「・・・ロ、ン?」
ハーマイオニーがロンの顔を恐る恐る覗き込んだ。
ハリーもジリジリとロンに近付く。
ロンはヴォルデモートから「服従の呪文」を掛けられた拍子に、ダラリと首を前に下げ、前
髪で表情が読み取れなくなっていた。
「・・・ロン?」
ハーマイオニーが再びロンを呼び、その肩にソッと触れた。
ロンがそれに反応しゆっくり顔を上げ、ゾクリとするような笑みを浮かべた。
ハーマイオニーが小さく息を飲み、ロンから飛び退いた。
「・・・下がるんだ、ハーマイオニー」
ハリーはまるでロンが獰猛な動物か何かであるように、慎重に扱った。
こっちの緊迫感を察知されないように平常心を装い、静かにハーマイオニーに語り掛けてソ
ッと後ろに下がらせる。
ロンの目が燃えている・・・赤い。
真っ赤だ。
ブルーであるはずのロンの瞳は、邪悪なヴォルデモートと同じ色になっていた。
「ロン、目を覚ませ。僕の声を聞け」
ハリーが穏やかに声を掛けたが、ロンには届いていない。
不意に杖腕を振り上げ、いきなりハリーを攻撃した。
ハリーは間一髪それを横っ跳びで避け、みんなに指示を出す。
「みんな、下がって!ダメだ、シェーマス!ロンを攻撃するなっ!やめろっ!」
ハリーはみんなを後退させると、ロンと一定の距離を保った。
ウィーズリー家の人間は特に心配そうな表情である。
モリーは慌て、少し前に合流したフラーに付き添われている。
が、双子がこんな時でも「敢えていつも道り」のセリフを吐いた。
「ロニーの大馬鹿は何でノコノコしゃしゃり出て、『ユーノープー(例の臭い人)』の術とか
まともに食らってんだ?」
「例え我が弟でも、今だけは絶対近寄って欲しく無ぇ感じだな」
「いや、ジョージ・・・うちには赤目の弟は居ねぇぞ?」
「だな。けど、赤毛に赤目じゃ・・・服選びは慎重に行かないといけないぜ。赤い服は絶対
着無い方がいい。全身赤尽くめなんて・・・女にモテる訳がない」
「言えてる。『ウザい』もんな?」
「見てるだけで『暑苦しい』ぜ」
双子は小声で少し笑い合った。
が、笑っている割には・・・表情は真剣だった。
「離れていてくれ、ハーマイオニー・・・大丈夫?歩ける?」
「ハリー・・・お願い。ロンを殺さないで・・・ロンを絶対・・・」
ハーマイオニーは震え、泣き出さんばかりだ。
「分かってる。当たり前じゃないか」
ハリーは近くに居たジニーにハーマイオニーを預け、ロンと向き合った。
泣いてボロボロになっているハーマイオニーとは対照的に、ジニーの方は毅然としていた。
ハリーは・・・何だかそんなジニーが少し誇らしかった。
ジニーはいつも、静かに凛とハリーを送り出してくれる貴重な存在の女の子だ。
ハリーはこんな時なのに、今すぐジニーを抱きしめたくなった。
案外・・・本当にそうしたら、ロンは怒って正気に戻ってくれるだろうか?
