆転、押されていた。
戦う意欲に燃えた者達が、次々と死食い人を倒していく。
ハリーはモリーがベラトリックスを打ち破る瞬間を見た。
モリーはベラトリックスを打ち砕いた後、静かに涙を流した。
ハリーは、モリーのその涙の意味を理解している。
ベラトリックスを倒しても、結局夫アーサーが帰って来る事は無いのだ。
ルーピンやトンクスが帰って来る事も無い。
戦わなくてはイケナイ・・・。
しかし、戦って勝利を勝ち取ったとして、失ってしまった者達が再び帰って来る事は絶対に
無いのである。
「隠れ穴」に再びアーサーの姿を見る事はもう出来ない。
ハリーにはモリーの虚しさが分かった。
いつも朗らかなモリーが、こういう表情をするのを見ているのは辛い。
思えば・・・何と多くの人が死んだのだろうか?
ハリーの両親に遡(さかのぼ)り、ディゴリー、シリウス、ダンブルドア、マッド・アイ、ル
ーピン、トンクス、スネイプに・・・そしてアーサー・・・。
名前も知らない人達だって、多く命を落としている。
もう嫌だ。
もう誰が死ぬのも見たくない。
だから、終わらせる・・・終わらせなくてはいけないんだ。
腹心の部下が目の前で殺されたヴォルデモートの怒りが炸裂した。
モリー目掛け、その杖を振り上げ「死の呪文」を言い放つ。
「プロテゴッ!」
ハリーが大声で唱え、モリーを含めた大勢の人の前に「盾の呪文」が広がった。
どこからその呪文が飛んで来たかと目を細めたヴォルデモートの前で、ハリーは透明マント
をかなぐり捨てて姿を現した。
あちこちから歓声が飛び交う。
「誰も手を出さないでくれ」
ハリーが言い放つと、今度は辺りは静けさに包まれた。
「分霊箱はもう無いぞ。残っているのは僕とお前だけだ。どちらかが永遠にこの世を去る事
になる」
「・・・どちらか、だと?」
ヴォルデモートが嘲(あざけ)った。
「自分が生き残るとでも思っているのか?自分は特別な存在だとでも?お前は『偶然』に過
ぎない。お前を守る存在はもう誰も居ない。ダンブルドアお得意の『愛』などと言う形の無
い不安定なモノをチラ付かせて、それが何になる?お前を救う『愛』はもう存在しない。さ
ぁ、俺様がお前に呪文を放ったら・・・何がお前を守る?」
ハリーはヴォルデモートと向かいながら、互いの想いを吐いた。
こんなに長い時間、敵対する男と話をしたのは初めてだ。
初めてヴォルデモートと対峙した時、ハリーはまだ十四歳だった。
ポート・キーと化していたトロフィーで、ハリーの意志に反して連れて来られた場所で復活
を遂げたヴォルデモート。
おぼろげながら想像していた男が実際にハリーの前に姿を現した、あの震えの来る瞬間・・・。
圧倒的な恐怖と残忍さとを誇示し、ハリーの心臓を凍りつかせ、足を竦ませた闇の帝王。
が、現在ハリーは成長した。
体だけでなく、精神も考えも十四歳の頃とは全く違う。
一方、ヴォルデモートはあの時のままだ。
ハリーには今、「恐怖心」は微塵も無かった。
僕は知ってる・・・アイツにどんな未来が待っているかを。
見たんだ・・・。
「その杖はまだお前にとって本来の機能を果たしていない。スネイプは杖の所有者じゃ無か
ったんだ。だから彼を殺しても杖はお前に服従しない。永遠に!」
ハリーの吐く言葉はヴォルデモートの表情を強張らせた。
「その杖は・・・ダンブルドアが死ぬ前に新しい持ち主を認識した。ニワトコの杖の真の持
ち主はドラコ・マルフォイだった」
「・・・何?」
「ダンブルドアを最初に『武装解除』したのは、ドラコ・マルフォイだ。だが、今は・・・」
「・・・ドラ、コ?」
ハリーの話途中で、ヴォルデモートの感情の無い残忍な目が大勢の中から「ドラコ」を探し当てた。