思わずそんな事すら考えた。
「殺れ、ロナルド!ハリー・ポッターは目の前だ」
ヴォルデモートが命令を出すと、ロンはそれに従った。
ハリーの頬すれすれに、強力な呪文が飛んで来る。
ハリーはロンの動きに神経を集中させた。
ヴォルデモートに忠誠を誓っていないとは言え、ニワトコの杖が世界最強の杖である事は確
かだ。
その杖で「服従の呪文」を唱えられれば・・・どれだけ強力にその呪いに掛かってしまった
かは図り知れる。
ハリーは自分に繰り出されるロンからの攻撃で、ロンの持つ潜在能力の凄さを垣間見た。
ロンの魔法能力がこれ程までとは、実際思っていなかった。
我を失ったロンは凄い戦士だった。
二年前、ロンが初めてのクィディッチの試合に出場する時、ハリーが「フェリックス・フェ
リシス」を飲ませたフリをさせた事がある。
ロンはその薬をてっきり自分が飲んだと錯覚し、凄まじいゴールキーパーの才能を発揮した
のだった。
チェイサーからの激しいシュートを全て軽々と防いだロン。
一日にしてグリフィンドールクィディッチチームの英雄になったロンは、テレながらも満更
でもなさそうだった。
あの時の笑顔がハリーの脳裏を掠める。
「殺れ、ロナルド!」
ヴォルデモートは楽しそうに見物していた。
ハリーは次々繰り出されるロンからの呪文を何とか防ぎながら、ずっとロナルド・ウィーズ
リーに纏わる様々なシチュエーションを思い起こしていた。
常に誰かの「影」だったロン・・・。
いつも「二番手」だったロン・・・。
兄達のお下がりを恥ずかしそうに着ていたロン・・・。
ロンがジリジリとハリーを追い詰める。
「注目」されたかったロン・・・。
「特別」に憧れたロン・・・。
「一番」を夢見たロン・・・。
長い間の友情の中で、ロンはハリーに嫉妬を抱く事があったのは事実だ。
ロンとハリーは何度かそういう事で議論した事がある。
取っ組み合いの喧嘩に至る事は無かったが、ついこの間も「ロケット」の影響を受けたロン
とハリーは接触寸前までの大ケンカをした。
ロンはその後帰って来て、「ハリーを救い、剣を見付け、ロケットを破壊」する事になったが。
仲間に忠実で、どこか愛嬌があり、少し毒を吐くロンをハリーは大好きだ。
だが、目の前で杖を振り、攻撃して来るロンもロン・・・。
ハリーは術をロンに対して放つつもりは無かった。
「・・・聞けよ、ロン?」
ハリーはロンに話し掛けた。
「君は僕を殺せない。僕が君を殺せないように。アイツが君を支配出来る訳が無いんだ。
忘れた訳じゃないだろう?僕達がどんなに互いを必要とし、深い友情を築いたか・・・」
ロンは尚も攻撃をやめない。
ハリーも話すのをやめなかった。
「僕には友達が居なかった。君が生まれて初めての友人だ。そしてハーマイオニーと三人、
どんな事も一緒に潜り抜けて来た。君は・・・勿論覚えているだろう?」
ロンの攻撃が続く。
「『賢者の石』を一緒に守ったよね?『秘密の部屋』に一緒に入ったよね?『叫びの屋敷』
では思いもよらない秘密を共に知ったし、僕ら・・・ケンカも沢山した。そしてその度に、
もっと深い友情を築いて来た・・・そうだろ?」
ロンの呪文がハリーの肩を射抜いた。
辺りがざわつき、何人かは悲鳴を上げる。
「やめなさい、ロン!杖を下ろしなさい!あなた、ハリーに対して何をしているか分
かっているの!?」
モリーが大声を上げて息子を諭す。
多分・・・生きていればアーサーが言った言葉だろう。
ハリーはヨロけたが・・・踏ん張った。
ザックリと肩が切れ、服に血を滲ませている。
「こんな奴に君の何が分かる?こんな奴に僕らの何が分かる?心を支配されちゃダメだ。コ
イツは『友情』を知らない。君が両親や兄弟達から受ける愛も知らない。人を愛した事も無
いし、誰かに愛された事も無い。ロン・・・杖を下ろせ」
ロンの動きが俄かに鈍くなった。
ヴォルデモートはそれを察知した。
「何をしている、ロナウド!そいつを殺せっ!」
「もうやめてっ!ロンにハリーを攻撃なんかさせないで!」
ハーマイオニーが泣きながらヴォルデモートに訴えた。
「お願い!友達にこれ以上酷い事させないで!」
ヴォルデモートの杖の先から出た僅かな呪文が、ハーマイオニーの頬を「黙れ」とばかりに
軽く切る。
ジニーが尽かさず「プロテゴ」の呪文で、それ以上どうにかならないように守った。
「・・・マイ、ニー・・・」
まさに、愛の力と言うべきか・・・。
ロンの動きがいきなり完全に止まった。
まだ目は赤かったが、泣き叫ぶハーマイオニーを暫くジッと見つめている。
涙がロンの頬を静かに伝った。
がっ!
次の瞬間、ロンはニヤリと笑った。
何だか不思議な顔の動きだった。
本人笑いたくなんか無いのに、見えない糸で口の端を上に上げられたような・・・。
どうやら、ロンの中で二つの心が葛藤しているようだ。
「ハリーを殺せと言う呪文に従おうとするロン」と「そんな事はしたくないと言う元々のロ
ン」と・・・。
そして今は「呪文に忠実はロン」が勝ったらしい・・・ハーマイオニーに向けて杖を振る。
「馬鹿野郎っ!」
ハリーがその対面に飛び出し、ロンの攻撃を払い除けた。
呪文が強大な音を立てて刎ね返り、ロンのこめかみを鋭利に切り裂く。
ロンが血を噴き出し、地面にガクリと膝を付いた。
それでもロンはハリーに向け敵意を表し、杖を振る。
「よせ、ロン・・・やめるんだ!」
「殺せ!ハリー・ポッターを殺せ!」
ヴォルデモートが甲高い声で不敵に笑う。
ロンがまたハリーに呪文を放った。
攻撃を交わしたハリーの防御がロンの口に当たり、ロンは口をモゴモゴさせてペッと何か吐
き捨てた。
歯が折れたのだ。
「お願い、もうやめてぇー!」
ハーマイオニーは気が触れたかと思うほど泣き叫んでいた。
ジニーが唇を震わせていた・・・モリーはハーマイオニーに負けないくらい泣いていた。
ロンはそんな三人に目が行った。
そして、突然ロンは不思議な行動を取った。
杖を自分の足の甲に向け、呪文を放ったのだ。
ロンは激痛に叫びながら地面を転がり、足を押さえていた。
足の甲に穴が開き、悲惨な状態になっている。
「・・・痛い痛い痛い痛い」
ドクドクと流れる出血を必死に手で押さえている。
「ロン!」
ハリーはロンに近寄って行って、一緒にその足を押さえた。
「・・・足は貫くもんじゃないな、ハリー」
ロンがニカッと一本歯の欠けた笑顔を見せた。
「ロン・・・」
「僕は・・・良かった。僕、もう少しでハーマイオニーを殺すトコだった・・・ヤバかった」
ロンは顔じゅう血だらけの泥だらけで鼻を啜った。
「・・・『君』、なのか?」
「うん。僕の体も心も元々僕だけのものだ・・・だろ?」
ロンは、向こうでジニーに支えられてこっちをジッと見つめているハーマイオニーに「もう
大丈夫だ」と言わんばかりの優しい表情で目配せした。
ヴォルデモートは何が起こったかすぐには理解出来ないようで、茫然とその遣り取りを見て
いた。
「ロン、一つだけ忠告させてくれ。その杖は君には合わないかも。この戦いが終わったら新
しいのを買った方がいい」
「だな。僕もそう思ってたトコだ。ワームテールの杖じゃ、またいつ君達を裏切るか分かっ
たモンじゃない」
ロンはハリーに支えながら立ち上がり、ジョークとしてはちょっと笑えない事を言ってニヤ
リと笑った。
良かった・・・いつものロンだ。
ハリーは安堵した。
ヴォルデモートは狼狽していた。
「なぜだ・・・」
訳が分からない。
自分の放った「服従の呪文」が破れるなど・・・。
ハリーはヴォルデモートに向き直った。
「残念だったな、思惑がハズレて。だが、お前には理解出来ないだろうな。分かるはずも無
い。お前は可哀想な奴だ・・・リドル。お前は愛を知らない。そして友情を知らない」
向こうではロンがハーマイオニーや家族や仲間に迎えられ、頭を叩かれたり蹴りを入れられ
たりしている。
「僕とお前は・・・元々は似ていたかも知れない。けど、選択が違った。僕はお前の知らな
いものを沢山持っている。お前には・・・それが無い。だからお前は絶対に僕を倒せないんだ」
「何だと?」
ヴォルデモートの目が怒りでメラメラと燃えた。
「僕をお前の放った『死の呪文』から救ったのは母の愛だ。今、ロンを救ったのもやっぱり
『愛』だ。お前は持っていない。お前は一人ぼっちだ」
「愛が・・・何だと言う?なぜだ・・・え?なぜだ?」