他の生徒や教師や不死鳥の騎士団達の中に紛れてハリーとヴォルデモートの戦いを見ていた
ドラコは、突然自分の名前が戦いの最中(さなか)に上がったので驚いている。
「ならば簡単だ。お前にはもう不死鳥の杖は無い。そして俺様は・・・アイツを手始めに殺
すまでだ!」
ヴォルデモートの杖が、郡集の中のドラコ・マルフォイを捉えた。
ドラコは今杖を持っていない。
母親から借りた杖も、必要の部屋に落して来てしまった。
ドラコの顔が恐怖に引き攣る。
「やめてぇ!」
死食い人の中から、ナルシッサの声が甲高く響き渡った。
そして、それと同時にヴォルデモートの振り上げた手をルシウスが掴んでいる。
「貴様、ルシウスっ・・・・・」
ヴォルデモートは封じられた自分の手を放せとばかりにルシウスを殴り付けた。
「母上・・・父上・・・」
ドラコは向こうに見える自分の両親を見付け、安堵でクシャクシャに顔を歪めた。
彼にとっては権力を失ってもボロボロに弱りきっていても、ルシウスとナルシッサは唯一の
肉親・・・父と母である。
ドラコは今、まるでタイムスリップしてしまったように、気持ちと精神が十一歳の頃の幼い
彼に戻ってしまっていた。
「息子は殺させない」
「・・・貴様っ」
二人はみんなが見ている前でもんどり打った。
先程までは存在すらもそこにあるのかあやふやだった程、自信も存在感も無かったルシウス
・マルフォイだったが、流石に息子に伸びた魔の手を知らん振り出来なかった。
ヴォルデモートと揉み合いながらも息子の元気な姿を城の入り口近くに見付け、安堵したと
共に何かの使命に燃えた表情で自分の主人に盾付くルシウス。
がっ・・・・・。
「っ・・・」
次の瞬間、緑色の閃光が走りルシウスの体がドサリと地面に崩れ落ちた。
ヴォルデモートは懐に隠し持っていた元々の自分の杖で、ルシウスにとどめを指したのだ。
「あなたっ!」
「父上っ!」
ナルシッサとドラコが別々の場所からルシウスに駆け寄って来た。
ヴォルデモートは背後から近付いて来るナルシッサには見向きもせず、大きく杖を振り翳し
て父親の体に走り寄って来たドラコに向かって呪文を放った。
「まずいっ・・・・・」
ハリーの判断が少し遅れた。
物凄い音がした。
地面が揺れるほどの衝撃だった。
ハリーは、ドラコの死体がそこに転がっているものだと思った。
が、違った。
何十人と言う人間がドラコの前に立ち塞がり、「盾の呪文」でドラコを守っていた。
その先頭に居たのは、かつて「ダンブルドア軍団」と互いを呼び合ったハリーの仲間達だ。
ジニー、ネビル、ルーナ、チョウ、スミス、ゴールドスタイン、コーナー、ブート、パチル
姉妹、フィンチ・フレッチリー、マクミラン、アボット・・・。
ハリーは胸が熱くなった。
かつて、ハリーが散々伝授した呪文である。
それをみんなが素晴らしく習得し、ドラコの命を救ったのだ。
ナルシッサはヴォルデモートの足元に崩れ落ちた夫の体に、泣きながらすがった。
「ならば、お前も夫の側へ行くが良いっ!」
ヴォルデモートは今度はナルシッサに杖を向けた。
「やめろっ!」
今度はロンがそれを阻止する。
ヴォルデモートの繰り出した呪文はとんでもない方向に飛んで行き、空中で爆発した。
ヴォルデモートの赤い目がゆっくりとロンを捉えた。
「・・・知ってるぞ?」
ヴォルデモートはゆっくりした口調で語り始めた。
「俺様はお前を知っている・・・え、ロナウド?」
ロンはギクリとした表情になって、少し後ろに身を引いた。
すぐ横に居たハーマイオニーが不安そうな表情になった。
「どれ、少し余興を楽しもうではないか、え?さぁ、ハリー・・・・・お前は親友を殺せるか?」
「よせっ!」
ハリーの言葉を無視し、次の瞬間ヴォルデモートはロンに向けて呪文を唱えた。
「服従せよっ!」