ヴォルデモートは後ろを振り返った。
が、もう誰もヴォルデモートの側に馳せ参じている死食い人は居なかった。
気付けば、ヴォルデモートはたった一人になっていた。
ハリーは何だか今、少しだけヴォルデモートが一瞬の淋しさを感じたような気がした。
「最後、もう一度だけチャンスをやる。改心するんだ、リドル!そして、今まで自分が行っ
て来た事を本心から悔いて詫びろ!」
「馬鹿な・・・食らえっ!そして死ねっ!」
ヴォルデモートがアバダケダブラの呪文を繰り出した。
一方、ハリーは「死の呪文」を使わなかった。
なのに、恐ろしく凄まじい術が杖先から繰り出された。
どうしてこんなに強力な術が飛び出したか、ハリーには分からなかった。
しかし、凄まじい「武装解除」の呪文がハリーの杖先から飛び出した。
ハリーの呪文とヴォルデモートの呪文が激しくぶつかり合う。
強い光が辺りをカッと辺り一面照らし、まるで太陽の光を間近に感じる眩しさだ。
誰も目を開けて居られなかった。
ハリーは最後まで・・・最悪の者にさえ「死の呪文」を使う事は無かった。
おそらく、今後もその呪文を使う事は無いだろう。
ルーピンに以前呆れられた事があったが・・・ハリーはそれでいいと思っている。
何者に対しても・・・自分は「死の呪文」を使う事は無い。
「それが僕とアイツの違う所だ」と、ハリーは確信している。
ハリーの全身全霊の魔法力が大きな光になり、それが杖先から搾り出るように怒号を上げて
ヴォルデモートの繰り出したアバダケダブラを切り裂いた。
そして・・・再びみんなが目を開けた時、立っていたのは静かな表情のハリー・ポッターだ
った。
右手にドラコ・マルフォイの杖・・・そして、左手にはニワトコの杖を持っていた。
ハリーの親世代から続いた長い長い魔法使いの戦いは、こうして幕を閉じた。
みんながハリーを取り囲んだ。
知っている手が・・・そして知らない手が、代わる代わるにハリーの体に触れ、頭や肩や背
中を叩き、魔法界を救った英雄を称えた。
そして寮の垣根を飛び越えて、生徒達は抱き合い泣き崩れた。
「嬉しい事だって分かるけど・・・アタシだったら暫く一人になりたいな。ハリーもでしょ
?分かるモン」
ルーナがハリーの心を読んだ。
ハリーは確かに疲れていた。
今は、共に分霊箱を探す旅に出掛けていた二人の友とだけ居たい。
それに、三人で行かなくてはいけない所もある。
ジニーと抱き合いキスをしたい所だが・・・それはこれから沢山チャンスがある筈だ。
その際には、ロンに正式に挨拶しないといけない事になりそうだが・・・。
「待ってて!みんなの気を逸らせてあげる。うわぁーっ、見て!あんな所にブリバディ
ング・ハムディンガーが!」
みんながルーナの指さすそのナンチャラに一瞬気を取られた瞬間に、ハリーは「相変わらず
のルーナ」に可笑しくなりながら透明マントを羽織った。
「僕だよ。一緒に来てくれる?」
ハリーはロンとハーマイオニーにだけ聞こえる声で喋り、二人を校長室まで連れて行った。
校長室では歴代の校長が全員直立し、三人を拍手で迎え入れた。
ハリーは真っすぐ一人の肖像画の所に歩いた。
「アルバス・ダンブルドア」の肖像画の前だ。
ハリーは手を挙げて肖像画の中のみんなを制し、目の前の肖像画にだけ話し掛けた。
「先生・・・」
ダンブルドアは優しい眼差しをハリー達三人に向けていた。
「スニッチは森で落してしまいました。そして・・・僕、ニワトコの杖は元の場所に戻しま
す。この杖の持ち主が敗北しないまま自然に死を迎えれば・・・杖の力は破れるのでしょう
?」
ロンは何か言いたそうだったが、ハーマイオニーに足を踏まれ、超音波のような声を上げた。
「ごめんなさい・・・忘れてたわ」
「・・・忘れないで欲しいね」
ロンはピョンピョン跳ねている。
ダンブルドアが喋った。
「おお、そうじゃ。君は今日、一つ己の弱い部分を克服したのじゃ、ロン。自らの力でな」
ロンがそれに対し、首を振る。
「いいえ、そうじゃないと思います。僕、ハリーやハーマイオニーが居たから・・・」
「勿論そうじゃ。しかし、あの術は最終的には己との戦いじゃ。君はだから、結局は君自身
の力であの者からの術を逃れたと言う事になる」
ハリーはそれを聞いていて、自分が四年生の時「闇の魔術に対するの防衛術」の授業で、「
服従の呪文」を跳ね返してマッド・アイ・ムーディーに褒められた事が合った事を思い出した。
ロンは不安そうにダンブルドアに一つ訪ねた。
「あの・・・僕の足はずっと穴が開いたままですか?」
ダンブルドアは一瞬吹き出しそうな顔をしたが何とか咳払いで誤魔化し、チラリとハリーを
見た。
「その杖を元の場所に戻す前に、親友の足を元通りにしてやるくらいの『魔法』はいかがか
な、ハリー?」
「はは、そうですね」
ハリーはロンに向けてニワトコの杖を振った。
「あれ?」
ハリーの杖の先からは、どうした事か何事も起こらなかった。
「おいおい・・・冗談はよせよ?」
ロンが憤慨している。
「いや・・・どうしたんだろ?僕・・・」
ハリーは自分の手を確かめた。
ダンブルドアが少し悲しそうな目をしてハーマイオニーに言った。
「ハリーはどうやらかなり疲れておるようじゃ。ミス・グレンジャー・・・少し手つだって
あげてはどうかの?」
ハーマイオニーは校長との直接会話で嬉しくなったのか・・・少し涙が瞳に光った。
「せーの・・・」
ハリーとハーマイオニーがニワトコの杖を持ち、ロンの足を元通りにした。
「あ、ハーマイオニー・・・もう一回だけ君の力を借りてもいいかな?」
ハリーは懐から折れた自分の杖を取り出し、ニワトコの杖で「レパロ」の呪文をハーマイオ
ニーと共に掛けた。
不死鳥の杖が元通りに生き返り、ハリーはハーマイオニーを見つめた。
「覚えてる、ハーマイオニー?君が初めて僕に使った呪文だよ?」
「え?」
「君は僕の壊れたメガネを直してくれた。ホグワーツ特急の中で・・・」
「・・・ハリー・・・」
ハーマイオニーは突然泣き出した。
「おい、何泣かせてんだ、ハリー!」
ロンがハリーに食って掛かった。
「え、僕じゃないだろ、今のは・・・君も見てただろ?」
「いーや!ハーマイオニーが泣いてんだ!ハリーが悪い!」
「えぇ〜・・・」
ハリーは何が何だか意味が分からなかったが、ロンに詰め寄られ結局ハーマイオニーに謝る
羽目になった。
ハーマイオニーは・・・ただ単に懐かしくなっただけに違いない。
あのコンパートメントで出会った十一歳の自分達が数年後、こんなにも凄い事を成し遂げる
存在になるなど・・・あの頃には想像も付かなかった。
発音が下手で浮遊術の点数がいつもギリギリだったロン、魔法史の授業ではいつも眠ってい
たハリー、頭でっかちとガリ勉を冷やかされ続けたハーマイオニー・・・。
「・・・先生。私、魔法使いに生まれて良かったです。ホグワーツから手紙が届いた事・・
・本当に嬉しかったです」
ハーマイオニーはまだ涙でキラキラした瞳でダンブルドアの肖像画を見上げた。
「さぁ、それでは君もそろそろオーストラリアにご両親を探しに行く旅支度をせねばならん
のぅ、ミス・グレンジャー?」
「ですね。勿論・・・・・付き合ってくれるわよね、ハリー?ロン?」
ハーマイオニーの言い方は「ノー」を言わせない程の強さがあった。
「行くよ!勿論!」
「行くっきゃねーだろ?僕らはいつも一緒だ」
ダンブルドアは誇らしい目で、今一度三人の勇敢なグリフィンドール生を見下ろしていた。